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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第七幕『devil's disease』
135/150

本当の自分

 心奏(しおん)はヴィネから視線を外し、眠ったままの彼に目を向けた。

「僕も彼もまるで呪いのように演じていたんだ。ずっと、ね」

 心奏は彼の固く閉じられた目を見つめ、その後自身の手に視線を移した。

 白く細い腕に血管がよく見える、まさに彼と同じような肌だった。

「何が、どれが本当の僕だったのかな?」

 心奏は自身の頭をグルグルと回転させたが、これといった答えは見つからない。

 しかし、一つの終着点が心奏の中に現れ、それを心奏は口に出した。

「今こうして僕が()()を僕として理解出来なくなったとき……?」

 心奏がそう呟くと、ヴィネは心奏と彼を交互に見て俯いた。

 そして何も言えないといったように唇を噛んだ。

「僕は僕自身を保つためにずっと『()』という存在を演じていたんだよ。それは彼だったときも一緒」

 心奏がヴィネの手を取る。

「ヴィネ。僕は僕が分からないよ……」


「オレは心奏(アンタ)を知らない。だが、オレが知ってるアンタは少なくともずっと演じていた訳じゃない」

 暫く黙っていたヴィネだったが不意に口を開くと、そう心奏に告げた。

 そんなヴィネの唇は、彼が亡くなったあの時と同じように血がポタポタと垂れている。

「アンタはこの暗く狭い世界で過ごす内に、自分を見失ったんだ」

 ヴィネは心奏の方を真っ直ぐに見つめると、今にも泣き出しそうな心奏の頬に手を当てた。

「アンタは神父になったときや病に抗っていたときに、最初は自分を偽って演じていたかもしれない。だが、アンタが外の世界を見たいと言ったことも、役者になりたいと言ったことも、オレと過ごした日々も、全てが全て偽りだったとは、演技だったとは言わせない」

 ヴィネの言葉に心奏は目を見開いて、ヴィネから視線を外すように俯いたが、ヴィネに顔を掴まれ心奏はまたヴィネと目を合わせることになった。

「役者になったと伝えて来たときのアンタの嬉しそうな表情も、オレが薬を見せたときのアンタの安心したような表情も、全てが偽りだったなんてオレは思わない」

 ヴィネの真っ直ぐな言葉に、心奏の目からはこれまで流れなった涙がスーと一筋流れた。

 心奏のその涙を指で拭ったヴィネは、心奏を愛おしそうな瞳で見つめ微笑んだ。

「オレが見てきたアンタは、嬉しければ笑って悲しければ泣いて、感情をしっかりと表に出す。誰よりも人間らしい人間だ」

 心奏が唇を強く噛む。

 そのせいでツーと心奏の唇から血が流れた。

「アンタ自身のことが分かんねぇなら、オレが教えてやるよ」

 そんな心奏の血をヴィネは親指で拭うと、自身の血が垂れる唇に心奏の血が付いた親指を擦り付けた。

 ヴィネの唇は血が付いて口紅を塗ったあとのように鮮やかな赤色に染まっている。

「アンタは心奏(シオン)。世界中の誰よりも世界を愛し、世界に夢を馳せ続けるオレの相棒だよ」

 ニッと口角を上げるヴィネとは対象的に、ヴィネを見つめたまま静かに涙を流す心奏はどこか晴やかな表情をしていた。

「だから、アンタであろうとオレの相棒を悪く言うのは許さねぇぞ」

 冗談交じりにそう言って笑うヴィネを見て、心奏も思わず声を上げて笑ったのだった。

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