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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第七幕『devil's disease』
134/150

本当の自分?

「ぼ、く……?」


 心奏(しおん)は部屋に置かれたあるものを見て思わず声を上げた。

 それもそのはず。

 地下室の中央に置かれたガラスのケースに、“シオン・アズラエル”の姿があった。

 彼は眠っているように穏やかな表情で寝かされており、まるでこの部屋だけ時間が経っていないかのようだった。

 神聖さを纏う彼を、心奏はどこか不気味さを帯びていた。

「そう、コレはアンタだ。正しくは昔のアンタだがな」

 ヴィネはケースの近くに行くと、ガラスに手を当てて心奏の方を見た。

「近くで見たらどうだ?過去の自分の姿なんて見る機会はそうそうないだろ」

 ヴィネがそう言うと、ゴクンと心奏は唾を飲み込みガラスのケースに近付いた。

 見れば見るほど、彼は亡くなっているとは思えないくらい美しい状態で眠っている。

「なんで、彼はこんなに……」

「あのままなのか、って?」

 心奏の言葉を補うように言葉を紡いだヴィネに向かって、心奏はコクンと頷いた。

 ヴィネは心奏を一瞥し彼に視線を移すと、彼の頭を撫でるようにガラスに指を走らせた。

「病のせいだよ。コレは身体が病に対応していなかった訳じゃなかったんだ。正しくは……」

 そこまで言うとヴィネは口を噤んだ。

 しかし、その先の言葉がいとも容易く想像出来た心奏は、ヴィネが口を開かないことを見て、心奏が続きを言った。

「正しくは、精神が病に対応していなかった。でしょ……?」

 心奏の言葉にヴィネは目を見開いていたが、苦虫を噛み潰したように眉をひそめると、ゆっくりと瞬きを繰り返した。

 ヴィネのそれは肯定を意味していると思った心奏は、目の前で眠る彼に視線を送った。

 自身と同じ顔に、自身よりも長い髪と、カソックの袖から覗く細く白い肌。

 そして、白い肌なのにも関わらず、足首に付いている赤黒い痣のような痕。

 これが神や天使の姿だと言われても不思議ではないほど、彼は人間でありながら人間じゃないような雰囲気を纏っていた。

 そんな彼を見ていた心奏は、自身と彼を比べてとあることに気が付いた。


「そうか、僕はずっと前から演じてたんだ……」

 心奏がそう呟くとヴィネは心奏に視線を移し、心奏のただならぬ様子に眉間に皺を寄せた。

「研究を辞めざるおえなかったときも、村人達に神と崇められたときも、偽物の神父をしていたときも、君と出逢ったときも……!」

「心奏?」

 心奏が彼を見たまま声を荒らげる姿を見て、ヴィネは心奏の名前を呟いた。

 しかし、心奏はヴィネの呟きなど聞こえていないかのように声を荒らげ続ける。

「病気に苦しめられていたときも、記憶を失っていたときも!ずっとずっと前から僕は、道化師だったんだ!」

「おい……」

 心奏がヴィネを見る。

 声をかけたヴィネはビクッと身体を震わせると、真っ直ぐに見つめてくる心奏を見た。

「ずっと、演じていたんだよ」

 心奏の瞳は小刻みに震えていたが、その目から涙が溢れることはない。

 何か決意が籠ったような瞳だったが、心奏は哀しそうな顔でヴィネを見つめる。

「シオン・アズラエルの、神々(みわ)心奏の夢は叶ってたんだよ。ずっと昔から、無意識に……この病気と、闘うために…………ね」

「あぁ…」

 心奏が自暴自棄のようになっていることに気が付いたヴィネは、心奏の言葉を肯定しながらも心奏の頬に手を当てた。

 しかし心奏はヴィネの手を払い除け、真っ直ぐにヴィネを見つめた。

「ねぇ、ヴィネ。僕はもう……どれが本当の僕なのか分かんないよ」

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