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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
13/150

奏功のクッキー

 照明が点く。

 観客が舞台に視線を向けると、心奏(しおん)達は舞台上に一列に並び観客に向かって頭を下げた。

 その瞬間、劇場が拍手に包まれた。

 無事に演劇が奏功したのだ。


「「「ありがとうございました‼」」」


 文字通り『()()』だった。

 心奏は皆を欺きながらもシナリオを導き、羽音(ねお)は自身の持ち得る限りの技術でシナリオを支え、響彩(とあ)は皆を魅了する演技でシナリオを閉じた。

 心奏達が頭を上げると同時に、舞台の幕がゆっくりと閉じられていった。

 その間も拍手は止むことなく、幕が完全に閉じきっても尚、劇場内に鳴り響いているのだった。



「終わった……」

 心奏は楽屋に入ると顔についた汗を拭い、静かに微笑む。

 そして力が抜けたかのように、楽屋の隅にしゃがみ込んだ。

「何へばってんだよ。体力落ちたんじゃねぇのか?」

 羽音が心奏の前にしゃがみ、心奏の顔を覗き込みながら笑いかけた。

「ちょっと二人共、呑気に話してる暇あるならこっち手伝ってくれない?」

 響彩が小物の入ったダンボールを抱えて楽屋に入ってきた。

「はいはい、手伝ったらいいんだろ?心奏はもう少し休んでろ、な?」

 羽音がニカッと笑うと心奏の髪をくしゃくしゃと撫でる。

 そのまま響彩の隣を通り過ぎ、楽屋の扉を開けて出ていった。

「アイツ、変なとこ気が利くんだから」

「僕も手伝うのに……」

 心奏が響彩を困ったように見上げる。

「いいのよ。羽音と私に任せておいて」

 響彩がダンボールを机に置きながら、心奏に向けて微笑んだ。

 すると先程出ていった羽音が、ニコニコと笑いながら楽屋に戻ってきた。

「さっき廊下で支配人さんが、お疲れ様ってクッキーくれたんだよ。ちょっと食わねぇ?」

 羽音の手にはクッキーが入っているであろう箱が持たれている。

「片付けはどうすんのよ。まだ半分も終わってないけど?」

 響彩がムスッとした顔で腰に手を当て尋ねる。

 そんな響彩には目もくれず、羽音はパッと箱を開けクッキーの入った袋を取り出した。

「んなもん、後でやりゃいいんだって。心奏もそう……って大丈夫か?」

 羽音がクッキーを渡そうとして心奏に視線を向けると、心奏は肩を震わせて俯いていた。


「大丈夫だよ。ありがとう……二人が仲間で本当に良かった…」

 心奏はしゃがみ込んだままの姿勢で、目から大粒の涙を流し二人を見上げた。

 突然の事に驚いた羽音と響彩は目を丸くしたが、互いに顔を見合わせると微笑み心奏の方に向きなおった。

「当たり前だろ」

「当たり前じゃない」

 二人は同時にそう言った。

「じゃ。早めに食って、早めに片付けに戻ろうぜ。まぁ、スタッフさんがほとんどやってくれてるだろうが…」

 羽音が失笑しながらそう言うと、心奏と響彩が微笑む。

「うん。そうだね……」

 心奏は幸せを噛みしめるように微笑み、まだ涙が浮かぶその目を細めたのだった。



「よい演劇じゃったぞ。わしの見込んだ通りの実力じゃ」

 舞台裏から出てきた三人に志賀(しが)が声をかける。

(かなめ)センパイ。いつオレらの事見込んだんすか?オレ知らないんすけど……」

「私も初耳……」

「僕も……」

 羽音が志賀を見上げて嫌味ったらしく笑うと、響彩と心奏が続いた。

 そんな三人の様子に志賀は目元に手を当てながらトホホと嘘泣きのような仕草をする。

「えっ⁉……わし、信頼しておったのに。先輩は悲しいぞ」

「センパイが悲しかろうがなかろうが、オレらには関係ないんで」

 羽音が先程よりも悪い笑顔で志賀を覗き込む。

 その二人の様子に心奏と響彩が吹き出し、それにつられて羽音と志賀も微笑んだのだった。

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