パブロフノ犬
シオンがガードと呼んだ集団が教会から離れたあと、シオンがオレの方に振り返り少し苦笑した。
「すみません。咄嗟にああ言ってしまったんですが、間違ってはいませんから、許してください」
ああ。というのは専属の医者と言ったことだろう。
シオンにとっては正式には医者ではないが、医者のようなもの。といった意味では間違っていないという認識だったのだろう。
「別にいいさ。オレは気にしてないしな」
オレはそう言ってチャーチベンチに腰掛け、鞄を隣に置いた。
シオンはオレの言葉を聞くとパッと表情が明るくなり、講壇の方に駆け寄ると裏から何かが入ったバケットを持ってきた。
「これ、ヴィネのために村の子供達と一緒に作ったんです!食べてくれませんか?」
シオンが差し出したバケットを受け取り、中を覗くとそこにはゲベックが大量に入っていた。
「こんな大量に作ったのか⁉」
「作っていたら、楽しくなってしまって。いつの間にかこんなに出来てしまっていたんです」
シオンが申し訳なさそうに微笑んだ。
それを見て、オレはバケットの中に手を伸ばしゲベックを一枚取ると、それを口に運んだ。
サクッという音と共にゲベックが割れ、その瞬間に口に程よい甘みが広がる。
「うん。美味い」
オレがそう言うと、シオンが満面の笑みでオレを見て、オレの隣に腰掛けた。
そしてバケットの中から一枚ゲベックを取ると口に運んだ。
「そうですね」
「オレにくれたんじゃなかったのか?」
にこやかな表情のシオンにそうは言ったものの、正直この量を一人で食べるのは難しいと思っていたから、少しでもシオンが食べてくれるのは有り難い。
オレの言葉にモグモグと口を動かしながら目を丸くするシオンにオレは思わず吹き出した。
「冗談だよ」
オレの言葉に一喜一憂するシオンを見ていると、余程の箱入り息子だと伺える。
だが村の奴らの対応からして、このフワフワとした印象はシオンの元々の人柄なのだろう。
世界中の全ての人間がシオンのようならば、戦争も紛争も起こらないのに。
「どうかしました?」
ぼーっとしていたオレの顔を覗き込むようにして、シオンの心配そうな顔がオレの視界いっぱいに映り込む。
「いや、何でもねぇよ」
オレがそう言って笑うと、シオンは不思議そうに首を傾げた。
「そういや、アンタは何が好きなんだ?」
シオンはもっと不思議そうに目を丸くすると、ふふっと微笑んで少し頬を赤らめた。
「すごく贅沢なものだと思われるかもしれませんが、ボク、タルトが好物なんです。研究職に就いていたときに、休憩のお供としてよく食べていたんです。今はほとんど食べられませんが……」
シオンがそう言ってゲベックを口に入れた。
「じゃあ、明日タルトを買ってきてやるよ」
オレがそう言うとシオンが目を輝かせて、オレの目を見た。
「ぜひ。ぜひ、お願いします!もし可能であればブルーベリータルトで!」
シオンが子供のようにはしゃぐ中、オレは笑いながらそんなシオンを見て頷いたのだった。




