神父ガ隠シタカッタ事
結果から言うと、シオンはオレの提案を断った。
なぜか?と聞けば、村の人を困らせるから。というような自分の意思を全て無視したような理由だった。
オレはそんな自己犠牲の精神を持つシオンを放っておけず、教会の外に連れ出そうと腕を引いて扉まで連れていく。
シオンは教会の中でしか生活をしていないようで、オレの方が何倍も力が強く、シオンの腕を引くことも難しいことではなかった。
だが、シオンに着けられた足枷の鎖は教会からギリギリ出られない程の長さになっており、それ以上腕を引くことはシオンを傷付けることにも繋がると思い、腕を引くのを止め、教会の中に再度入った。
「この鎖、切ってもいいか?」
オレは懐に隠している短剣に手をかけながらシオンに尋ねると、シオンは首をブンブンと横に振った。
「駄目ですよ。コレはボクがここにいていい唯一の理由なんですから」
シオンの言葉を聞いて、オレはコイツと村の奴らには、些か複雑なしがらみがあることを感じ取った。
そのしがらみが何なのかをはっきりさせるため、オレはシオンの腕を引いて教会のチャーチベンチに座らせた。
「それはどういうことだ?アンタがここにいても別にいいだろうが」
オレの言葉にシオンは泣き出しそうな顔で唇を噛んだ。
「ボクは皆の神父様でいなくちゃいけませんから……」
「…………何だそれ」
オレが思っていたよりもずっと、コイツは自分勝手とは程遠い人物なのだと、このとき思った。
そろそろ日も落ちてきて、教会の中が段々と暗くなってきている。
シオンもその暗闇が気になったようで、オレの手を優しく避け、カソックの中からマッチを取り出すと教会の中の蝋燭に火を灯し始める。
その瞬間に教会の扉が開き、爺さんが果物の乗ったバスケットを持って入ってきた。
それを見て、オレは咄嗟にベンチの影に隠れる。
「神様、今日の捧げものでございます。どうぞ、お受け取りください」
それを聞いた瞬間、シオンは目を変えて爺さんに走り寄ると、オレがいるはずであるこちらを見た。
だが、オレがいないことを確認すると、緊張の糸が切れたかのように息を吐いた。
「どうかされましたか?」
爺さんの言葉にシオンはビクッと身体を震わせたが、最初に会ったときと同じような嘘臭い微笑みを浮かべて、爺さんの手からバスケットを受け取った。
「いえ、何でもありませんよ。こちら、ありがとうございます」
シオンがまた微笑むと、爺さんはシオンのバスケットを持つ手を撫でた。
その動きはどこかいやらしく、シオンも少し嫌がっているように見えた。
「では、これで失礼します」
「えぇ。アナタにも神のご加護があらんことを……」
爺さんが教会から出ていくと、シオンはその扉に倒れるようにしてため息をついた。
「神様って、どういうことだ?」
オレはベンチの影から出て、ベンチに体重をかけるようにして肘をついてシオンに声をかけた。
シオンは身体をビクッと震わせると、勢いよくこちらに振り向いた。
目を見開き、バスケットを落としそうなほど震えてこちらを見つめるシオンは、まさに絶望しているような顔をしていた。




