演劇『願いを叶えた二匹の妖怪』
響彩「アナタ達はいったい誰?」
心奏「僕は九尾の狐。彼は烏天狗だよ」
羽音「封印を解きし少女よ。オレ達の願いを聞いてはくれないか?」
響彩「願い?」
心奏「僕らはこの神社を護っていた二匹の妖怪なんだ。ある日、僕らは陰陽師を名乗る者に封印された」
羽音「人々の平和を願っていたオレ達を、だ。そいつらは陰陽師なんかじゃなかったんだよ」
烏天狗がパチンッと指を鳴らすと、少女の前に四角いモニターのようなものが現れました。
そのモニターに一人の男性が映し出されます。
少女はその男性に見覚えがありました。
その男性は神社を取り囲む村の村長でした。
少女はそのことを二匹に伝えました。
羽音「オレ達を封印してすぐに村の村長になったのか?」
心奏「狙いはこの村なのかもね」
羽音「どうすんだ?」
九尾の狐は顎に手を当てて考えたあと、少女に視線を移しました。
少女は九尾の狐の鋭い視線に、一歩後退りました。
しかし、少女が思っていたようなことは起こらず、九尾の狐は身体ごと少女の方に向けると、そのまま頭を下げました。
烏天狗も九尾の狐に続きます。
心奏「どうか。どうか僕らと共に村を助けてくれないか」
羽音「頼む」
響彩「えっ。ちょ、ちょっと、頭を上げてください!」
少女は慌てて二匹に近寄りましたが、二匹はそのまま頭を下げ続けていました。
二匹が一向に動く気配がなく、心配になってきた少女は渋々口を開きました。
響彩「分かった!分かりましたから!」
心奏「ありがとう!じゃあさっそく……」
九尾の狐は少女の右手を取ると、手の甲に軽く唇を落としました。
すると、少女の手の甲には淡く光る狐の紋様が現れて、すぐに消えました。
響彩「これは?」
心奏「友達の証だよ」
響彩「そんなものをどうして?」
羽音「そうした方が、オレ達があんたを護りやすくなるんだ」
烏天狗はそう言って、今度は少女の左手に唇を落としました。
少女の手の甲に烏の紋様が浮き出て消えると、九尾の狐が少女の手を取り神社の外に出ようとしました。
響彩「どこに行くの⁉」
心奏「どこにって、そりゃ村長のところだよ」
響彩「今行って何が出来るっていうの⁉また封印されておしまいじゃない!」
羽音「そんなことない。オレ達には考えがある」
心奏「君が無事なら僕らの考えは成功する」
烏天狗と九尾の狐の言葉に流され、少女は神社を後にしたのでした。
二匹の妖怪に促され辿りついた村長の家の前には、多くの人が集まっていました。
響彩「どういうこと?」
羽音「やっぱり仲間を集めてやがったか」
響彩「どうするの⁉これじゃあ……」
心奏「大丈夫。君は少し…休んでいて……」
九尾の狐が少女の視界を遮るように手を当てると、少女の意識は薄れていきました。
少女が目覚めると、そこにはもう村長も二匹の妖怪も居ませんでした。
それどころか、そこは村長の家などではなく自身の家の一室でした。
響彩「えっ、どうして……?」
??「おーい!」
少女がそう言って飛び起きた瞬間、誰かが少女のことを呼びました。
その声の方へ少女が振り向くと、裏庭に九尾の狐に似た少年と烏天狗に似た少年が立っていました。
心奏「今日は神社で遊ぶって言ったでしょ?」
響彩「えっ、九尾の狐⁉」
羽音「何言ってんだ?」
その言葉に少女がハッとして再度二人を見ると、その二人はよく一緒に遊んでいる友達の少年達でした。
少女が二人をジッと見つめていると、二人は不思議そうに首を傾げました。
響彩「ごめんなさい。ちょっと夢を見ていたの」
心奏「それはそれは、面白そうな夢だね」
羽音「全く、しっかりしてほしいぜ」
響彩「ふふっ。ごめんなさい」
三人は笑い合うと、神社に向かって走って行ったのでした。
これは一人の少女と二匹の妖怪の不思議な物語。




