EP.4『ひとりぼっちの道化師』
「Ladies&Gentleman。足を止めてくださってありがとうございます。さぁ、ひとりぼっちの劇の始まり、始まり……」
とある大きな十字路でピエロの仮面を被った一人の少年が大きな声を張り上げていた。
少年は自身の身の丈よりも大きなコートを着ており、身振り手振りで周りで歩く人達の目を引いていた。
「あるところに一人の道化師がおりました。道化師は身体が弱く、いつも一人でした。そんなある日、村に旅する劇団がやってきました。劇団の演劇を見た村の人々はたちまち笑顔になり、動きにくい身体を引きずって見に行った道化師もまた、その演劇に心を奪われました。道化師は思いました」
――僕もあんな演劇がしてみたい。
「道化師は旅する劇団を真似て、幾日も演劇の練習をしました。そうしてある日、村の人々に自身の渾身の演劇を見せました。すると……」
そこまで言った少年は、突然胸を抑えて語りを中断させた。
見ていた人々はそれぞれに少年の身を案じたが、すぐに少年はパッと明るく身体を起こした。
「この続きは皆様のご想像におまかせ致します。演劇を成功させるも良し、失敗させるも良し。そして仲間を持たせるのも良しです」
少年が晴れやかにそう言うと、少年は優雅にお辞儀をした。
足を止めて見ていた人々は、その少年に拍手を送った。
「それでは、またいつか会いましょう!」
そう言って少年は細い路地裏に消えていった。
少年は何度もピエロの仮面を被って、色々なお話を大きな十字路で語っていた。
だからか、少年のファンがいつの間にか増えており、その大きな十字路では、少年とそのファンが名物となっていた。
とある日、少年はとある劇団に声をかけられた。
「我々と一緒に劇をやらないか?」
その言葉を聞いた少年は、静かに顔を横に振った。
少年の反応に劇団員は不思議そうにしていた。
それもそうだ。
その劇団は、その地域ではとても名のある劇団だったのだ。
「僕には、遠くで待っている仲間が居るんです。だから、貴方の誘いは受けられません」
少年はそう言って微笑んだ。
仮面で表情が見えるはずもないのに、少年は確かに微笑んだのだ。
それほどまでに少年の行動や言動、言葉の抑揚などは洗礼されていた。
それから、その地域で少年はこう呼ばれることになった。
『ひとりぼっちの道化師』と――。




