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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
10/150

神を導く者

――演劇本番当日早朝。

「これはそっち。これはそこ。で…」

 心奏(しおん)が慌ただしく、小道具を移動させていた。

 化粧室の隣を心奏が通りかかった時、不意に扉が開き響彩(とあ)が顔を覗かせた。

「心奏。衣装が解れたり、小道具が壊れたりしてない?」

「僕は特に問題ないよ」

 心奏が荷物を持ち、響彩の前を通り過ぎながら答えた。

羽音(ねお)は?」

 響彩が小道具を運ぶ心奏を横目に、舞台袖の通路の隅に座り込んでいる羽音に声をかける。

「オレも問題ない。あとはコイツを確認すれば…」

 羽音は小さなフクロウ型のロボットをいじっていた。

 ロボットに何かを入力した後、フタを閉じて「終わった」と呟く。

 心奏が奥からダンボール箱を流れるように持ってくると羽音の隣に置き、その近くにあった小さな鞄を持って、また通路の奥へと小走りで消えていく。

「よし。すべての小道具が指定の位置にセット出来たよ」

 暫くすると心奏が奥から服のホコリを落としながら出てきた。

 そのまま舞台上に歩み出ると、憧れるような目で舞台を見回す。

「僕らは世界に通じる劇団になれるよ」

 心奏は満席になるであろう客席の方を見つめ、両手を目一杯広げた。

 そして二人の方に振り返り、満面の笑顔を見せた。

「僕らが……『神garu(神を導く者)』だ!」



 劇場内が賑やかになり出し、舞台裏ではスタッフさんと思われる人達が目まぐるしく動いている。

 心奏達三人は衣装に着替え、客席と舞台を隔てている幕を少しだけ開き覗き込んでいた。

 客席は満席。1階の前列から後列、2階の隅々までお客さんで埋まっている。

「いよいよ…だな」

 羽音が呟いた。

「うん。絶対に成功させる。僕達がユニットを組んですぐのときからのお客さんも多い。成長した姿を見せないと……」

 心奏が客席をキラキラとした目で見つめる。

 その目には期待や希望だけでなく、これまでの苦労や頑張りまでもを映しているようだった。

「これまでの練習を無駄にしないように、ね」

 響彩が心奏と羽音を見上げ、最終確認のように目を合わせる。

「本番三分前でーす!神garu(シングル)の皆さんは準備してくださーい!」

 劇場のスタッフさんの一人が心奏達に向かって呼びかける。

 心奏達は互いに顔を見つめると、同時に頷きスタッフさんの方を向いた。

「「「はい!」」」


 いつもとは違う大きな劇場。いつもとは違うお客さんの数。そして、いつもと変わらない衣装と大切なメンバー。

 幕が上がった舞台に観客が割れんばかりの拍手を送る。

 その舞台の中央に佇むのは、心奏一人のみ。

 拍手の中、心奏は優雅にお辞儀をすると、堂々とした一歩を踏み出す。

 そして、どの客席からも見えるような位置に移動し、観客に向かって両手を伸ばした。


「Ladies&Gentleman!本日は僕たち神garuの演劇へようこそお越しくださいました!」


 スポットライトが心奏に集まる。

 心奏の声は大きな拍手を前にしても尚、客席に届くほど大きく透き通った声だった。

 その一声を合図に拍手が止み、代わりに期待を含んだ眼差しが心奏に降り注ぐ。


「本日の劇は魔法使いと騎士と魔王が織り成す、立派な成長劇」


 息を吸い、息を吐き、また吸い込んだ。

 劇場内に充満する緊張感や期待も、心奏にとっては一種の演出にすぎなかった。

 この場では劇場内に存在する全てが劇の一部なのだ。

 心奏が沈黙した時間は一瞬であったが、その一瞬こそが観客を演劇の世界に落とし込んだ。


「どうぞ最後までお楽しみください」

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