子猫の3兄妹 お正月
とら:
行きかう人の足の動きが早かった。いつもなら、僕たちの鳴き声に足を止める人がいるというのに、今日は誰も足を止めなかった。
僕たちは、腹の虫が鳴けないくらい、お腹が減っていた。いつもなら、鳴いていれば、目の前に食べ物が現れるというのに。
白い猫が前足を挙げて招いていた。白い猫の前には、食べ物があった。僕は、恐る恐る近づいた。彼こそは、猫に満腹をもたらす伝説の猫「招き猫」だった。
僕が食べようとした瞬間、夜の静寂を破り、除夜の鐘が鳴った。僕は驚き、駆け出した。
寝床の土管の中。僕たちは、寒さと空腹で元気をなくしていた。幻を見るくらいに。
目の前の男も幻だろう。僕に触れる手も。そして、目の前に現れたミルクも。体を包む暖かさも。
しろ:
「にゃ~ご」。どうして、わたしに気づいてくれないの。
美声と、色白の毛並みの魅力で、食べ物をもらえるのに、今日はだめみたい。
わたしは、近くの家を覗いてみる。見慣れない白いお餅が置いてある。もしかして、ライバル登場?
引っかいてみる。固い。白さは、まずまず。でも、こんなに固いのがいいの。わたしの方が柔らかくていいはず。お餅さん、無口だから、つまんないと思うけどな。
「ご~ん」大きな音。びっくりするじゃない。わたしは、思わず、逃げ出した。
気づけば、土管の中。あれは、夢?
誰かが見ている。温かい視線を感じる。わたしは安心して目を閉じる。
ミケ:
師走って、みんな忙しいようです。きっと、みんな先生なのです。
ミケに食べ物を与える仕事を忘れるなんて、ひどい先生です。それとも、先生の頭に駆け上がった罰ですか。食事を抜くなんて、体罰はいけません。子猫虐待は重い罪です。
ミケの目に、神社のキューピットの矢が映ります。そうです。あれで人のハートを射止めれば、ミケは立派な飼い猫です。がんばります。
矢をくわえた瞬間、大きな音がしました。これは、破魔矢です。逃げます。
目を開けたまま寝るなんて、ミケは器用です。
男性が、こちらを見ています。でも、ひと鳴きの力しかありません。
「キューピットの矢は当たりましたか」
ある家の中。またたびの門松にからんでいる3匹の子猫の元気な姿があった。