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4-02 スクラップ&ブック

──5月の大型連休が近づく中、女子高生の間で自殺が流行っていた。


主人公・あらたは、根暗な女子高生。イラストを描くのが趣味だ。

趣味三昧で過ごそうと決めた連休前夜、あらたは公園で、天使と自殺を目撃してしまう。


衝撃の現実に気を失ったあらたを助けたのは、オリキャラと同じ名前&見た目のショウ。


その彼が、目覚めたあらたに唐突に告げる。


「僕は黒魔女なんだけど、その見習いにならない?」


なし崩しで始まった黒魔女見習いだが、その仕事は、人を本にし、その本の記憶と戦うというもの。


あらたは、自身の特技である絵を描くことで、ショウと一緒に戦っていくが、人の弱さと強さ、そして、真の敵を見つけていく。


それは、自身の『忘れた過去』と『家族』を知ることにも──


今、あらたのページが開かれる。

心ゆさぶるダークファンタジーが、始まった。

 昼休み、私は今年から高校生になっても一人でお弁当をつつきながら、女子が話す明日からのゴールデンウィークの予定に、じっと耳を澄ましている。


「連休の遊びの話、親、めっちゃうるさくて」

「無視だって、無視」

「最近、自殺多いからかさ〜」

「それな」


 スマホを立ちあげつつ、断る材料がないかと耳を澄ましていたのだが、彼氏・バイト・スイーツ・自殺ばかりで、私が口に出すには、どれも重すぎる。


 画面のメッセージの送信者は『妹』。

 同じメッセージが並ぶ。

 もう10日目だ。


<あらたお姉ちゃん、寮の生活はどう?>

<ゴールデンウィーク、帰ってくるよね?>


「……私は帰れないって」


 思わず呟いてしまったが、あの日がフラッシュバックする。


 ──今年の1月から、私には新しい『家族』ができた。

 母方の遠い親戚だというが、私には確かめる術がない。

 なぜなら、病院で目覚めたその日より前の『家族に関わる記憶』だけが、ないからだ。


 新しい両親曰く、私と本当の両親は事故に遭い、両親だけ死亡。

 私は奇跡的に生き残り、家族の記憶だけショックで無くしてしまったという。

 提示された資料に不足はなく、私は退院して、すぐに彼らと暮らすことになった。


 暮らし始めた13日目、妹が飼っているハムスターを見せてくれるという。


「お姉ちゃん、ハムちゃんだよ。なでてあげて」


 私は言われた通り、ハムスターをなでようと手を伸ばす。

 瞬間、手から黒いモヤが溢れ、ハムスターを包んでいく。

 何が起こったかわからないまま固まる私を無視し、妹はニタニタしながら、ハムスターをしまいに行った。


 そのあとすぐに夕食となり、あの黒いモヤも私の思い違いだと思っていた。


 朝、起きて、リビングに向かったとき、すでに3人は起きていた。

 楽しそうな声に、私は入るきっかけがつかめず、薄くドアを開いて覗き込んだ。


 ハムスターのゲージがある。

 妹がハムスターをつかんで両親に掲げた。


「死んじゃった」


 妹の明るい声。

 父は嬉しそうに妹の頭を撫でる。


「次は約束してた猫を飼おうか」


 母はその提案に喜んで手を叩く。


「子猫にしましょう、子猫」


 ドアが、軋む音を立てて大きく開いていく。

 私を見つけた妹が、心底嬉しそうに言った。


「お姉ちゃん、次、子猫だって!」


 私は逃げるように部屋に駆け戻っていた────


 あの日から始まった手のモヤに舌打ちしつつ、3人の異様な笑顔に身震いしたとき、後ろから抱きつかれた。

 白鳥クララだ。

 日本人とイギリス人のハーフで、色白の肌と日光のような金髪が、淡い青い目によく映える。

 ファッションセンスも良く、ありきたりなブレザー制服をギャルっぽく可愛く着こなす、学年のアイドルだ。


 本来なら、私みたいな黒髪に黒マスク、さらにら黒手袋をはめて、ダサい長めのスカートを揺らす生徒なんかと接点はない。

 しかし、同じ寮生でもある彼女は、妄想の産物の具現化・オタクに優しいギャルなのだ!

 本当にクララがいてくれて良かった……

 クララがいなかったら、それこそ今の流行りみたいに……──


「あらた、悩んでる?」

「……あ、えっと、」

「あたしが選んであげるね。これ、ショウのキャラにめっちゃ似合うと思う!」


 クララはノートにいくつか描いたラフのなかの、軍服風衣装を指差した。

 私はイラストを描く趣味がある。

 家族の記憶がなくても、描くことを忘れなかったのは、オタクの鑑として誇れると思う。


 クララは、服の色は白がいいと言いながら、私の肩に腕を回す。

 恐る恐る彼女の腕に手を添えるが、クララには黒いモヤがかからない。かかった人はもれなく具合を悪くするのに、だ。


「家族の匂いー」


 クララは、私の首筋の匂いを嗅いで、幸せそうに微笑んだ。

 石鹸が同じなのかと思っているが、周りの人たちは呆れている。


「変態ごっこしないの」

「俺のほうがいい匂いだって」


 彼らの声かけに、クララは叫ぶ。


「あたし、あらたのこと好き。家族と似た匂いだし!」


 本当に嬉しそうに嗅ぐ彼女が少し怖いが、彼女が優しく笑ってくれるだけで、私は救われてしまう。


「……クララとなら家族になりたいな、私」

「ほんとー?」


 目を合わせて、微笑んでくれるクララが居るだけで、私は生きていける。

 学校に来る理由に、明日を生きる理由になる。




 帰りのホームルームで、担任の佐々木先生が教室の教壇に立つと、


「ハメを外しすぎないように。……あと、死ぬなよー?」


 茶化して言うことかと私は思うが、みんなはケラケラ笑っている。少し不気味でついていけない。

 玄関で靴を履き替えていると、クララと根暗な見た目の女子が校舎の裏へ歩いていくのを見つけてしまった。

 腕を組んで仲良しそうだ。


(……連休はイラスト三昧にしよ!)


 私はやりたいことに意識を向けることにした。

 これが一番いい。妬まなくていいし、寂しくもない。


 寮はグラウンドを挟んで隣にある。

 個室になっているのが良く、私はこの寮を選んだ。

 お風呂はシャワー室もあり、身体をみんなに見せなくていいのも高ポイントだ。


 ガラス戸を開き、スリッパへ履き替えながら、


「ただいま」


 エプロンで手を拭きながら寮母が玄関に顔を出した。


「あー、夕飯、牛丼、あっためて」


 言いながらキッチンに向かう寮母の丸い背中が見える。


「今日から次の日曜まであんたとクララちゃんだけだから。あたし、明日の昼には戻るわ。朝ごはんは冷蔵庫のパンね」


 私は返事をしたが、聞こえなかったようだ。

 睨まれるが、そのまま無視して2階の部屋へいく。

 私の部屋は一番奥。北側で日当たりがあまり良くない。

 向かいのクララの部屋は南側で日当たりがいいらしい。


 鍵を開け部屋に入ると、湿気った空気が充ちている。

 黄色のカーテンをあけ、空気の入れ替えをしながら水玉のベッドカバーにリュックを投げた。そこからラフを描いたノートを取り出し、机に開く。


 机はアンティークの瓶や小物を並べたお気に入りのスペース。

 それ以外は、今の母の趣味だ。

 新しい家族を一部屋で表してるみたいで、いまだにここに慣れていない。


 黒のスエットに着替えると、私はペンタブの電源を入れた。


「……よし、描くぞぉ」


 ヘッドホンをつけ、好きな音楽を聴きながら絵を描く時間が一番幸せ!

 ひと段落と、顔を上げたとき、部屋が暗い。

 スマホの時刻は、20時37分。

 廊下を出ると静まり返っている。誰もいないのがよくわかる。

 それはクララもだ。部屋の灯りがない。


(私もコンビニ行こ。牛丼嫌いだし)


 財布とスマホをボディバックに入れ、マスクと手袋をはめると、手早く外へと出た。

 途中、公園を突っ切っていく。

 ここを通るとコンビニの近道になるからだ。


 街灯のない公園の奥から、淡い光りが放たれている。


 誰かいる……?


 覗き込むように見たとき、白く光る人影が目に入った。

 私は息をのむ。


 ……天使だ。

 天使がいる──!


 修道女風魔法少女ぽい服を着た、可愛らしい金髪の天使が微笑み浮かんでいる。

 その肩には白いカラスが……!


 なんで、ペンとメモ帳を持ってこなかったんだ!

 妄想が爆発しそう!!


 浮いたまま歩く天使がくるりと回る。

 地面に両ひざを着く女の子が現れた。

 それは下校の時に、クララと一緒にいた根暗女子だ。


 不思議に思いながらも眺めていると、天使がその子に手をかざす。

 瞬間、その子が眩く輝き、大きく真っ白な本に変化した。

 天使は優雅にページをめくりつつ、指を鳴らして万年筆を出現させると、楽しそうに本に書き込み、バタンと閉じる。

 すぐに本から光が溢れ、根暗女子へと姿が戻った。


「さあ、したいことは?」


 天使は張りのある強めの声で言うと、その子は地面に置いてある鎖を手に取り、ブランコに歩いていく。

 鎖は端々に輪があり、それをブランコを下げるポールにかけた。

 輪っかが2個ぶら下がったのを確認して、その子は座面に立つようにブランコに乗ると、胸より下にある2個の輪に首をかける。

 次に膝を曲げ、座面に腰を落とすように足を前へ放り投げた。


 浮かんだ体。

 輪に絡まる首。

 大きくもがく手。

 首がぐんと、伸びた。


 すとんと彼女はブランコに腰を下ろす。

 漕いでもいないのにゆっくりと揺れだした。


 天使は微笑みながら消えていった────


 信じられない。

 好奇心なのか、足が向かう。

 月明かりがブランコを照らしたとき、私は後悔した。


 真っ青な顔で舌をでろんと落とす根暗女子がいる。

 顔と首には引っ掻き傷が浮き、膨れ上がった顔からは目がこぼれそうだ。


 吐き気と眩暈が脳を揺さぶる。

 地面に顔面がぶつかった。

 足音が聞こえる。


「マジでー?」


 若い男の声と共に人影が私にかかる。


「モルモル、もう死んでるじゃん。来たの無駄じゃん!」

「怒るなよ。ショウはいっつも無駄無駄言うけど、相手が白魔女ってのが分かっただけ収穫だろ?」


 ギリギリの意識のなかでやりとりが見えるが、男性の横に継ぎ接ぎの猫のぬいぐるみが浮いている。

 コレとしゃべって……?

 そのぬいぐるみが、私にすいっと近づいてくる。


「こいつ、どーする?」

「……なんでいるの?」

「しらねーよ!」


 私の顔を覗き込んだ男の顔がはっきり見えた。

 オリキャラのショウにそっくりだ。

 私は目を開けたまま気を失った。

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