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第9話 縛られない善悪

 スカイラーが立ち去って程なくすると、オズが駆け足で来た。

「ごめん、呼んできながら遅くなって。テッツーから連絡が来て遅くなったんだ」

 オズはノボルの表情が暗いことを感じ

「どうしたんだ?」

「……スカイラーが来たんだ」

 オズはスカイラーのことについてノボルが何も知らないと思い、どう言おうか考えていると

「準備は着々と進んでるって……」

「聞いたのか?」

「全部では無いけど」

「そうか……。ということは、カケル組がこの街に到着したのか。意外と早かったな」

「どうするの?」

 ノボルの質問にオズは困った。ノボルが要求する”どうするの?”ということの意味を()み取れなかったからだ。今後の旅の動きか、俺たちの行動か、それとも……。旅の動きはイベントのことだ。俺たちの行動は、”外界街(イディオタガイ)”の捕まったメンバーを救出する行動。それ以外にも、考えようと思えば考えられる。

「俺が言ったボスは存在しない。スカイラーと2人で相談して調節し合っているが、行動を渋る理由をメンバーに言っても仕方ないだろ。だって、この調節は救出のためにしているのであって、関係の無いメンバーに言っても無理だと思ったからだ」

 結局、オズは両方を話すことにした。

「だから、ボスがいることにしてボスからの命令だと俺が言うことで、リーダーとしてメンバーを操れるんだ」

「でも、それだと」

 関係ない仲間を巻き込んで、そこまで言おうとしたが僕は声が出なかった。

「そうだ。俺は仲間に嘘をついている。そんなヤツにリーダーなんて資格は無い。でもこうするしか無かった。おそらく、チャンスはこれが最初で最後なんだ」

 オズの言葉に、僕は何も言わなくなった。

「そうはいっても、少なくともローブレットとキローヌは感付いていると思う。だけど何も言ってこない……」

 ローブレットが言った『このメンツはワケありのヤツばかりだ』というセリフが頭をよぎった。敢えて聞かないのか。それは信頼しているということか? 答えは不明。

「明日、パダ島から沖合10kmのところにジャーグルが住み着いているという場所がある。そこへ行って、”哀”の宝玉を手に入れる」

 そういって、オズは民宿へ戻る。少しして足が止まり

「この情報はテッツーからもらったものだ。俺の推測だが、テッツーはアイツじゃ無いかと思う」

 オズの言うアイツ。僕はすぐに分かった。……ニール。

「情報は伝書鳩で来ている。だが、今回の手紙には血が付いていた……。多分、兵士か誰かに気付かれて傷を負ったのかもしれない」

 オズは前へ歩き出し、

「俺は仲間を救う。どんなことをしても」

 僕はそのオズを追いかけられなかった。昔のオズとは違う。そんな異質な部分に気付きたくなかった。


 日の出とともにオズとゼルデム、ローブレットが船を借りて出発した。僕は一緒に行かなかった。民宿で布団から出ること無く、オズの「出発するぞ」という誘いを無言で拒否した。

「何で残ったの?」

 布団から出ることなく、残ったキローヌに問い掛ける。だが、依然として無言だ。

「何で?」

 しつこく聞いても一言も喋らない。フードがけの時があれば、仮面を付けているときもある。よほど素顔を隠したいらしい。

 僕は布団から出るつもりは無かったが、出ない理由も無く、無意味な時間を過ごした。廊下から何か聞こえる。聞いたことのある声だ。寝ようにも寝られない。布団から出ると、自分の寝癖のついた髪を触り、キローヌを見た。さっきから全然動いていない。座敷の端っこに座ったまま瞑想しているのか寝ているのか知らないが、動く気配がしない。素顔を見てやろうと少し近づくと、すぐさま剣に手を掛ける。おっかないやつだ。

 外の声が段々大きくなって聞き取れるぐらいになった。

「ここにいるんだな!」

 紛れもなく、カケルの声だ。

「ちょっと、カケル止めときなよ」

 カーミンがどうやら止めようとしているらしい。でも、そんなに簡単にやめるカケルのはずが無い。押しかけてきた。

 カケルはドアを開け、

「やいやい、どこにいる!?」

 ドアの向こうにはカーミン達が呆れたような表情をしている。

「何しに来たの?」

 今起きたかのような表情をして、僕はカケルに言った。カケルと会話で絡むのは初めてかもしれない。面倒だ。はやく帰ってくれ。

「ノボル!」

 うるさいよ。叫ばなくても聞こえてるって。何の用だよ?

「ごめん!!」

「え?」

 思わず声が出た。どうせ「何で裏切ったんだ!?」とか叫ぶと思っていたのに真逆のことを言って、さらに頭を下げている。

「俺が悪かった。お前の気持ちも知らずに」

 いや、別に知らなくても良いよ。絡むの嫌だし。疲れるから。

「ノボルがカケル組を脱退したのは、俺が原因なんだろ?」

 違うと答えようかと思ったが、それだと話がややこしくなるから僕は無言で聞く。というか、カケル組って自分で言うのかよ。

「俺は自分のことばかりで、仲間のことまで頭が回っていなかった」

 それは事実だ。否定はしない。

「俺、分かったんだ。1人じゃ何も出来ない。やっと分かったんだ」

 何があったか知らないが、どうやら謝りに来たようだ。もしや、よくあることで居なくなったあとに大切だったと思うとかいう現象か。つまり

「こっちに戻ってきてくれ」

 そうなるだろうな。何だかんだ言って、分かってないな。でもカケルなりに考えたんだろうな。もしかして、カケルから見たら僕は闇落ちした仲間で、それを救いに来たとか考えているのでは無いだろうか。少なからずその可能性はある。面倒なことになった。ここで仮に僕が「戻らないよ」と言ったら、必ずカケルは「お前は間違っている」とか言うのでは無いだろうか。キローヌを見ると、動きは無い。関わらないつもりか。ここで「そうはさせない」とか言って立ち上がって、ついでに剣を抜いてくれればカケルたちは退散するのではと考えるが、それだとオズ達が完全に悪役だ。

 上手い切り返しを考えるも、思いつかない。

 そうこうしているうちに、外から

「何してるのかなぁ? 他人の部屋に大勢で押しかけて」

 オズが釣り竿を担いで帰ってきた。

「カケル、帰ってきたみたい」

 と、カーミン。なお、部屋には入らない模様。部屋に上がり込んでいるのはカケルだけ。他は廊下にいる。

 オズは部屋に入ると釣り竿を置きながら

「何してんのかな?」

「ノボルに謝りに来た。それで戻ってきてもらう」

 オズはノボルの顔色をうかがい

「ノボルが困ってる。急に押しかけておいて、勝手に謝ってそれに戻って来いなんて、お前がされたらどう思う?」

 カケルは黙った。

「あのさぁ、ちゃんと考えて行動しないとそっちのメンバーも困ってるじゃん。分かったら、帰った帰った」

 カケルは何も言えず、立ち去るのか何かするのか葛藤しているのだろう。正直、流れ的に戦闘になりそうな雰囲気だ。

「決断できないのなら、こっちがここを去るぞ。戦うのならここだと迷惑になる。なんなら別の方法でもいいぞ」

 カケルがますます帰りづらいのでは、そう思った。仕方が無い

「すまないが、帰ってくれ」

 僕は助け船を出した。大人しくこれに乗って帰ってくれ。そうしないと、この場の空気に耐えられない。

 カケルはしょんぼりと部屋をあとにする。カケルには悪い事をした気がするが、やむを得ない。

 部屋の外に一歩出たとき、オズがカケルに

「こっちは”哀”の宝玉を手に入れた。近々、そっちと勝負することになるだろうな」


To be continued…


ノボルが流れに身を任せつつも、カケル組への戻りは否定したのは、一緒にいた時間の長いオズと共にいることを選択したからでしょう。カケルたちは、自分達なりに考えてノボルが戻ってくれるように説得するつもりだったようですが、そう簡単にはいかず。

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