第7話 フォルスネス
川を渡ってすぐの町、フィウーメ・リヴァーにて。
「あのさぁ、川を見て思ったんだが、フェリーが駄目でもボートなら行けるんじゃ無いか?」
カケルが閃いた。
「ボートって……、モーターボート?」
と心配そうなカーミン。
「海峡の距離は結構あるが、行けなくも無いだろうけど……」
リチューが徐に地図を出す。
「誰が運転するんだ?」
スカイラーから当然の質問。
「メカに強いメイルがいるだろ?」
カケルがメイルに話をするが、メカに強いのとモーターボートが運転できるのとは話が全然別問題だと思う。といっても、僕は口を出さないが。
「え? まぁ……メカに強いと言ったけど」
モーターボートは普通運転できないはずだ。
「一応、一通り乗り物の運転はしたことがあるけど……」
ちなみに、この国には運転免許は特にない。お金さえあれば運転できるのだ。交通手段なんて、大抵馬車だし、舗装や整備された道路や滑走路など少ないし。
「ボート屋を探すか」
カケルを誰も止めなかった。正直、みんな遠回りするのが辛いことを知っている。だから、止めない。そして、
「まぁ、こうなるわな」
と、リチュー。どうなったかというと、クルーザーで操縦者付き。ボート屋で”C.P.”と名乗り、操縦者で店主と揉めて、こうなった。操縦者の名前はとても長い名前で覚えそうにならないため、ほとんど二人称で会話していた。
フィウーメ・リヴァーの桟橋から川を下って海峡へ。1泊2日でクエバの町に到着した。
クエバの町で一頻り情報収集。その後、”怒”の宝玉を求めてクエバの洞窟へ。標高1100mにクエバの洞窟”ロッホ”はあった。ロッホは町から11km離れ、とにかく寒かった。そもそも、クエバの町の時点で雪がちらついていた。山だと時折吹雪が。
洞窟、ロッホの奥へ進むと広い空間に出た。それはいかにもモンスターが出てきそうで……
「来るぞ……」
カケルが剣を構える。
咆哮と共に姿を現したのは、アーネック。ファーグルドラゴンと大差ない大きさだ。近接攻撃はカケル担当。遠距離援護はカーミン、クート、リチュー、ノボルが銃などの武器で。補助はスカイラーの魔術。武器の入れ替えはメイルが担当。なんともアンバランスだがやむを得ない。
思うに、銃やバズーカ隊がこんなに多ければ、カケルが下手をすれば動けないのではと思うが、そこはスカイラーが何とかしてくれる。戦闘開始。
銃やバズーカ砲はアーネックに然程ダメージが無い。近接の攻撃も皮が厚くて弾かれる。
魔術に頼りっぱなしだ。こいつ、強くね?
「なんか、あんまり効いてないな……」
と、リチュー。銃に弾を装填するが、撃っても意味が無い。
入り口から足音が洞窟内に響く。足音が近づき、
「おっ、やってるやってる」
最初に現れたのはゼルデム。オズ組の到着だ。
「ん? あのアーネック、聞いた話と少し違わないか?」
疑問を抱いたローブレットにオズは
「亜種か?」
「邪魔すんじゃねーよ」
カケルはオズ組に喧嘩まっしぐら。
「これが本当にアーネックか?」
オズがカケル組に問い掛ける。
「これがアーネックじゃなきゃ、どれがアーネックになるんだ?」
カケルは剣を振りながら答えた。
(アーネックじゃない?)
僕は疑問に感じた。オズ達のもつ情報だと、アーネックの姿が違うのか? だとしたら、アーネックじゃないこいつは何者なんだ?
アーネックと思われたモンスターの姿は、地面を這う蛇のようで、大きさは12mほど。色は紫と黒が混じったような感じだ。
「アーネックは白と聞いたが……」
オズが呟くと、突然キローヌが飛び出す!
「おい!」
ゼルデムの声に耳を傾けること無く、キローヌはアーネックの正面へ。素早く、鞘から剣を出して左手で持ち、剣を振る。
「横取り」
するなと言おうとしたが、カケルはキローヌの戦い方に圧倒した。
アーネックの突進を避け、同じ部分に何度も、的確に攻撃している。
すると、アーネックが牙を剥け、紫色の煙を吐く。それは十中八九……
「毒だ!」
オズが叫ぶ。キローヌは既に猛毒を……、いや、アーネックの頭の上に飛び乗っており、頭を剣で突き刺す。
アーネックは暴れるが、キローヌは冷静に対処。しばらくして、弱まると黒い煙のようなものがアーネック体から吐き出され、体が白色に変化した。
「どういうこと?」
カーミンが呟くが、キローヌはその場を去ろうとする。
「待てよ!」
カケルが呼び止めようとするが、キローヌは止まらず。布で表情や体格も分からない。
アーネックは消え、宝箱が出現する。
「開けたらどうだ?」
オズがそういうけれど、そんな空気では無く
「お前らが横取りしたんだろ?」
カケルは剣をまだ仕舞っていない。
「カケル……」
カーミン達が喧嘩にならないように仲裁しようとするが、できず。
「あのアーネックは異常だ。何かが変だった。しかし、割り込んだのはすまない。”怒”の宝玉はそっちのものだ」
と、オズが言った。
「オズ、お前じゃ無い」
カケルが要求するのはキローヌの謝罪か?
「残念だが、キローヌは喋れない」
「だけど」
「カケル、お前だって、あいつとあのまま戦っていたら毒にやられて死んでいたかもしれないんだよ」
カーミンの言葉に、カケルは黙り込んだ。
オズは僕の方を見て、
「ノボル、こっちに来ないか?」
その言葉に僕でさえ、耳を疑った。
「え?」
思わず、声が出た。
「ちょっと、そんなこと」
カーミンの発言を最後まで聞かず、オズは
「こういったことは、イベントのルールには記載されてない。禁止されてない。こっちに来いよ、ノボル」
僕は戸惑っていた。本当にオズとまた一緒にいられるのか? もう独りぼっちじゃないのか? 迷う必要など無かった。だって、こっちにいる理由なんて無いし。許されるのなら、喜んでそっちに行くよ。
前に足を出そうとしたら、カケルが
「ノボル! 裏切るのか!?」
裏切る? 誰を?
「お前ら、勘違いしてないか? ノボルを仲間だと本当に思ってたのか?」
オズが言うと、
「お前に何が分かる!?」
「……じゃあ、お前たちにノボルの何が分かるんだ!? 裏切るなんてな、お前たちが言うにはまだ早すぎなんだよ!」
オズ、爆発寸前……。
「どうする?」
オズが問う。このときは、僕に問い掛けたものだと思っていたが、もう1人にも問い掛けていたことを知ったのは、少し後のことだった。
「僕の決断は、これだ」
前に歩む。カケル組のメンバーが何を言おうが、これは僕が決めたことだ。
オズと再会したノボルは、オズと共に歩むのであった……。
To be continued…
今回の話がタイトルの通り、やりたかったことです。主人公が裏切ることが題材です。ノボルにとって、カケル達は強制的に集められた他人であり、幼馴染みのオズのほうが知っているし、親しみやすいでしょう。ノボルがカケル組で唯一自分の意思で答えを出したところでもありますね。