第5話 接触と再会
翌朝。宿屋でチェックアウトの時、それは起こった。僕らの直前にチェックアウトする客、4人の会話に耳を疑った。
「それにしても、あんなに簡単に手に入るなんて、ビブラーブとかいう兵士は本当に60年も守っていたのかぁ?」
大柄の少年がそう言った。この男は紛れもなく、ゼルデムであり、
「毎回こんな簡単に手には入ったら、1ヶ月もかからないだろうな」
と、支払いをしながら言った少年はオズだ。
「おい、まさか……」
この会話に最も反応したのが、言わなくても分かるだろうが、そうカケルである。僕は別に何も思わなかった。好敵手ぐらいいても不思議では無い。”C.P.”の競争心を仰ぐことぐらいは、国王も考えているだろう。
4人は宿屋をあとにする。でもカケルが黙っているはずも無く、
「ちょっと待て!」
カケルを筆頭にカーミン、クート、メイル、スカイラー、そして僕が続く。なお、支払いはリチューが行っている。
「なんだ? お前たちは?」
ゼルデムが眼を飛ばす。すぐにオズが
「やめておけ、あいつらは”C.P.”だ。今戦ったところで、利点は無い」
「やいお前ら、もしかしてビブラーブが持っていた”喜”の宝玉を盗んだのはお前らか!?」
カケルが喧嘩腰で言うが
「盗む? 馬鹿か、お前は? ちゃんと頂いたものだ」
「なんだとぉ?」
「面白い。一戦交えてもいいのだぞ?」
ゼルデムは背負っていたハンマーを持ち構える。
このやりとりのなか、僕はオズと目が合った。その瞬間……
*
「だから、違うって」
「もう分かんないよ……」
「ノボル、そんなんじゃ勝てないぞ」
”外界街”で流行しているボードゲーム。オズとニールと3人は森の中でこれを見つけたが、ノボルだけルールがまだ把握できない。
「オズ、あんまりノボルを追い込むなよ」
「ニール、お前は勝ちたくないのか!?」
ボードゲームは3人のチームで、最大4組まで戦える。この頃はまだ平和な時間だった。
でもある日、兵士達が侵攻してきて……
その日の記憶を僕は覚えていない。
*
いずれにせよ、こんな形で幼なじみのオズと再会するとは思いもしなかった。僕は声をかけようと思ったが、オズは人差し指を自分の唇に近づけ、言うなというジェスチャーをした。そしてすぐに
「行くぞ」
といい、移動を開始。
「命拾いしたな」
ゼルデムはハンマーを戻し、その場を去る。
「ま、待て」
「駄目だ。カケル」
止めたのは、支払いを終えたリチューだ。
「なんだよ。何で止めるんだよ」
「宿屋の人に聞いたが、あの4人はオズ組といわれるもう一組の”C.P.”だ」
「もう一組の……、”C.P.”?」
「”C.P.”って、私たちだけじゃ無かったの!?」
カケルとカーミンも驚くが、クートは
「オズ組ってことは、あたし達は?」
「そりゃ、カケル組だな」
おい、勝手に決めるな。だが、カケルはもう完全にリーダーとして君臨している。それよりも、問題は
「カケル組、オズ組……。これ以外にも”C.P.”はいるの?」
メイルがそれに触れたが、生憎その解答を知る者はここにはいない。
「ペネーレさんに聞いておけば良かったなぁ……」
今出た問題だから、聞くに聞けなかっただろうと思ったが、別に僕がこっそり聞いておいてもよかったなと感じた。3組あれば、対立したときに漁夫の利が起こりやすい。対立する2組のどちらかに決着が付いてから3組目が登場すれば、確実に後から来た3組目が有利である。
この件に関しては、翌日の晩に知る機会を得た。
ファルナーデタウンで下宿先を決めようと宿屋を探していた時である。
「君たち、イベントの”C.P.”かい?」
見知らぬ青年が声をかけてきた。
「そうですが……、あなたは?」
最初にカーミンが反応した。
「おっと、これは失礼。私はこういうものです」
そう言って名刺を渡す。受け取ったのはカーミンだが、それを覗き込み、カケルが
「情報師、チッター……?」
「はい。職業は情報師でありとあらゆる情報を売り買いしています。ただ、”C.P.”からはお金を取ることはありません」
「無料って事?」
カーミンが当たり前だが一応聞くと
「えぇ。”C.P.”からお金を取ると、少々問題が発生するので……」
国王の取り決めだろうか。ルールブックにはそんなことは書かれていない。というか、そのルールブックさえ存在しないのだが……。
「それで、俺らに何か用?」
カケルの態度についてのツッコミが入る前に、チッターは
「良い情報、欲しくないか?」
「情報って、どんな?」
「例えば、宝玉の在処とか好敵手の情報とか、あと過去の”C.P.”について。何でも答えるぞ」
カケルが少し悩む素振りをした少しの間、スカイラーが会話に割り込む。
「情報を無料に貰う分には感謝しますが、無料だからこそ”ガセ情報”を得た場合の抗議が軽くなりますので、対価交換はどうですか?」
つまり、スカイラーの言い分はこうだ。情報を無料で得た場合、それが誠であれば問題は無い。しかし、偽の場合はそれに相当する賠償を請求しても、無料であるからとして逃れることが可能。そのため、情報などの対価交換として、偽りの場合はその時渡した価値以上のものを賠償することが可能。実に、子どもっぽく無い。
「対価交換か。偽の情報など渡しても私の利点が無い。それでもいいのか?」
「偽の情報を”C.P.”に渡せば、その間は真の情報を知る好敵手の時間稼ぎとなり、好敵手が有利になる。好敵手が価値のあるものを約束として契約しているのであれば、なおさらその可能性が考えられる」
「単純じゃ無いし面白くもないな。もっと純粋で楽しくしないのか? まぁ、いいけどさ」
いくら何でも無礼極まりないのでは……。折角の恩を何故素直に受け取らないのだろうか。どっちにしろ、偽情報でも確かめに行くことで何か新しい発見をするかもしれないし、そもそも宝玉は4つ集めないと行けないから、オズ達と最終的に対立するはずだし……
To be continued…
キャラクターの名前は、確か携帯電話などの予測変換で出てくるカタカナから文字を削ったり入れ替えて、結構テキトーに決めた記憶がありますね。地名とかはほぼそのままの意味ですし。約10年ぐらい前に書いた作品なので、今回の更新のためにチェックしましたが、割と展開を忘れていました。それは『黒雲の剱』とか他の作品にも言えることですが……