第3話 1つ目の宝玉
「というわけじゃが、本題に入ると、”喜玉”はヴルカーノにあるとされている」
と、ペネーレ長老は話を締めた。(その一言だけで十分だ。昔話といっても所詮は設定上の作り話。カケル以外は真剣に聞いていない気がする)
「ヴルカーノか、近いな。早速、行こうぜ」
と、勝手に決めるカケル。
(でもこういう場合、大抵はなんらかのリスクがある。例えばボスとか……)
「早まるでない。ヴルカーノには、紅き龍が住み着いておる。名をファーグルドラゴンという」
ペネーレ長老が止めるような言い方だが、カケルがそう簡単に諦めるわけもなく、
「ファーグルドラゴンか。らしくなってきたじゃねぇか!」
と、燃えるカケル。
(やっぱり……)
僕はカケルにもボスイベントにも面倒くさいなと思った。ヴルカーノは火山地帯。今のパーティーでどうやってボスに立ち向かう気なのか。僕にはカケルに策がありそうには感じられない。行き当たりばったりで、そのうち詰むのではないかと思って仕方ないのだ。
選択肢は無く、カケルが引っ張るこのパーティーはヴルカーノを目指すが、ヴルカーノに着く前に陽が落ちた。野宿だ。ボス戦の前ぐらい、宿に泊まって万全の体勢で行くぐらいでなければ、苦戦を強いられるはずだ。他のメンバーはカケルのことをどう思っているのだろうか。少なくとも良い印象ではないだろう……。
その日の夜はスープだった。相変わらずどこで寝るかに揉めて料理をつくる時間が取れなかったようだ。リチューの料理は確かに旨いが、出来ればちゃんとした環境で食べたいものだ。
*
ヴルカーノは火山活動が活発で、何といっても暑い。ただその一言に尽きる。戦闘要員はカケルぐらいしかいない。単独でファーグルドラゴンに挑むも、苦戦どころか圧倒的不利な状況だ。でもそれを助ける方法もない。ちなみにカケルは”勇者=剣”だろという考えで、ドラゴンに剣で立ち向かっている。カケルの攻撃が辛うじてヒットするのは尻尾のみ。口から炎を吐き、空を自由に飛び回るファーグルドラゴン。完全になめられている。
大体、このメンバーに戦闘キャラが少なすぎだ。いくら何でもメンバー7人中1人。もはや少ないとかいう次元の話でもない。
「どうやら、ヤツの弱点は思いの外広いようだな」
スカイラーが長い沈黙を破り喋った。
「弱点? それ、どういうこと?」
と、カーミン。確かに、敵には必ず弱点が存在するはずだ。弱点のない敵との戦闘など、持久戦になりパーティが壊滅する恐れがあり、このイベントの意味そのものが無くなってしまう。
「普通、モンスターは相手からの攻撃から自分を守るために自分の弱点を庇いながら戦闘することが多い」
「つまり、尻尾は弱点じゃないってこと?」
カーミンとスカイラーが何故か解説キャラになっている。それより、何もしていないクート、リチュー、メイル辺りが、銃とかで遠距離攻撃すれば何とかなるんじゃないかと思う。例えば直接攻撃できるように翼に致命傷を負わせて、地面に落とせばいいと思うけど……所詮、言うは易く行うは難し。それに、銃で撃っても避けられる可能性があるか……。
「尻尾と頭はほかの部分と比べて鱗の色が違う」
スカイラーの解説はまだ続いていた。
「胴体部分が弱点だ」
そう言って杖を構えると、杖の先から光が放たれファーグルドラゴンへ。ファーグルドラゴンが咆哮し暴れるも、地面に叩き落とされた。
「ヤツの飛ぶ力を封じた」
どうやらスカイラーは魔術師のようだ。使えるなら最初から使えよと思ったが、マジックポイントでもあるのかな。
「スカイラー! 今のどうやったんだ!?」
と興味津々のカケル。相変わらず元気だな。
「魔術の一種だ」
「すげぇー」
「感心してる暇があったら、さっさとそのドラゴンをやっつけてよね!」
カーミンがカケルにそう言うと、意外とあっさり終わった。カケルが飛べないファーグルドラゴンへ、何度も攻撃することにより、ドラゴンが消滅し、宝箱が出現。一体どういう仕組みなのか……。
宝箱を開けるのもカケル。とどめを刺したのは確かにカケルだが、本当にリーダーになっているではないか。カケルがリーダーであることを、僕はまだ不安に思っていた。
「おぉ! ”喜玉”ゲット!」
宝箱の中にあったのは喜玉。例えるならばテニスボールほどの大きさだろうか。
こうして、一行は1つ目の宝玉を手に入れた。丸一日かかって……。
*
カケルがファーグルドラゴンにとどめの一撃を喰らわせ、空が薄暗くなってきた頃。シュタット街の繁華街から少し路地へ進んだところにある宿屋にて。
がたいの大きい男は貧乏揺すりをして
「オズ、俺たちもそろそろ出発しねぇと奴らに先を越されるぞ」
「まぁ、待て。ゼルデム」
「なんだぁ? ローブレット、おめぇには言ってねぇぞ」
「頭を冷やせ、ゼルデム」
「なんだとぉ!?」
男女2人の口喧嘩。そこへ一人の少年が
「どうやら、カケル組が1つ目の宝玉を手に入れたようだ」
「オズ、さっさと俺たちも」
「そうだな。ボスの情報によれば、”楽”の宝玉はエスタンケにある」
「エスタンケか。3日あれば十分だな」
「そうと決まれば、さっさと出発しようぜ」
「いや、ボスからの命令でエスタンケには5日後に着くようにとのことだ」
「なんだよ、それ!? 先を越されるぞ!」
どうやらゼルデムは鬱憤が溜まっているようで、焦るような言動を取るが、オズとローブレットは至って冷静だ。
「こっちのチームにはボスがいる。それはルールだ」
「はいはい、そうですね。おい、キローヌ、お前も何か言えよ!」
逆ギレ気味のゼルデムは一言も発さないキローヌに話を振るが返答はない。
「ゼルデム。お前の気持ちも分かるが、俺たちの出番はもう少し後だ」
ゼルデム、ローブレット、オズ、そして仮面を付けて一言も喋らなかったキローヌの4人が”楽玉”を求めて、ゆっくりとエスタンケへ向かう。
To be continued…
このパーティー、戦闘要員少ないよ。
ノボル含め、各キャラの深掘りは特に無く、淡々と物語が進んでいます。設定やストーリーを考えたけれど、実際に着手したのは3年ぐらい後でしょうか。一度着手したけど、『黒雲の剱』と『紅頭巾』シリーズを書きたくて、後回しになった結果、2013年に1話から書き直して今作が出来上がりました。