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第13話 果てしない旅

 手紙をポケットに仕舞い、広場の中央へ戻る。計画通りなら国王が勝者を決定するはずだが、運営の人物が横に並び壮行式で国王の代理人として激励の言葉を述べた人物が出てきて、

「宝玉争奪戦はカケル組の勝利とする!」

 抗議する暇もないまま、勝者の宣言がなされ締めくくりの閉会式へと移行する。

 宮殿前のこの広場にて整列を促し、代理人が宝玉をカケルにすべて託す。

「こんなはずじゃ……」

 オズの動揺に嫌な予感がする。国王の姿を見るために、”外界街(イディオタガイ)”のみんなを救うために何をしてもおかしくはない。手紙はもしかしてオズの暴走を止めてくれということか?


 前列にカケル組。後列にオズ組。僕はオズ組の方にいた。その10メートルほど後ろの方には、親御さんやこれを見に来た国民が大勢いる。特設のステージに国王の代理人が閉会式の執り行いを宣言。ステージから”C.P.”まではざっと6メートル。地面からステージの高さは1メートル強。登れないことはないが、両端の階段を使うほうが賢明だ。

 運営代表としてリカードが今回のイベントの総評を発表。ノボルを迎えに来たあのリカードである。

 総評の長々と言うなか、オズが無言で動く。

 ゼルデムは小声で

「どこへ行く気だ?」

 その問いかけにオズは答えない。

「オズ。どうしたの」

 ローブレットも問うが反応なし。

 俯いたままオズは

「このタイミングを逃したら……」

「おい」

 ゼルデムがオズの右腕を掴むと、

「やめろよな」

 鋭い目つきでゼルデムを見て掴まれた手を振りほどく。

 僕はそんなオズに

「オズ、今行っても仕方ないよ」

「あぁ?」

「そんな状態で騒動を起こせば逆効果だよ」

「お前に何が分かる!!」

 オズの大声にリカードの総評が止まり、周囲の目がオズの方へ。

「ノボルは分かんないだろうな。あのあと、どれほど苦労してこの機会を(うかが)っていたか」

 胸倉をつかまれても僕は平然を保てた。

「その努力を無駄にする気か?」

 オズは黙った。

 周囲から冷たい目で見られていることは痛感した。親が口々にあの子はとか、あの子の親はとか、勝手に言いあっているのも聞こえる。

 僕は周囲に聞こえないようにオズの耳元で

「僕もみんなを救いたい。でも状況が悪いんだ。今騒動を起こせば僕らが捕まって、チャンスはピンチになって失敗する。国民は”外界街(イディオタガイ)”の住民をさらに悪く思う。そうなっちゃいけないんだ」

 (まっと)うなことを言ったつもりだ。

 オズは黙ったままもとの立ち位置に戻った。リカードの総評が終わり、お祝いの言葉や保護者代表挨拶など一頻(ひとしき)り終えると、宝玉の奉納を行うことに。

「では次に宝玉の奉納を行う。勝者であるカケル組は壇上へ」

 閉会式進行者に言われ、カケルが4つの宝玉を手に持ち壇上へ。同時に、とあるオブジェクトがステージの上に運び込まれる。宝玉を埋め込むオブジェクトだと思われるが、下からだとよく見えない。何かの像があり、その台座に埋め込むのだろう。

 国王代理人がそのオブジェクトの説明をするがマイクが入っておらず聞こえない。女神とか聞こえたけれど、女神像だろうか。その肝心の女神像を僕はまだ見たことがないのだが。

 マイクがオンになり国王代理人が

「では、この女神像の台座に宝玉を」

 カケルはカーミンたちを見た後、宝玉を台座の(くぼ)みへ。まずは”喜玉”から。

「ちょっと待ってください」

 突然、リカードが中断させた。

「何事か?」

 国王代理人が問う前にリカードは壇上へ上り、

「宝玉には正しい位置があります。女神像の窪み4つのうち奥が喜の宝玉、右が怒の宝玉、手前が哀の宝玉、そして左が楽の宝玉です」

「そうだったかな?」

 代理人は首を傾げた。


 そんななか、僕はふとキローヌの左手が剣の柄に触れていることに気づいた。偶然後ろの様子を見るつもりで振り向こうとしたときに視界に入ったのだ。

 何の前触れもなく、リカードがポケットからナイフを取り出し、宝玉を持つカケルを後ろから襲いかかる。

 これも計画のひとつ? いや、違う。同時に何人かが壇上へ向かって走り出す。

「ノボル!」

 オズに呼ばれた。すぐにオズの方を向くと、すでに混乱に乗じて宮殿方面へと走り出している。ゼルデムとスカイラーがオズに半歩遅れて駆け出しており、2人を追いかける。

 メイルの悲鳴で、カケルがナイフを持ったリカードに気付き、声を上げる。壇上の方を見ると、キローヌが剣を振っているように見えた。カケル達のことはキローヌ達に任せ、宮殿へ潜入する。

「目的地は地下牢だ」

 スカイラーは魔術で人の気配を探知し「この下だ」と特定したみたいだ。

「こんなの直下堀だろ。宮殿に隠したドリルで」

 オズは甲冑の中からドリルを取り出し、3人に配る。

「今は壇上の出来事で、こっちまではすぐに来ないだろうが……」

 急いで床をドリルで壊す。宮殿の床の一部は、どんどん崩れていく。3分ほどで床が貫通した。5センチぐらいの穴だ。

 オズが覗き込み、

「ノボル、見て見ろ」

 すぐに交代して、穴から下を覗く。すると、多くの人が見える。まるで牢屋のようだ。

 そこから床を崩すのは簡単だった。壇上の様子は分からないが、こちらに人は来ない。ロープを垂らし、オズとノボルが地下へ。

 久しぶりに見た顔ぶれに、自然と涙が出た。”外界街(イディオタガイ)”で生活する中で、一度は見た顔。そして、ニールの姿も。

 怪我をしているが、生きている。


 正規のルートと思われる隠し階段から宮殿の1階へ。地下からのルートなら、非常に分かりやすかった。1階から探すのは大変そうだ。どうやら強行策で正解だったようだ。

 宮殿の外に出ると、壇上でカケルが救護を受けており、掠り傷で済んだようだ。式典の飾りがボロボロになり、激しい戦闘があったことを物語っていた。

「ここの国ももうお終いだな」

 そう言ったのはリカードだ。血は出ていないが、明らかに致命傷を負っている。黒幕はリカードであると、ジークルから聞いた。

「”外界街(イディオタガイ)”は、もともとこの国にあった悪しき風習だ。だから、そこから連れ出して労働力にした。国を運営する上で、邪魔になる者を外へと排除したわけだな。私にはどうでもいい昔話だが」

 ”外界街(イディオタガイ)”を襲撃し、拉致したのはリカードである。しかし、”外界街(イディオタガイ)”の成り立ちはそれよりも前。

 リカードはノボルを見る。ノボルは「どうして?」とだけ、聞きたいことはいっぱいある。なぜ”外界街(イディオタガイ)”の自分やオズ、スカイラーを選んだのか。”外界街(イディオタガイ)”の人間が関われば、解放計画ぐらい想像に難くないだろう。

「聞いて相手が全部答えるとは限らない。言うならば、都合が良かったから。誤算は別にあっただけ」

 リカードはそのまま意識を失い、死去した。リカードとの戦闘について話を聞いたのは、そこそこ後になってからだった。

 ”外界街(イディオタガイ)”出身のジークルが国王であるという、リカードの置き土産でその後の復興は早かった。”外界街(イディオタガイ)”改め、”友誼街(ソキウスガイ)”として、他の街と何一つ変わらぬ環境となった。

 ノボルやオズたちは、新しくなったこの地で再び暮らすことに。

 この地にある丘から星空を眺めつつ、ノボルは

「結局、自分からすることはなくて、流されただけだったね……」

「そうかな? カケル組と俺たちとどっちについていくか。そこは、ノボルが自分の意思で決めただろ?」  

「そこは、そうだけど……」

「もっと自信を持て。ノボルがいなければ、俺だって最後まで辿り着いたかどうか」

 オズに励まされるが、ノボルは黙ってしまう。

「俺はどうあれ”ノボルらしい”と思うし、もっと俺たちを頼ってもいいんだぞ。別に、1人でいるのが楽ならそれはそれでってのはあるけど」

「ありがと……」

 この旅を通して、どれだけのものを得られただろうか。少なくとも失ったものはない。今は気付かぬとも、将来ふとしたときに気付くかもしれない。旅は一旦終わっても、また新たな旅が始まる。果てしなく繰り返し……


END


今回で『フォルスネス』は最終回となります。打ち切りエンド感があるのは、否定しません。続編の部分を丸々カットしてます。しかしながら、一部の事柄は2022年12月1日更新の『路地裏の圏外 ~フォルスネス 黒雲の剱~』で明らかとなります。

実はブログ版の最後は、カケルに襲いかかったところで終了し、続編で喜怒哀楽以外にも宝玉があることが判明して、それを探しに行く展開でした。ただ、続編は結局最初の1話半ぐらいで頓挫し、その後も書くこと無く、未完となりました。今回再掲するにあたり、打ち切りエンド感はなんとも否めないですが、ある程度のところで切り上げました。正直、10年以上経つと当時の予定していた展開や設定もあまり覚えておらず、続きを書くのは厳しいです。『フォルスネス』は今作と『路地裏の圏外 ~フォルスネス 黒雲の剱~』で終了させることにしました。

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