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第12話 勝負の行方

 審査員2人がそれぞれ操縦者ありのプロペラ機で担当の組を監視する。

「さて、材料と条件は揃った。あとは円滑に進めるだけだ」

 オズの独り言に、僕は何も言わなかった。何も言わなかったから、それがオズの独り言になった。

 なんでだろうか。なぜだろうか。オズに会ったとき、ひとりはもう嫌だと思った。でもこの計画を聞いてから関わらない方がいいのではと思い、自ら離れている。”外界街(イディオタガイ)”で経験した”()()()()()()”とは違う”()()()()()()”だ。”外界街(イディオタガイ)”では話す相手さえもおらず、考えれば考えるほど自分が自分でないような……、毎日同じようなことの繰り返しで現実と夢想の区別もつかなくなっていた。それが今はReal(リアル)Daydream(デイドリーム)の区別がつくのに、毎日同じようなことをしていないのに、”外界街(イディオタガイ)”と違うのに……何故かヒトリで……。

 心の涙が一滴、また一滴と落ちていく。実際に流した最後の涙は”外界街(イディオタガイ)”の襲撃から数日間。それからは心の中で泣くことしかできず、僕は考えた。この”心の涙”は自分とは異なる自分のもの。器と心で自分の考えが違う。僕の捨てた心が泣いている。単なる器の僕は何もしてやれない。僕はどうすればいい? 一度捨てた心を取り戻す機会を見失った。オズと再会して昔の自分がいたけれど、今は器の自分でしかない。……心のキミは正直者だ。頭では悲しくないのに、心の涙が流れる。案外そう考えるとますます悲しくなり、器の僕が許せなくなる。心の涙を拭っても拭いきれず心の涙は止まらない……。つくづく思う、自分は一人だけど何人もいるような。たまに五感がずれているときがある。味覚とかではなく、言っていること聞いていること感じていること考えていること行動することを僕は五感と読んでいる。語彙(ごい)の少ない僕にとって、それを別の言葉では表せなかった。この五感が全てずれて回線がショート、つまり神経がおかしいように感じることがあった。発言と行動が異なったり聞いたことと感じることが合わなかったり……。でも一番は考えと行動の不一致。これをしたいと思う真逆のことをしたり、初歩的な誤算をしたり。ケアレスミスというかなんというか……。もともと襲撃後からあまり行動しなかった所為もあるかもしれないけれど……。また泣いている。涙は出ない。しかし、一粒のシズクが頬を伝わった。雫は目の前のガラスに次々と増えていく。雨だ。空は黒い雲に覆われて雨脚が次第に強くなる。

 小型飛行機の窓ガラスに雨水が流れていく。天候が悪化するおそれがあるということで、昨夜にローブレットが防水対策を徹底していた。風も次第に強まる。悪天候のフライトは本来機能するはずのオートパイロットシステムが役に立たず、ローブレットの操縦でカスカータへ向かっている。オートパイロットシステムは中古のものを備え付けただけで、古いため悪天候には向いていなかった。オズとローブレットが会話している。予定では今日中にカスカータを飛び立つのだが、この天候ではカスカータで一泊というかたちになってしまうだろう。焦るオズにゼルデムが落ち着くように言うが無駄。冷静になんてなれないのだろう。速度はこちらが上だが燃費は向こうが上。充填の時間を考えると追い付かれるのも時間の問題。カスカータで一泊となれば追い抜かれる可能性も。そうなると追い抜くのは無理だ。スピードがあっても燃料の消費が多くなり空になる時間が早くなる。

 僕は何も言わない。キローヌと同じポジションで落ち着こう。無口キャラ。あれは僕の知っているオズじゃない。

 悪天候の中カスカータの臨時空港に到着したのはオズ組が先であった。臨時空港というのは周囲に危険のない場所であり、小型飛行機が十二分に着陸できる一般道路である。標識や木々は一時的に撤去しているらしい。一般道路を封鎖して臨時空港にしているが、交通量は多くない道なので迂回路さえあれば十分だとか。小型飛行機の機内の広さはだいたい6畳ないぐらいか。狭くて急な螺旋階段を上れば外のデッキに出るが、この悪天候では外に出ないだろう。小型飛行機というより小型飛行船とでも言いかえればいいだろうか。

 2時間差でカケル組がカスカータを離陸。向こうの小型飛行機もこちらと同じような雰囲気だ。同じ型の飛行機を使ったのだから、それもそのはず。

 天候はさらに悪化。雷鳴が(とどろ)く雲の中をボス、いやオズの命令で飛び続ける。こういうときに限って、何か起こると踏んでいるが今のところ何も起こっていない。ただムードが悪い気がする。今にも喧嘩に発展しそうな雰囲気が漂う。正直、こんな雰囲気のところには居たくない。かといって、カケルの方に戻るのも気が引ける。

 ファルナーデタウンにて一泊。準備のためにストーリャでも一泊。カケル組はカスカータにて一泊し、天候が回復した早朝に離陸。ファルナーデタウンを経由してストーリャで一泊。つまり、ストーリャで両組が追い付く形となった。

 そうなるとストーリャからの勝負が決め手となる。ストーリャから城下町の広場へは小型飛行機で行くことができない。城下町を囲う壁があるという理由もそうだが、そもそも広場に着陸できない。そのためストーリャからは馬車によるレースになる。

 幌馬車(ほろばしゃ)で周囲が見えないため、勝負の実況はしない。そもそもこのイベントに僕は興味なかった。だから、どっちが勝ってもいいし白熱の駆け引きなんてしなくても……。馬車は大きく左右に揺れる。曲がり角を大きく曲がり、どうやらデッドヒートの様子。広場まであと少し。

 このイベントには興味はないけれど、一つだけ気になる点があった。オズが言っていた。

『本来はディフェン・ダグラストだが、今は行方不明。今、国王になっているのは……、ジークル。お前の親父さんだ』

 本当なのだろうか? それだけは確かめたいと思っていた。もうすぐイベントのゴールだ。もうすぐ終わる。争奪戦であまり外も見ていなかったが、ゴールライン周辺、僕はある人物を見た。


「ゴォォォーール!!」

 カケルの大声。それに周囲の観客の声。気合いではカケル組だが、ゴールはオズの目論見(もくろみ)通り、ほぼ同着。

「どっちが勝ったの!?」

 カーミンの声が周囲の声に掻き消されつつも聞こえた。

「想像以上の盛り上がりだな」

 ゼルデムは周囲の観客を見まわす。”C.P.”の誰もが観客の方を見ていた。ただ4人を除いて。

「国王は!?」

 オズが国王の姿を探す。しかし、見つけられない。

「どこに……」

 同じくスカイラーも国王を探す。

 盛り上がりの中、声が掻き消されて状況の整理が追い付かない。メンバーをそれぞれ家族や親戚が囲み、無事だったかとか楽しかったかとかよくやったよとか褒める言葉が途切れ途切れ聞こえてくる。ゴールを祝う演奏が始まり、クラッカーが鳴り、紙吹雪が舞う。

 人混みの中、キローヌがどこかへ走るのを偶然にも見かけた。それよりも僕はゴール直前に見た人を探しに広場の外周へ。その人がいたであろう木陰には、一部が赤色に染まった手紙が落ちていた。封がされず、そのまま無造作に置かれた手紙を拾うと、赤い部分が血であることを瞬時に理解した。手紙はノボル宛。差出人はテッツー、いやニールだ。数文字だけの手紙。”オズを”で終わっていた。それに違和感がある。少し考えたのち、宛先と差出人は血がつく前に書かれていたことに気づいた。3文字は後から……。これが意味するのは何なのか今の僕にはわからない。だけどニールが危険であることは容易に想像できた。


To be continued…


次回が最終回です。オズの思惑通りに行かず、どうなるやら。

小型飛行機を子どもが操縦するのってどうなの、と今更ながら思いつつ、そういう世界観です。多分、この世界は免許という制度はないと思われ、子どもでも技術があれば運転や操縦が出来るのでしょう。

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