悪魔、魔界に帰る
イラストは商人ちゃんです〜
最終話 ほうき星のように
「一か八かって!あぁ、もう!」
サメが叫ぶと、後ろから爆風が襲いかかる。
そこにナイアーラトテップの姿はなかった。
「行くぞ!一、二の、三!!」
爆風を背中に受けて無重力空間に身を投げる。
水の中にいるように思わず口を開き、空気が一気に外に出た。
「ごはっ」
酸素が口から出、意識が無くなっていく。
無重力なので体の自由が利かない。
誰か……。
「こんなところに生身で出てくる馬鹿野郎共がいるとはなっ!!おい、引っ張るぞ!!」
近づいてきた銀色のカプセルのような乗り物から誰かが身を乗り出し、全員の体をせっせと運ぶ。
全員が酸素を取り戻し、咳をした。
「ごほっ、ごほっ!!」
「誰だ……このオッサン……げほっ」
「オッサンとは失礼な!」
「ど、どうして……月光さんがここに?」
目の周りを覆いつくすほど大きなゴーグルの隣に付いているボタンを押すと、シュン!と左右に消える。
その先には赤く光る瞳が見えた。
「オジサンが狂った理由……それはオリオンにあると商人ちゃんに聞いたのでな」
「う……商人ちゃんに……?」
「てっきり月のせいだと思っていたが、どうやら違うらしい。オリオンが地球に来た三百年前、月を装ったシアエガを捕らえたときに……オジサンも見てしまったんだろうなって」
「シアエガを?」
「そうだ。それに……」
月光は再び操縦桿に向かい、ゴーグルを元に戻す。
このポッドはかなり狭く、下手すると商人ちゃんの小舟より小さいかもしれない。
そんな中にぎゅうぎゅう詰めで月光、俺、ムジナ、サメ、メリアが入っている。よく入ったものだ。
できるだけ周りのボタンに触らないようにしよう。
「それに?」
「お前たちが心配だったからな。あの後調べまくっていたんだ」
少しだけ振り向いてニヤ、と笑う。
Sad Echoで見た時のようになぜだか信頼できると思ってしまった。
「行き先は?」
「地球!」
「りょーかい!ま、そりゃそうだわな。そこの二人は?」
月光はメリアとサメを順に見た。
「アルカディアで下ろしてくれる?まぁ地球でもいいけど」
「俺は……帰るところはないな……どこでもいいよ」
「じゃあ全員仲良く地球に帰ろうか!」
そう言うとポッドが動き出した。
一番後ろに立っている俺が背後を見る。
____……宇宙ともお別れか……。
安心していると、とんでもないモノが見えてしまった。
「な、ななな!?」
「ヘラ、どうした、の……!!!?!?」
俺につられて後ろを見たムジナも固まる。
だって……後ろに見えるオリオン『そのもの』が……シアエガになっていたのだから!
「嘘だろおい……」
思わずサメも呟く。
質量からしてありえない。
オリオンは星一つくらいの大きさだ。そこに浮かぶ目玉のようなものはシアエガのもの。黄色の眼球の中で赤黒く輝く邪悪さは宇宙の暗さでもはっきりわかる。
オリオンの後ろからモゾモゾと動くものは廊下で追いかけてきたものに他ならない。
「逃げるぞ!ヘラ、宇宙には即死級の岩が転がってる。どっちに逃げるか指示してくれないか?」
「失敗は許されない、か……燃えるぜ!」
「後ろからも来てるぞ。俺は後ろを見るからな」
サメが後ろを見てくれるようだ。
ずっと見ていて気が狂わないのだろうか。
「左に避けろ!」
「前から隕石が来てるよ!でも動かなくても大丈夫そうだね!」
「そうだな。……シアエガの叫びで隕石が粉砕されているのか……?しばらくは大丈夫そうだな……」
その後も右に左にフラフラと避け続ける。
たまにシアエガと隕石が一度に飛んでくることがあるが、俺とサメの指示でなんとか避けることができた。
「……アシリアの船が木片となって漂ってるわ……」
サメの隣で後ろを見ていたメリアが寂しそうに呟く。
さっきまで乗っていたものがそんな無惨な姿になっているのは信じられないが、どうあがいても事実だ。
「アシリア……。……ん?何だあれ」
「何だ?」
「……小さい……舟?」
ムジナが過剰に反応しているのはしばらくして見えたものだった。
本当に小さいが、このポッドよりかは大きいだろう。
だいぶ昔にこうなってしまったのか、舟はボロボロで周りには荷物が浮いている。
「近づくこと、できる?」
「すごく危険だぞ」
「それでもいい!お願い、月光さん……!」
ムジナが月光の腕を掴んで見上げる。
「うっ」
月光は押し負けたのか、ため息をついて操縦桿を左に倒した。
「……これは!」
「商人ちゃん……!?」
舟には女の子が……商人ちゃんが眠っていた。
いや、生身でいるので死んでしまっているのだろうか。
『……見つけたんだね』
「誰だ!」
声がした方を見ると、真っ黒な大きな人の形の影が不気味な眼光を光らせていた。
声は直接頭に響くように聞こえた。
『私はナイアーラトテップの一部。さっきの戦いで見事に罠にハマって、あの女の子とリンクが切れてしまったんだ』
「さっきはありがとう」
『礼には及ばないよ。礼をするならあの女の子にしてよ。遺体を使わせてもらったことに私も礼をしたい。……君は死神なのだろう?だから気づいてくれた、違うかい?』
ナイアーラトテップの言葉にムジナは驚くが、すぐにニコッと笑った。
「うん!すごい、正解だ!」
『君たちのような良い人たちに出会えて彼女も幸せだったと思うよ。そうだ、これが必要なんだろう?』
ナイアーラトテップが手のように見える影を前に動かすと、ポケットの瓶が浮いて出てきた。
そして極小のワープホールがあるのか、蓋のすぐ下からサラサラと虹色に光る粉が……。
「これは!」
「わぁ、探してた粉だ!」
『これで貸し借りは無しだね』
「ねぇ、アシリアはどうなったの?」
その言葉にナイアーラトテップは目を細める。そして首を横に振った。
『……シアエガには女の贄が必要なんだ。あの星の人はあの子を逃がそうとしていたらしい。数々の星から住民を連れてきて代わりにしようとしたが、シアエガはあの子を気に入ってしまったそうだ。今、彼女は一体となってしまっている。もう助からないだろう』
「そんな……」
『私にできることは君たちから宇宙の記憶を消すことくらいだろう。どうだ?やってみるか?』
ムジナはどうする?という顔でこちらを見る。だが、俺たちは悲しいことを乗り越えてきた。答えは決まっている。
「いらない。オレたちが覚えてないと、アシリアも商人ちゃんも救われないもん」
『……そうか。やはり面白い人たちだ。わかった、地球に着くまで守ってあげよう』
「ありがとう!!」
「オッサン!またシアエガだ!ったく、どこまで伸びるんだよ!」
サメが慌てる。だが、伸びてきていた触手は途中で爆散した。
『しつこいなぁ……』
「ナイスだ、ナイアーラトテップ!」
__________
「あっ、見て!地球だ!」
青い海、緑の大地。今まで見てきた星の中で一番人間が多い星だ。
どこかに黒池やイリアの家があるかもしれない。
『ここまでで大丈夫かな。さすがにシアエガも諦めたようだ。しかし……もう二度と宇宙には行かない方がいい。シアエガは執念深いからな』
「……隕石痛くなかった?」
『心配しているのか?大丈夫だ。……ではな。またいつか会えるといいね』
「うん!」
ナイアーラトテップは微笑むと消えてしまった。
「よし、そろそろ大気圏に突っ込むぞ。どこに落ちるかはわからんが……運が良かったら日本かもしれないな」
「ここで運要素」
「しょうがないだろ。ヘラ、お前が一番知ってるんじゃないか?本が好きって言ってたじゃないか」
「あぁ。隕石の欠片とかを回収するときに落ちるときはランダムなんだってな」
月光はなるべく月を見ないようにしている。大気圏までの『目』はオレがやらないと!
「月光さん、オレがリードするー!」
「ちょ、ムジナがか!?大丈夫かよ」
「大丈夫!さ、ゴーゴー!」
やはり、右に左にフラフラと動きながら地球に近づいていく。
そして大気圏に入った。
「揺れるよー!!」
「口を閉じろ!舌を噛むぞ」
「むっ」
縦揺れがひどい。
そんなポッドを操縦する月光さんはすごい。
「やばい、海だ!」
「ええー!!!!!」
……白い砂浜。
木の小屋。
人っ子一人いないその世界で息をすると、体が軽くなった。
「ヘラ……ヘラっ」
ポッドのシャッターは開いている。
まずは倒れているヘラを起こし、他のメンバーも起こした。
「うぅ……ここはどこの国だ……?」
「ヘラ、魔力が戻ってるよ!」
「は?……ってことはここは!!」
ヘラは勢いよく立ち上がり、森の方へ走っていった。
「ここ、どこなんだよ?」
「たぶん……」
「ムジナ!人間界の海との境界だ、ここ!」
「やっぱり!よかった、ピンポイントだよ~!!」
「???」
月光さんの手を掴み、ピョンピョンと跳ねるがよくわかっていないようだ。
「ここならテレポートが効く。帰ろう、ムジナ。他のみんなも俺の家に来てくれ。手を繋ぐぞ」
「やったー!帰れるー!」
__________
森の奥。
サメに泉にいれば?と言い、置いてきた。
いつでも行けるから大丈夫だろう。
辺境イリスに俺の家はある。
「ただいまー」
「おかえりなさい!……あら?さっき行ったばかりじゃないの?」
扉を開くと俺の姉であるメノイがパジャマ姿で顔を出した。
「は?」
「あの女の子は?」
「いや……さっき別れた」
「そう……。お客さんも入って。今回は私がお茶入れるから、手を洗ってきなさい」
「わかった」
手洗い場は家に入って突き当たりにある。
手を洗っていると、ムジナがひそひそ話を始めた。
「……どういうこと?ヘラ」
「知らねぇよ……月光、何かわかる?」
「……ナイアーラトテップの力じゃないか?知らないけど」
「おいおい」
「でも、帰ってこれたし、粉もゲットしたし、一件落着!やったね!!」
ムジナがタオルで手を拭くと、テーブルの方へと走っていった。
今回はよくわからないことが多かったが、楽しかった。でも……大変だから宇宙にはもう行きたくないな。
俺はポケットから瓶を取り出し、窓際に置いた。
そして窓から外を見て……。
「……ありがとう」
宇宙に微笑みかけた。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




