オリオン編5
第五十話 遠き者
……何度か手榴弾を投げているが、そろそろ在庫が切れそうだ。
もし後ろの奴に追いつかれてあいつに投げるとすると、数が足りなくなる。
「一……二……三……」
サメには咄嗟に治癒魔法をかけたので普通に走れているが、サメはほぼ肉弾戦専門らしいので武器になりそうなものは持っていない。もはや喧嘩じゃないか。
商人ちゃんはリュックサックを置いてきている。手榴弾で終わらせる気だったのか。置いてきたことによって身軽になり、こうしてキックボードだが早く移動できているので万々歳だ。
アシリアはサーベルしかない。廻貌と同じ戦闘方法だし、廻貌は勝手に動くので言っちゃ悪いが下位互換だ。海賊には銃なんてイメージはなかった、いいね?
メリアの光線銃はオリオンのものなので強力であるが奪い取るのはかわいそうだ。俺みたいに剣と魔法の二刀流ができたなら借りたのだが。
最後にムジナはもしものための『死神』だ。まずムジナは俺が守らなければいけないし、危険な目に遭わせたくない。今は一番後ろで翼を広げて飛んでいるが、魔法を放つと翼に回している魔力を攻撃に回さなければいけないのでスピードダウンし、下手すれば捕まってしまう。
どうしよう。打つ手がないぞ!
「んあああああ、もう!」
頭がパンクしそうになり、気晴らしに手榴弾を投げつける。
大穴を開けて熔ける鉄板、爆風、わけがわからなくて麻痺した耳で少し楽しくなってしまいそうだ。
……と、後ろで騒ぐ声が聞こえた。
「無茶だ、商人ちゃん!!」
え?!と思い、後ろを向く。
するとキックボードに縄を付けたものをサメに預けた商人ちゃんが背中を向けて『浮きながら』停止していた。
サメは止めなかったのかと見ると、いつの間に縛ったのか、手首に固く縛られた縄がキックボードに繋がっていた。
「……私は大丈夫だから。それは宇宙空間に出るまで絶対に止まらないキックボードなんだよ。だからサメくんは生きるの。生きてほしいの」
「商人ちゃん!!」
ちら、とこっちを見た商人ちゃん。
その目はどこまでも冷たく感じた。
「……私は遠き者。偽りの名と偽りの姿、よって私に真実の魂はなし」
「で、でもっ……商人ちゃんには魂はあるよ?!」
ムジナの赤い目がさらに赤く光る。魂を見ているのだ。死神だからできることである。
「私は影。私は恐慌。私は凶星。小さきものは私を恐れ、敬い、恨み、そして崇める」
商人ちゃんの姿がどんどん見えなくなっていく。爆風と相まって見えにくい。
だが、重力が商人ちゃんの周りでおかしくなっていることはわかる。廻貌の力を使ったときと同じだ。
俺も重力を限定的におかしくし、相手の行動を制限する。だが、商人ちゃんは違う。
重力と一体になっているように見える。
影というのは嘘ではないようだ。
「あなたも話ができるでしょう?『シアエガ』?」
商人ちゃんが名前を呼ぶと、俺たちの体が一瞬浮くほどに地面が揺れた。
『ウオオオオオオオオオオ!!!』
「重力のせいか、それとも実験のせいか……カラーコンタクトでも入れた?……いや、あなた……『死』を手に入れたんだね」
言っている意味をムジナに調べてもらおうと思ったが、彼は目をぎゅっと瞑り、両手を耳に当てて前屈みで走っている。
こんな状態では調べることはおろか、見ることもできないだろう。
ムジナは仲が良かった商人ちゃんが死ぬところを見たくないのだ。
「みんな、『彼』は私が食い止める。『死』はどれくらい強いかはわからないけど……もしかしたら私より強いかもしれない」
「やだっ……やだよぉ、商人ちゃん……っ」
ムジナが泣き言をいうが、商人ちゃんの姿はもう見えず、そしてだいぶ離れてしまった。
なのに商人ちゃんの声が聞こえるのは……きっと『そういうこと』なのだろう。
「……行こう」
サメが静かに言う。
その顔はもう知っているという顔をしていた。
「でも……!」
「ウダウダ言うな!!あいつは……いつかこんなことがあったら……よろしくって言ってきたんだ。それに、商人ちゃんは……」
そこまで言って口を閉ざす。
そして商人ちゃんが叫んだ。
「旧支配者シアエガ!私は……いや、我が名は『ナイアーラトテップ』!この先は行かせない!」
『ナイアーラトテップ』?聞いたことない言葉だ。
何か知ってると思い、サメの顔を見た。
「……『ナイアーラトテップ』……名前はそんなんだったな。本当はこの姿じゃないんだよって聞かされたときは「うっそだー」って流したが……まさかこんなに強そうだとはな」
「……俺がいつも話していた商人ちゃんは人間じゃなかったのか……」
「何?」
「いや気にすんな」
後ろの方で戦闘音が聞こえる。
『シアエガ』と『ナイアーラトテップ』が戦っているのだろう。
存在という概念が大きいのか、どれだけ離れても二つの大きな力を感じることができる。
「おっ?」
あれから何度も手榴弾を壁にぶつけてきた。しかしそれももう終わる。
「船だわ!」
「よし、乗るぞ!……廻貌、頼む」
「今回だけだぞ」
廻貌にサメの縄を切ってもらい、船を起動する。
バリアを展開する余裕はない。飛びながら展開すればいい。
「う……重く、て……動かない!」
「アンカーは……ううん、出してない!」
「帆も引っ掛かってないぞ」
アンカー係のムジナが確認し、推進力に関係するようなものを俺が確認する。
だが何もおかしなことはなかった。
「あ!船の底に何かいるみたいだぞ!こいつが重石になってるんだな。よし、俺が一発殴ってやる!」
「サメ、ダメだ!お前は何としてでも無傷でいろ」
「そんなこと言ったって!」
「きゃあ!!」
アシリアが悲鳴を上げる。
言い争いをしていた俺たちが急いで振り向くと、なんと床板を貫いたシアエガのタコのような黒い大きな触手がアシリアを掴み上げていた。
「アシリ____うわっ!!」
衝撃で船が連鎖的に崩壊していく。
これでは地球に帰るどころか死んでしまう……!
「今行く!」
「ダメよ、ムジナ!……私はオリオンがシアエガを抑えてたことを知らなかった……封印を解いたのは私だと言っても過言じゃない……だから……だからっ____」
アシリアの体がシアエガに持っていかれる。そのシアエガの触手にムジナはドン!と押されてしまった。
「ぐぅ……っ」
「ムジナ!……くそっ、船は粉々だ……」
海なら木の板に掴まって陸を待つのが良いと思うが、ここはオリオンという星の出口。前は酸素の無い暗黒の海で、後ろはタコ足の海だ。
ここまでなのか……?
「……は、はは、宇宙で死んだら死神はどうやって魂を回収するんだろうな……」
「ヘラ、馬鹿なこと言ってないで、何か使えそうなものを探そう!ねぇ、メリアさん、何かある?」
「……うーん……ミニ救援信号くらいなら……」
「それ使おう!一、二、三、四……うん、ある!ほら、ちゃんと持って!サメさんも!」
「お、おう……」
「わかった。ヘラ、諦めるなんてこと考えるなよ」
「わかってるよ」
ハンドボールくらいの大きさの玉だ。
横から見ると半分が透明なプラスチック製のカバーが付いている。その奥には大きめの電球があった。こっちを向こうに向け、左右に振るのが正しい使い方のようだ。
「早く、誰か……!」
バリアが消えたオリオンは外から肉眼で見ることができるらしい。
「やばいぞ、音が大きくなってきてる!しかも足場もそろそろ……」
「ギリギリまで耐えるぞ!限界まで来たら……一か八か、飛び出す!」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




