アルカディア編
第四話 泰平の花の星
「空間遮断バリア、展開。損害……想定内。ちゃんと振り落とされてない?よし。……ようこそ、宇宙へ!」
嬉しそうに振り返るアシリア。
だが俺たちは船の外を見るのに夢中だった。
眼下に映る青い星。
どこまでも続く漆黒。
「もう。宇宙なんてこれからいつでも見れるじゃない」
「いやぁ、どうしても廻貌が宇宙を見たいって言うからさ」
「そんな、宇宙は生きてりゃみんなの上にあるものなのよ?」
「うるせぇ、無属性船長。地下からは宇宙どころか空さえ見えねーんだっての」
「無っ……」
廻貌の一言で言葉がつまるアシリア。あとで叱ってやらないと。
「す、すまん。廻貌は口が悪くてな……。でも、廻貌の言うことには一理ある。廻貌は以前、自分達には見えない世界……宇宙とかが羨ましい、崇めるべき存在だと言っていたことがある。だからこいつなりにはしゃいでるんだと思うんだ。そっとしておいてやれ」
「そ、そうなの?それは……謝るわ。目一杯宇宙を楽しみなさいな」
アシリアは廻貌に向かって話している。しゃべる剣を変とは思っていないのだろうか……。
「あら、この廻貌についておかしいと思ってないのか、ですって?」
「よくわかったな」
「顔にそう書いてあるわよ。結論を言うと、思ってないわ。だってもう一人……いえ、もう一本宇宙を管轄としている剣があるんですもの。しかも廻貌と同じくしゃべる剣。この宇宙を旅してたらもしかすると出会うかもしれないわね。危険な危険なあの人物に……」
アシリアは行き先を見つめながら呟いた。
もう一本廻貌と同じような剣がある、だって?しかも宇宙という想像もつかない広い広い場所を管轄としている、だって?
とんでもない、もしそれが本当だとすれば、廻貌より強い……敵になれば確実に押し負けるだろう。
「ねぇ、アルカディアってどんなところなんだろう?」
ムジナがアシリアに話しかけた。
「別名、泰平の花の星。戦いのない平和の星よ。花畑が広がってて、まさに桃源郷と言える星よ。宇宙初心者にはお似合いの星ね」
「初心者で悪かったね」
「でも、気をつけた方がいいわ。最近変な組織が動いてるみたいだから……」
__________
ゆっくりと降下していく船。
空間遮断バリアは解除済みだ。
確かに宇宙初心者にはお似合いの重力。
地球とそう変わらない。
ヘラがいつからか船の奥の部屋に籠って出てこない。何をしているのだろうか……。
「ヘラ、何してるの?」
オレはアシリアが着陸準備をしている間、ヘラがいる部屋にお邪魔した。
「ふふん、内緒!ほら、アシリアの手伝いでもしてきたらどうだ?」
「邪魔って言われたんだよ!」
「そ、そうか。ならもうちょっと待っててほしい。気に入るはずさ」
……言いくるめられ、オレは外に出ることになった。
地面に着くまでの辛抱だ。もう少しだけ我慢しておくとしよう。
「____着陸一分前。ここは平和だからそんなに気張らなくてもいいわよ」
「うーん……そうかなぁ……建物一つ見当たらないんだけど?」
船の上からでもわかる、見渡す限りの花畑。ついでに人の姿も見えない。
「さっきも言ったけど、戦いがないから平和ってことなの。まぁ噂どころか話題にも上らないから細かいことはわからないけどね」
「つまり何もわからないと」
「そういうことね」
数十秒後、着陸したのだろうか、船が揺れた。
長くも短くも感じられた宇宙の旅。ヘラが籠っていたため、結構退屈だったがいい経験になった。
「お、着いたのか」
疲労の色が濃いヘラが部屋から出てきた。
その頃、オレとアシリアは船から降りようとしていた。
「そうそう、ヘラってば何も教えてくれなかったんだ!」
「でも終わったみたいよ?……何してたの、ヘラ」
アシリアがヘラに歩み寄る。
するとヘラはニヤ、と笑い、後ろにしていた手を前にした。
____その手には服があった。
「また服作ってたの?」
「船の倉庫で見つけた服を縫い直してたんだ。ほら、ムジナぴったりのサイズにしておいたから」
「おー!やったー!」
「よく完璧なサイズわかったわね……おっと、口が滑った」
見た目的にはセーラー服や水兵さんのようだ。ヘラとほぼ似ているが、帽子が違う。オレのは丸っぽい帽子で、ヘラのは角ばっている。
「早速着てくる!」
「行ってらっしゃい。さて……」
「もう……ってヘラまで着替えるのね……」
____数分後。
「なんかよくわからないけど着れたよ!見て、このヒラヒラ!」
「それは元からあったものだ。いいだろー」
「うん!ナイスだね!」
(声を聞くとき、雑音を消すために立てるんだけどね……)
アシリアが何か言いたそうな顔をしているが、それはそれ。早く着陸したい気持ちでいっぱいだ。
「早く行こう!」
オレはヘラの手を引き、勢いよく船から飛び降りた。アシリアが慌てて覗き込むが、オレたち悪魔は翼で飛べるので、ふわりと着地した。代わりにアシリアの海賊帽が風で落ちてきたので、地面に落ちる前に捕まえた。
「落ちたよ、アシリア!」
「キャッチしてくれてありがとう!今行くわ!」
船から木の板を降ろしたと思えば、その上を渡って降りてきた。本来はこうやって降りてくるのだろうか。
「んー、それにしても、いいにおい!まるで花束の中にいるみたいだ!」
「この花、地球のと何が違うんだろう……持って帰って調べたいなぁ」
船の周りを少しだけ歩くだけでも、香水のようないいにおいがする。ヘラも興味津々のようだ。
オレはアシリアに帽子を渡し、代わりに花を手に取った。
「持って帰っちゃダメよ。それ、宇宙空間では生きられないんだから。あとから荷物がいっぱいになって持って帰れないってことになるかもしれないわよ?」
「わぁ、それは大変だ!じゃ、今のうちに堪能しとかなきゃね!……ってヘラ、何してるの?」
隣でヘラが黙々と何か作業をしている。オレは気になってアシリアと共に覗き込んだ。
「ん?……あぁ、これ?押し花。本の栞にしようと思ってさ。これなら宇宙空間でも持ってられるでしょ?」
「ま、それならいけるけど……よく思いつくわね……」
アシリアはヘラの黄色の押し花をまじまじと見て感嘆の声をあげた。
「……そんなに見るなら、いるか?」
「え?」
「ムジナの分はもう既に数に入れてたんだけど……こういうのは初めてみたいだしさ」
(こんな十枚以上、お土産用かと思ってたんだけど、まさか自分用とは……)
「何か言いたそうだけど、遠慮なく言ってくれよ?」
「すごいって思ってただけよ。べ、別に変な意味じゃないから!……ヘラ……お言葉に甘えて一つ、作ってもらってもいいかしら?」
「あぁ!お安いご用さ」
二人が話している間、オレは少し遠くまで歩いていた。
どこまでも、どこまでも花、花、花。
最初は良かったが、こうも同じ景色では綺麗なものでも飽きてくる。いやもう既に飽きてきた。
山だと思ってたものも、実際には花の山だったのだ。
「うーん……さすがに迷子になりそう……目印が無い……」
____オレは、まず迷子になる。それがいつものオレだった。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜