シャドウアース編6
第三十九話 いざ工場へ
「もっと!もっと飛ばして!」
前で紗也さんが運転している。
無理なことはわかってる。
あんなに侵食されては、ヘラは助からないと。でも、オレは諦めきれないのだ。また、ヘラとアシリアと宇宙を駆けたいのだ。
「無茶言うな。これで精一杯なんだよ」
確かに前回よりかは変な音が鳴っている。でも、行かなければならない。
オレは逸る気持ちが露わになり、運転席の後ろで前の背もたれに向かって前のめりになった。
「もー、この車、変形して飛行機になったりしないの?」
「なるか!なるわけないじゃないか!!車を何だと思ってるんだ!」
ちょっとした期待は見事に打ち砕かれてしまった。
今、こうしている間もヘラは苦しんでいる。
ドラゴンソウルが元気に話せているのがその証拠だ。普段はヘラが抑え込んでいるからあれは表に出てこないのだ。
「冬馬たちを置いていって正解だな」
「待ってる余裕なんかないから……!」
「いいや」
体がぐん!と持っていかれる。
また急カーブか……!
「危険すぎるんだよ。……誰にもあんな体験はさせたくない」
呟いた言葉は急カーブにさらされたタイヤの悲鳴に掻き消された。
「いいや?」
「何でもない。あとすぐで着く。戦う準備はしていいけど、ここでは鎌出すなよ?」
「わかってる!当たり前じゃん!みんな五体満足で帰るのが目的なんだから!車も一緒だよ」
紗也さんが一瞬こちらを見てニヤ、と笑ったところで到着した。
車が見つからないよう建物の横に置き、急いで下車すると、大きな重苦しい重厚な鉄製の扉が待ち構えていた。
建物は、口が完全に開きそうなほど見上げないと一番上が見えないほど高い。
「うわーぁ……」
「行くよ。突っ立ってると見つかるから」
「ま、待ってよっ」
二本の針金を手に持った紗也さんのあとを追いかける。
まさかこれって……。
「……ピッキングで開かないと思うなぁ」
「あ、やっぱりそう思う?オリオンが来てからいろいろ変わったからなぁ」
昔は古めかしい工場だったらしく、ドアも南京錠で閉められていたそうだ。
しかし、ビームなど未来すぎる武器を扱っているオリオンの手にかかれば、キーカードやIDカード、さらにはDNAなどのロックにすることができる……らしい。
まず、アシリアの空飛ぶ船もオリオンのものなのでその時点で地球人には再現できない技術だ。
「どうしよう……」
悩んでいると、後ろからポンポンと肩を叩かれた。
もちろん紗也さんは懲りずに前でガチャガチャとやっている。
……では、誰なのだろうか?
「?」
振り向くと、そこには紫の目をした男の人が立っていた。
「こんにちは。キミ、一人かい?」
彼は爽やかな笑顔で聞いてきた。
「ううん。二人で来たんだ」
「そっか。ここは危ない。ここで捕まっていたドラゴンが暴走して飛んでったばっかりだからね」
「その元になった人を探してるんだ!お兄さん、知らない?」
そう訊ねると、彼は目を丸くして答えた。
「キミ、もしかしてムジナかい?服が違うからわからなかったよ」
確かに喧嘩したあとオレはヘラが作った服を脱ぎ、いつもの服に着替えた。あのフード付きパーカーは船に置いている。
どちらにしろヘラが作った服に変わりないが、どちらもオレにとっては大切な服なのだ。
「……お兄さんは誰なの?」
「それを聞いちゃうかい?オレはタビト。……って知ってるよな。当たり前だよな」
オレの表情の変化を見てお兄さん……タビトは頭を掻いた。
水色のバトルスーツをじっ……と見る。
綺麗に割れた腹筋からして相当な実力者だと脳が分析し、足が震えている。
「……っと、さて。侵入者と警備員が出会ったわけだ。やることはわかっているだろうなぁ?」
タビトは笑顔で手をバキバキと鳴らす。
ポキポキではない。バキバキだ。
「ひ……」
思わず後退りしてしまう。
「ムジナ、こっち!無視しよう!」
紗也さんに腕を引かれ、タビトに背を向ける。
ヤバい!と思い、彼の方を見ると腕を組んで目を瞑って下を向いていた。
「?」
そのまま建物に入る。
最後までタビトは動かなかった……。
__________
「……行ったか」
ムジナとブリリアントが扉の向こうに消えていったあと、タビトは静かに呟いた。
「キミたちが真実に辿り着くことを期待しているよ。このアタマにその情報を追加することができるからね。……そうだろう、ブルーローズ」
「そうだな。……本当に記憶は戻してくれるんだろうな?」
ブルーローズは車椅子に座った状態でタビトを睨んだ。
「あぁ。ビジネスはウィンウィンでなくてはならないからね」
「……」
「何か言ったらどうだ?」
「……お前は本当にオリオンを裏切ろうとしているのか?」
「していると言ったら?」
「……何も言わないさ。この星がオリオンから守られればそれでいい。アルカディアのようにはさせたくない。お前たち余所者が滅びようと、この星さえ平和になれれば問題ない」
「仲間と思われてなくて悲しいよ」
タビトはカードを取り出した。
ブルーローズは動こうとしたが、車輪を回す手を止めた。
「ブルーローズ、お前はどう動く?」
「動くだって?誰かさんのせいでなってしまったこの姿を見て、か?」
ブルーローズは自嘲気味に車椅子姿を示す。
それを見たタビトは苦笑いした。
「ごめんごめん。ヘラの怒りを引き出し、本気にさせることでムジナのやる気も引き出す。それでここのトップを倒し、本当のヘラを取り戻してくれれば……チームの力の底上げもできるしオリオンも滅び、宇宙は平和になる。どうだ、良い考えだろ」
「遠回りしすぎだな」
「ま、ヘラとムジナが喧嘩していたのは予想外だったが……ムジナの本気が見れるなら結果オーライだ」
「もし負けたら?」
「その時のためのブルーローズだろ」
扉を開き、タビトは振り向いた。
ブルーローズは苦い顔をする。
ため息をついてスナイパーライフルのケースを手に取った。
「はぁ……お前は昔っからその使い方ばっかりだよな」
「……呆れたものだよ。その記憶も植え付けられた偽の記憶。キミは一般人だ」
そう言って二人は建物に入った。
記録終了。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




