シャドウアース編4
第三十七話 闇の手招き
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「ふぁあ……」
アラームが鳴った。
朝日が昇り、この街は明るく……はならない。
どこまで行ってもこの街は灰色。あり得ないことなのに、この街では当たり前になっている。
ここはブルーローズの部屋だ。
シックな黒い家具で統一されている。
窓の外の灰色と比べればここもまた闇の中、というのだろう。
「覚悟はできたか?」
昨日と同じ服装のブルーローズがサンドイッチを口にして唸った。ちなみに後ろを向いている。
どうやらクローゼットには同じシャツがいくつもあるらしい……。
「……俺の記憶を消して、どうするんだよ。俺はお前らには手を貸さないぞ」
「どんな暴れ馬でも記憶さえなければどうとでもなると言ったのは上の奴らだ」
「……つまり、お前はただその鉄砲を手に何の目的もなく動いてるってワケかよ。面白くないな」
ブルーローズのサンドイッチを持っていない左手がピクリと動いた。
しかしブルーローズはブラックコーヒーを一気飲みしたあとこちらを向くことはなかった。
「そう思うならそれでいい。行くぞ、暴れ馬くん。お前はオリオン、の……うぐっ!?」
ブルーローズは突然頭を抱え、膝から崩れ、苦しげな声を上げた。
やはりここもオリオンの支配下なのか。
それより、こいつのことだ。
たとえブルーローズという名前が付いていても、皇希は皇希だ。見捨てるわけにはいかない。
「皇……ブルーローズ!おい、しっかりし……ろ……!?」
咳をしているうちに帽子が前に落ちた。
サンドイッチを食べていたため、布マスクは付けていなかった。
なので、帽子で暗くて見えなかったブルーローズの優しそうな顔が見えたのだ。
「お、おい!」
「は、はぁ……ぐ……紗也……」
ブルーローズは誰かの名前を呟いたあと気を失ってしまった。
こうなった要因はまったくもってわからない。
だが……この星の仕組みからすると、オリオンは本当のことを気づいた人から無力化していく『幸せ』の要素を持ったこの星を利用して支配している……そうとしか考えられない。
『知らない方が幸せだ』という言葉がある。
自分たちが幸せでいられるためには、青空が見える美しい『本当の地球』があるという知識は不要だ。なのでそれに気づいてしまった人から消していく……それを実行しているのだ。
「……ブルーローズにも愛しい人がいる……?」
この人も本当は他の人のように幸せな家庭を築きたかったのではないか?
それをオリオンはめちゃくちゃにしてしまった?
「許せない……ブルーローズを、皇希を悲しませるなんて……!」
体の奥が熱い。
制御できるようになったはずの力がまた不安定になっているのだろうか。
____これじゃあ、またムジナに怒られちゃうな。
「ブルーローズもよくやってくれたものだよ」
「……むぐ!?」
突然だった。
反応できなかった。
口に布を当てられ、息ができない。
「んー!んー、むー!!」
「黙れ。……お前がボスの娘の仲間か?」
後ろから話しかけられる。声的にはブルーローズより若い男だ。二十歳前後だろう。
……例となるであろう若い男は周りにいくらでもいた。
しかしカリビアさんのようなお人好しでもなく、ヘッジさんのようなやるときはやる人相でもなく、皇希のように一途な男でもない。
力こそ正義だと信じてやまない性悪の脳筋にしか思えない。……そう言ってやろうと思っているが、体が思うように動かない。
体が、本能がこの男を恐れているのだ。
命の危険を感じて動くなと脳が命令しているのだ。
こう感じるのは何度目だろうか。
いざというときにまたこうなれば、俺はムジナを守ることが____いや、あいつは自分で何とかするだろう。アシリアもいるし……。
「ぷは!……し、知らないな……」
「とぼけるつもりか」
「俺はもう関係ない」
「ふうん」
男は黒の革製のソファーに座り、足を組んだ。左隣をボンボンと叩いている。
「……座れってこと?」
「さっさとしろ」
「……わかった」
俺は若い男の隣に座った。
何かタッチパネルを操作している。バトルスーツのような服のどこから出したのだろうか……。
「この写真、お前だな?」
「……!」
見せられたのは、「Sad Echo」直前の写真だ。レーザービームを撃たれ、黒煙を上げたアシリアの船が写っている。
「ここ」
指定したのはこの……数ドット。
赤い髪、黒い服。……俺だ。俺なんだけど……。
「いや細かっ!!」
バッと男を見る。
彼はドヤ顔でタッチパネルを持っていない右手の人差し指で自身のこめかみをトントンとつついた。
「情報はここにある」
____こいつ、イロモノなのでは……?と思えてきた。
「そ、そうか……」
こんな反応をするしかないのである。
「この間に仲間割れするなんてな」
「……ケンカした」
「……仲直りする気は?」
「ない」
「即答だな、おい」
さすがにこの人も呆れたようだ。
彼は勢いよく立ち、タッチパネルをどこかに片付けてこっちを向いた。
整った顔立ち、紫の瞳、肩より少し上まで伸びた髪をしている。
彼は不思議そうに見ている俺に手を差し伸べた。
「オレはタビト。こっち側につくか?ヘラ・フルール」
「なっ……!?」
タビト……タビトだと!?このイロモノが!?
「オレについては聞いたことあるみたいだな。ヘラ。もちろんお前の情報はここにある」
そう言ってまたこめかみをつつく。
……それ、好きなのか?
「……じゃあ俺が『わかりました』って言うことも?」
「もちろん」
タビトはニヤリと笑い、俺の顔に何かのスプレーをかけた。
……それからだ。俺は、ヘラという悪魔は、目を覚まさなかった。
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「……っ」
嫌な風が吹いた。
思わず後ろを見てしまう。
星の魂が震えている。
まるで『私を助けて』と言っているようだった。
「どうかした?」
冬馬くんが心配そうに見上げる。
オレは冬馬くんの顔を見て笑った。
「何もないよ!さ、早く行こっか」
「うん」
冬馬くんは知るよしもない。
オレのような死神が感じることなんて。
普通の人間ならまだしも、不可思議なことを良しとしないこの星の人間には到底理解できないだろう。
ブリリアントのアジトは服と同じ白を基調とし、外のロンドン風ではなく近未来的な雰囲気を醸し出している。
それも敵の感性に囚われないぞ、という意思の表示だろうか。
……アシリア、大丈夫かなぁ……。
「そんなにあの女の子が気になるか?」
「さ、紗也さん!?」
「言わずともわかるさ。お前があそこまで頼りにしていた相棒がいなくなったもんな」
後ろから来た紗也さんは言い切ったあと、ポケットに忍ばせていたイチゴ味であろう飴玉を口の中に放り込み、そのままどこかに行ってしまった。
「何か言い返してもキャンディ食べてるから返せませーん」とでも言いたいのか。きっとそうだ。
「……ムジナお兄ちゃん……」
「紗也さん、もしかして戻ってこなかった人とヘラを重ねてるのかな……?」
「わかんない。でも、そのヘラって人が戻ってこなかったら……同じことが起きるかも」
冬馬くんは下を向いたまま呟いた。
「……。工場には行かないの?」
「今日は難しそう。週一で検問があるんだけど、ちょうどその日だったんだ」
「____早くしないとヘラがっ……!」
踵を返し、アジトの外に出ようとしたが冬馬くんに右腕をガシッと掴まれ、思わずつんのめりそうになった。
「危な____」
「危ないのはそっち!!」
「____っ!」
冬馬くんの叫びに思わず口を閉ざしてしまった。
彼の目は必死かつ涙で潤んでおり、そして……怒りも含まれていた。
「お兄ちゃんまでいなくなったら、また振り出しに戻っちゃう!」
「でも……強いのはヘラだよ」
オレは目を逸らす。だが冬馬くんは俺の目を見たままだった。
「ううん……。僕が知ってる最強の男は、ムジナお兄ちゃんだ!!」
叫んだ直後、アジトのあちこちから悲鳴が聞こえた。
「出たぞ!炎を吐くドラゴンだ!!」
……それが一番聞こえた言葉だった。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




