Sad Echo編2
第三十一話 アシリア・L・オリオン
「わっ、わっ、わっ!?」
「口を閉じなさい。舌を噛むからね」
走っているときの宿命か、抱えたムジナの体が上下に跳ねる。
走って逃げていることがわからないのだろうか、映像は止まらない。
逆にそれが脅威となっているのだが、無視する他なさそうだ。
ちなみに下駄は走りにくいのでムジナに持ってもらっている。
着物はすでにスカートのようになっているが、気にしない。そんなことを気にしていたら、宝のマイナスの力に押し潰されてしまう。
賭け。精神の消耗戦。時間との戦いだ。
「……はぁ、はぁ……」
「大丈夫?」
「すっかり体力も落ちてしまったよ」
もう今は何歳になっているのかわからない。
ファンタジーな話になると不死ではないが、不老になると聞く。
……だが、俺はどちらかというと『仙人』に近いかもしれない。ほら、あれって動かないおじいさんとかのイメージだろう?
「……月光さん、緑茶のいいにおいがする」
「習慣で飲んでるからな。それにしてもよく知ってるな」
ムジナは舌を噛まないように、呟く形で言葉を紡ぐ。考えたものだ。
しかし、ゆっくり言うものなので聞いてるこっちが眠くなりそうだ。
「黒池が淹れてくれたの。その時にね、『甘いものがよく合うんです。騙されたかと思って飲んで食べてみて』って、お饅頭もくれたんだよ」
「そう……そっか。楽しそうでなによりだ。しばらくはそれを思い出しながらじっとしててくれ。それは大いなる防御となる」
「んー?……うん!」
それ絶対わかってないだろう……と心の中で思いながら足を動かす。
さっきのムジナとの会話は、眠る前の孫と話しているときに似ていた。いつからだろう、こんなアウトローな人生を歩むようになったのは。
できることなら、ずっと話続けてもらいたかった気もする。
「……?」
ムジナは重いまぶたを押し上げ、こちらを見る。
カラコンを付けたわけでもない赤い目がこちらを射抜く。
「どうした?」
「月光さん、昔何かあったの?」
「……ふふ、どうだろうな」
「そうだ!ヘラに緑茶と和菓子あげたら喜ぶかな?」
「喜ぶだろうね」
「よーし!そうと決まったら、早く解決しちゃお!月光さん、その時はオススメのもの、一緒に探してくれる?」
「……!おじさんもお茶会の仲間に入れてくれるのかい?」
「もちろんだよ!えへへー、楽しみだなぁ」
ムジナはにへらと笑った。
「そっか……なら、もっと頑張らないとな!」
ちら、とヘラを見る。
映像の爆音が気に入らないのか、しかめっ面になっているようだ。
「ヘラ、多分もうちょっとで着くと思うからそれまで耐えてくれよな」
「う、ぅ……月光……?……え!?」
「おはよう、ヘラ」
自分が身動きできないことに気がつき、懸命に動くヘラ。だが諦めたのか、俺の背中に顔を埋めた。
「動くのをやめてくれて助かったよ。おかげで走りやすくなった」
「……どうして俺たちに手を貸す?」
「君たちに倒れられたら、おじさん、困っちゃうからさ」
「……この映像は?」
「あの船長の真実だよ。見たけりゃ見ればいい。本人から聞く前にネタバレってことになるけどね」
「……寝起きに見るものじゃないな」
……と、ここで洞窟の最奥に着いたようだ。
さっきまでは何ら変哲もない洞窟だったが、ここだけは別世界のようだった。
おそらく宝の魔力で次元がねじ曲がってしまっているのだろう。
「なんだこれ!こんな禍々しすぎる魔力、感じたことないぞ!」
「そうか?おじさんは何も感じないが……」
「鈍感なのか、人間には感じられないのか……」
「あ!アシリア!」
ムジナは俺の腕から脱出し、浮いている岩をぴょんぴょんと飛び乗っていった。
岩自体が発光しているのか、薄紫に光っている。
「わわー!おっとっと!」
「大丈夫か!?」
「だーいじょーぶー!!いけるー!」
そう言って大きな翼を広げる。
心臓に悪いというか、最初から飛べるじゃないか!!
「……はぁ……」
「月光、月光」
ムジナが飛び出したので、ちょうどいいと下ろしたヘラにちょんちょんと背中をつつかれた。
「ん?」
「ムジナを許してくれ。確かに俺たちは飛べる。だが、ここは宇宙だ。魔界じゃない」
「それはわかるさ。でも何か問題あるのかい?」
「魔力があまり補給できないんだ。宇宙線ってやつが不純物として混ざってきたんだ。試しに取り込んでみたら、見事に二人ともお腹壊してトイレ行き……」
ヘラは大きくため息をついた。
……二人がそんな苦労をしていたなんて、俺が馬鹿みたいじゃないか。
「簡単に言えば、抗生物質が無い状態でウイルスを血管に入れるようなものだ」
「でもお腹を壊しただけだろう?」
「……あのなぁ、大変なことになるのは純粋な『悪魔』だけ。俺たちは種類に分かれてんの!」
「種類?」
特にこれといった特徴の無いムジナを見ながら聞いた。
「そ。ムジナはあれでも死神なんだぜ」
「えー?本当かぁー?」
……と、再び特にこれといった特徴の無いムジナを見た。
死神といったら黒いフードとか着て、大きな鎌を持って、髑髏!って感じのアレしか思い浮かばないのだが……。
「本当だ!」
「じゃあヘラは?」
「えっ」
ヘラの顔が真っ青になった。
「純粋な悪魔……とは思えないほど赤いんだが?」
「……うぅ……この変態!」
「何d____ぐふっ」
グーパンでお腹を殴ることないだろう……!
これでも敬老の日とかにサービス受けたり、信号で『お荷物お持ちしましょうか?』と聞かれるくらいの年齢だぞ!?
「俺はインキュバスなの!だから、生体エネルギーが必要なんだよ!」
「あー……モザイク必須のやつか?」
「いや……調べたところ、魂や一緒にいる人から奪い取ったりすることでもいけるらしい」
「えっ」
思わず後ずさった。
「大丈夫!月光からは取らないから」
「本当か?」
「本当!今はムジナたち死神が狩った魂を使わせてもらってるんだ。いわば永久機関ってやつ。俺がムジナを守ってるのは、それを止めないようにするためなんだ」
だからあんな必死にムジナを守っているのか……。なら、二人が一緒にいれば魔力を補い続けられるのでは?
「でも、やっぱり宇宙には死神の力が及ばないらしく……だから節約生活してるんだよ」
「……最後の戦いで使い果たしたら?帰れないんじゃないのか?」
「東京で捕まってる奴に頼む」
「……そうか」
俺は「宇宙から地球に帰れるか」と聞いていたのだが……まぁオリオンなんて興味ないし、迎えに行こうったって、場所がわからないから不可能だ。
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「よっと……アシリア!」
「ムジナ!」
ふわふわと浮く岩を渡り切ると、オレはアシリアに声をかけた。
当然、アシリアは驚いて振り向いた。
彼女の前にはここに来るまで月光さんから何度も聞いた『宝』らしきものが置いてある。
ビデオカメラってやつだったかな。マリフの牢屋に置いてあったものと似ている。確かそんな名前だ。
しかし、ものすごく古い。それもそうか、何せこんな宇宙の洞窟の中にあるのだから。
「どうしてこんな奥まで一人で行っちゃったの?みんな待ってるよ」
「みんなって?」
アシリアの声が震えている。
「ほら、ヘラと……あれ?」
後ろを見ても誰もいない。
方角は合っているのにどうしてだろうか。
「誰もいないじゃない」
「おっかしいなぁ……とにかく、そのカメラを退かそう!これが悪さしてるんだってさ」
宝に向かって手を伸ばそうとした。
その時だった。
バシッ!と手を叩かれてしまった。
「痛っ!何するんだよ、アシリア!」
「これを渡すわけにはいかないわ……見たのでしょう?映像を……」
映像というのは、月光さんが『教育に悪い』と言って見させてくれなかったものだろう。
「映像?あー……月光さんが見ちゃダメって言ったから見てない」
「え!?どんだけ純粋なのよ。正直なのか、バカなのか……」
「って、さっきからアシリアおかしいよ。なんか元気ないというか突き放してるというか……」
「そう思うならそれでいいわ。……ついてきて」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




