不意打ちほど酷いものはない
第二十九話 再び空へ、そして地へ
羅針盤を受け取り、俺はムジナと共に出航の準備をしていた。
船は無事で、爆弾が設置されていたのは城部分だけだった。なのでアンコウは助かった……と、本人から聞いた。
「今回もいろいろあったね」
「ありすぎたな」
「これから復興に向けて、他の星に救援を求めるって言ってたんでしょ?グランドゥクラウディとか言われてたけど大丈夫なのかなぁ?」
「大臣がいなくなることを予想していたアンコウが匿名で通信を行ってたらしい。だからそこのところは心配しなくていいって言ってたよ」
「さすが占い師さんだ!これで本当の『グランドゥプリュイ』になれるんだね!」
ムジナは興奮したのか、紐を手放してしまった。
「あ、やばっ」
「間に合わない!」
しゅるしゅるっ!と帆を押さえるための紐が音を立てて離れていく。落ちきると、さっきまでの作業が水の泡だ。
……しかし、その紐の動きはすぐに止まることになる。
「……海では気を抜かないって何度言ったらわかるの?」
アシリアが呆れながら紐を持ち、ため息をついた。
「アシリア!よかったぁ」
「よかったぁ、じゃないわよ。二人だけじゃ心配だから早めに切り上げてきたの」
「何の話してたの?」
「ここから出る方法よ。いつか来るべき時のためにサメがいろいろ手配してたみたいよ」
「サメさんが……」
アシリアは持っていたサメの手帳を見せてくれた。
『人間がどうやってコンタクトを取っていたのかはなぜか知っていた。こうやって文字を書くことだ。
人型になるということは、呼吸方法も変わり、適切な生活方法も変わるということだ。』
『人間はどうして陸を目指したのかがわかった。動きやすさが違うからだ。人の形になった俺たちは、こんなクジラの中から一刻も早く脱出せねばなるまい……。』
『最悪だ。人型になっても、水が無いところでは息ができないようだ。これではハコフグに太陽を見せることができない。』
『大変なことがわかった。ここは海の洞窟ではなく、バカデカいクジラの中だった。毎日のように起こる地震は、クジラが潮をふいているからだという。もしかすると、その潮に乗って外に出られるかもしれない。だが……ずいぶんと高い場所にある。俺たちではどうすることもできない……。』
これは間違いなくサメの筆跡だ。
なぜ知っているのかというと、作戦会議の時に見たからだ。
「つまりこの船が飛べば外に出られるんだね!」
「そういうこと。でもハコフグたちはここに残るって言ってたわ」
「そっか……」
「イサキは大丈夫なのか?あいつだけ塩食ってないだろ」
「イサキは……わからないわ」
「わからないって……」
「わからないのはわからないの。これ以上……治らないらしいから」
……アンコウの話は本当だったのか。
イサキがもうヤバイということが……。
「……俺たちにはどうにもできない。出発しよう」
「助けようとは思わないの?」
「そういうムジナは?」
「……死神としては……放っておくことしかできない」
「なら決定だ。アシリア、頼む」
「え、えぇ……」
船がミシミシと音を出しながら少しずつ浮いていく。
これならサメが目指した『陸』に出られるはずだ。
「いいの?ヘラ」
「何がだ?」
「イサキのことだよ!一番イサキと仲良かったの、ヘラでしょ?」
「……だが、イサキも覚悟していたと思うよ。真実はすでにアンコウが伝えたらしいからな」
ムジナは「ここまで準備万端だったなんて」と思っただろう。俺も同じ立場だったらそう思う。それが現実なのだから仕方がない。
「……わかったよ。アシリア、次はどこ?」
「シャドウアースよ。別名『裏地球』。反転地域とはまた違った意味で反転してるの」
「でもここから出られたらの話だがな」
「もー、ヘラってばいつもネガティブなんだから」
「おーい!」
下から声が聞こえた。
声からしてシャコだ。
右手を大きく左右に振りながら叫んでいる。
「気をつけろよなー!またいつか会おうぜー!」
「うん!シャコさんも、元気でねー!!」
「こらこら、落ちるぞ、ムジナ」
「はぁーい」
と言いながらも下を覗くのを止めないムジナ。なぜなら、俺も同じことをしているからだ。
「あ、あそこ!姫とイサキがいるよ!」
「ほんとだ。なぁ、アシリア!お前も来いよ」
「うん。準備できたわ」
アシリアはムジナに帽子を渡し、覗き込んだ。
姫がイサキに肩を叩かれ、俺たちの船に気づいた。
「アシリアー!また来てくれるわよねー?!」
「えぇ!!今度はゆっくり女子会でもしましょーう!」
「……イサキ、女子会って?」
「さ、さぁ……?でも、楽しそうなことでしょう」
船はどんどん上昇していく。城全体が見えてきたところでムジナは首を引っ込めた。
そろそろ天井だ。ここらで待機しておけば____。
「うわ!?」
グラグラと船が揺れ出した!
腰にロープを巻いていたので、落ちることはないが、怖いものは怖い。俺は二人の手を握って揺れに耐えた。
「きゃー!?」
直後に訪れた重力。
まるでフリーフォールのスピードをそのままに、下ではなく上に向かっているようだ。
「う、ぐぬぬぅ……!」
「いっけぇえええええ!!!」
バーン!!!と轟音を立てて放り出される船。それは俺たちを乗せたまま勢いよく着水した。
お腹から飛び込みするのは危険だと聞いたが、それよりもかなりの倍率の衝撃が俺たちを襲った。
「いててて……大丈夫か?ムジナ、アシリア」
「えぇ、なんとか……」
「でも楽しかったー!」
「「もう二度とごめんだ!!」」
俺とアシリアは二人で叫ぶ。
ムジナは「冗談じゃん……」と呟きながら船の外を見るために駆け出した。
「あー!あのヤシの木だけ島!戻って来れたんだー!」
「本当ね」
「話には聞いてたが、あんなあからさまな無人島は初めて見たぞ……」
俺たちは唯一の目印である無人島を見て、それぞれ安堵の声を出した。
「ねぇ、ヘラ」
「ん?何だ?」
「今釣りしたら、クジラ釣れるかな?」
「釣れるとしても絶対嫌だぞ、俺は」
「あはは、オレも」
「あと数分で宇宙に出るわよ。万が一のために衝撃に備えときなさい」
「「はーい」」
いつも通りに宇宙に出た。
ヤシの木はもう見えない。
ヤシの木より大きいクジラは潜ってしまったのか、姿は見えなかった。
「バリア展開。目的地を『シャドウアース』に設定。これよりオート操縦に変更します。……服は乾いた?」
テキパキと設定を施し、振り返ったアシリア。その視線の先には、濡れた服を弱火で乾かしている俺と、水蒸気で炎が強くなりすぎないようにコントロールしているムジナがいた。
「ヘラのコートのモフモフが濡れたまんまだよー」
「仕方ないだろ、こんな素材なんだから」
「……まぁなんとかなりそうね。今回はそこまで遠くないからワープは使わないわよ」
「方向はわかるの?宇宙は暗いよ?」
「大丈夫。アルカディアで獲得した舵に羅針盤を付けたの。これがこの宝の本来の使い方なのよ。おかげで目的地を見失わずに的確に到着できる。これが無いとオリオンの本拠地に辿り着けないもの」
アシリアは『真実の羅針盤』と言っていた。にわかに信じがたい話だ。
「おぉー、それがあれば、落とし物もすぐに見つかるね!」
「そんなことに使うのはムジナくらいだと思____」
アシリアが話していると、船が大きく揺れた。
ここは宇宙だ。ありえない。隕石でもぶつかったのかと慌てて船の外を見てみると、なんともう一隻の船がいた!しかもよく見ると、前の方が光っている!
「な、な、なんだあれ!?」
「ヤバイわ!推進部分が破損!あの洞窟みたいな星に不時着するわよ!しっかり掴まっておきなさい!」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




