グランドゥプリュイ編12
第二十八話 決着・グランドゥプリュイ
「いつから気づいていたのかね?」
「俺たちが人の形になる前だ。お前みたいな巨大な影がいなくなれば、誰だって気づく」
シロナガスクジラはジンベエザメよりでかい魚だ。正しくは哺乳類だが。
「同盟が近づかなかったのは、お前たちみたいなデカくて怖くて強力なやつがいたからだ。人型になったお前の存在をいち早く知った同盟はあの手この手でお前を仲間に引き入れた」
俺の言葉に、シロナガスクジラは「くくく」と笑った。
「何がおかしい」
「半分正解で半分不正解だ」
シロナガスクジラは立ち上がり、パンパンと衣服に付いた汚れを払った。
「あっちから来たのではない。こっちから向かったのだよ」
「どうしてそんなことをした?」
「そりゃあ絶望していたからさ。この代わり映えしない星にな!」
シロナガスクジラは高らかに叫ぶ。
頭のおかしい言葉に俺は絶句し、かける言葉も無いのでただ睨むだけだった。
「どうした、何も言えないのか?着々と近づく『死』に怖じ気づいたのか?」
「ほざけ。死ぬことを承知で残ったんだから今さら怖じ気づいたもクソもねぇよ」
俺の言葉に合わせ、ひときわ大きな瓦礫が落ちてきた。場所は俺の二歩後ろ。もうちょっとで直撃していたところだ。
「……っ」
「やはり怖いのか。お前はもっと正直に生きればよかったのにな」
「正直になるにはもう遅い」
「……そうか。せっかく二人きりになったんだ。最期にのんびり話そうではないか」
「……ふん。悪くはないな」
俺はシロナガスクジラに近づく。
シロナガスクジラは食堂の椅子を二つ引っ張ってきた後、お互いの前に置いた。
「何の話をするんだい?」
「同盟についてだ」
「やはりそうきたか……」
「アシリアについては何かわかるのか?本当に……オリオンの一人娘なのか?」
時間は限られている。ならば核心をつくことから始めるのは当然のことだ。
「……結論から言わせてもらおう。間違いない、彼女はあの方の娘だ」
「じゃあどうして!どうしてアシリアを牢に入れた!?」
仕える人の娘なら丁重に扱うのが当たり前の行動だ。
「姿はわからなかったのでな。それに……」
「それに?」
「あの娘は同盟を裏切った。ならば残るのは死のみだ」
顔色ひとつ変えずに淡々と話すシロナガスクジラ。
「お前が言うな!……うわっ!?」
俺は勢いよく立ち上がるが、隆起した地面に足をとられて尻餅をついた。
____くそ……!裏切り者が裏切り者を語るな……!!
____俺は……俺は、こいつら同盟を後悔させるためにここに残った……!『あの女』の提案を断ったんだ……こんなところで……こんなところで、終わってたまるか!!
「落ち着け、まだ話は終わっていないだろう?」
「くっ……さっさと終わらせるぞ」
俺はドカッと椅子に座り直し、シロナガスクジラを睨んだ。
「……お前とあの娘はよく似ている。もちろんやること成すことがな」
「反逆と嘘……か?」
「……そうとも言えるな……」
シロナガスクジラの声が小さくなる。
驚いた。息をする音が驚くほど小さく聞こえる。
どうしてそんな綺麗に体の上に天井板の塊が落ちてきたのだろうか!
「おい!シロナガスクジラ、まだ話は終わってないぞ!」
「いや……この星、グランドゥプリュイが怒っている……これはその証拠……」
シロナガスクジラは上を見る。
今は巨大クジラの口は閉じられているため、水は入ってこない。だが、ここまで城がボロボロになっているのならそれは時間の問題だ。クジラのお腹の内側が見えるということはもう天井はすべて崩れきってしまったのだろう。
「どうやら星は我々オリオンを敵と見なしたようだ」
「もうすでに俺たちは敵だと思っていたんだがな。世界を見守る神は無能だ」
「そんなことを言うまでになって____いや、それそこが楽しみだな」
「楽しみ?神を崇めるお前らオリオンに向けて貶した言葉なのに?」
「____あぁ、もちろんわかっている……。お前の成長した姿を見られて幸せだったよ」
シロナガスクジラはゆっくりと目を閉じ、俺の最後の問いに答えることなくその生涯を閉じた。
終わりは限りなく呆気ないものだった。
シロナガスクジラは人型になったばかりでいじめられていた俺たちを保護し、育ててくれた。
だが、ある日毎日のように攻めてきたオリオンとシロナガスクジラがコソコソと話しているのが見えてしまった。
『化学薬品』なるものをもう一度入れてみようか、って言っていた。
そのせいだろう。今のレジスタンスの皆が魚から人型になったのは。
ムジナたちにはすまないことをした。
本当は突然変異なんかではなく、オリオンが撒いた薬品のせいだって。
彼らにはオリオンに関わってほしくなかったが……なるほど、アリシアがいるからどうあがいても逃げられないわけか。それなら最初から嘘なんかやめて、本当のことを言って助けを乞えばよかったんだ。
……あぁ、俺はなんてバカなんだろう……。
「ん?」
____あれは船だろうか。しかも小さい。
ターボと言ったかな。何かが噴射されている。青い、キラキラとした何かが……。
「おっ!生存者はっけーん!!」
能天気な声が聞こえたと思った直後、船は急降下した。
「星に乗った特ダネ聞いてやって来ました、商人ちゃんです!って、こんなことしてる場合じゃないね!……うーん、そこのおじさんはダメかぁ……掴まって、出るよ!!」
早口で捲し立て、船から降りた商人ちゃんと名乗った子供は俺の手を力強く握り、船に再び乗り込んだ。
「ま、待てよ!俺たち魚は水から出られないんだ!」
「でもイレギュラーなんでしょ?」
「な……お前、なんでそれを……」
この話を知っているのはシロナガスクジラやムジナたちだけだ。
「詳しい話は後々!さ、しっかり掴まってて。水槽はそこに入ってるから使っていいよ。よーし、コロニーにしゅっぱーつ!!」
「お、おい、安全運転で……うわああああ!!!」
……こうして、俺とこの商人ちゃんって奴の二人旅が始まったのであった……?
__________
「……ん?」
「どうかした?ヘラ」
「いや、何も……」
なんか悲鳴が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
後ろを見たあともう一度前を向いた。
____その瞬間、全てが崩れた。
「ジンベエザメ……嫌っ……嫌あああっ!!」
「姫!落ち着いてください、姫!」
「____痛っ!!」
ハコフグが膝から崩れ落ちる。
彼女は腕を押さえ、荒く息をしていた。
「はー……はー……」
「ちょっと見せてくれ!」
俺は何があったのかわからずにあたふたしているイサキを退かせ、ハコフグの腕を少し離れたところで観察した。
……鱗が六枚ほど剥がれている。
固定するものを探そうと周りを見ると、数人が苦しそうに腕を押さえてうずくまっていた。
「痛そう……」
「当たり前のことだ。思っても口にするなよ、ムジナ」
「わかってるけど……こんなのって……」
見れば俺にだってわかる。
タイムオーバーだったんだ。
もう少し早く解決していれば、こんな光景は見ずに済んだのに。
「イサキはまだ動けるか?」
「はい」
「塩、皆に配るのを手伝ってくれ。人数分になるから一人の分が少なくなるが……」
袋のものを取り出し、大雑把ながらも人数分に分けた。
どう見ても普通の塩だった。
まずムジナはシャコの元へ、俺は姫の方へと行った。
「シャコさん!」
「……これは姫さんに渡してくれ」
「どうして?!これ食べないと、みんな……!」
「この星には姫さんが必要だ。だから誰よりも生きてほしい。……サメならそう言うだろ」
……そんな会話を繰り広げたと、ムジナはしょげながら戻ってきた。
俺も同じだった。
「この星を一度でも同盟に引き渡してしまった私にはもう姫という資格はない。だから私より周りの人たちに生きてほしい」と言ったのだ。
俺は崩れ落ちた城を見て考えた。
サメなら何と言うのだろうか。
やっぱりあの人もシャコと同じことを言うのだろうか……。
「何よ、二人ともネガティブになって!」
バシッ!!と頭に衝撃が走った。
「いてぇじゃねえかよ!!叩くことないだ……ろ……」
勢いよく振り返ると、そこには涙目になったアシリアが拳を震わせて立っていた。
「死んだ人に引きずられてどうするの!?私だったら無理矢理にでも全員等しく塩を渡すわ!そしてこう言ってやるの!『オリオン、あなたたちの企みは台無しにしてやったわ、ざまあみろ!』ってね!!」
ムジナは頷いたあと、全員に配るべく駆け回った。
俺はワンテンポ遅れたあとに走った。
シャコみたいなこと言ってるやつらの口に無理矢理塩を流し込んだ。
俺たちが普通に塩を流し込まれると噎せるのだが、魚は違う。
水や薬を入れられるのと同じで、害は無いようだった。
「げほっ、げほっ!何するんだ、ムジナ!言っただろ、これは姫さんに渡____」
「いいって言ってたから、いいの!!もう……怖いのはいやなんだ」
姫はムジナたちを見、不快感を露わにして話した。
「……あなたも、何のつもりですか」
「あぁ、本当に何のつもりなんだろうな。ここを助ける義理は俺にはない。通りすがりだし、まず捕まった。でもな……助けるのが当たり前なんだ。オリオンは俺たちが絶対に壊滅させる。だから、また会えるときが来れば、いい笑顔を見せてほしい」
……全員の処置が終わり、姫がアシリアを呼び出した。
正式な話をするのだろうか、男たちは事前に周囲の瓦礫を退けさせられた。
「アシリア」
「はい、姫様」
アシリアは跪いたが、姫がアシリアに手を伸ばした。
「顔を上げなさい」
「ですが……」
「大臣に騙されていたとはいえ、私はあなたに酷いことをしました。それにあなたたちが来なければ、ここはオリオンに支配されたままでした。感謝すべきなのは私たちなのです」
「姫……」
「ハコフグでいいわ。それに、ため口でも大丈夫。私たちはもうお友だちでしょう?」
「……ハコフグ……うん!そうね!」
姫はイサキを呼び、彼はプレートを持ってきた。その上には羅針盤が乗っていた。
どうしてすぐ出せたのかというと、理由は簡単だ。
イサキは信じていたのだ。
俺たちがこの星をオリオンの魔の手から救うことを。
「こちらを」
「ありがとう、イサキ」
「それ……いいの?」
「今はこれくらいしか用意できないけど……アシリアはこれが必要なんでしょ?」
「えぇ!ありがたく使わせてもらうわ!ありがとう、ハコフグ!」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




