グランドゥプリュイ編3
第十九話 王と賊
「ムジナさんはこちらです」
イサキが貝を加工した鍵で扉を開ける。
ヘラとアシリアは違う部屋だ。
「おぉ……おおお!すごい!オーシャンビュー!」
「えぇ、本物の海です。むしろ海中です」
「それくらいわかってるよ。イサキって接客したことないでしょ?相手の気持ち汲んでる?だからあのお姫様が言うこと聞いてくれないんだよ。わかる?」
オレの怒濤の説教に、イサキは目線を逸らした。
「す、すいません……ここまでたどり着けた者が少ないものなので……」
「え?少ないの?捕まってた人多かったのに?」
「はい。ヘラさんは久しぶりにあの牢屋に入れた、生きている者でした。他に色々な方がいたのはご存知ですよね?」
「うん。ちょっと怖かったけど……」
あのサメさんの恐ろしい顔を思い出し、思わず身震いがした。
今だに本物のサメとは信じがたい。
「彼らは反乱を起こし、捕らえた者たちです。その中のリーダーである、サメを一番奥の最も厳重な牢屋に入れました」
「サメ……」
「現在はすっかり大人しくなったのでもう牢屋から出してもいいと判断し、話を持ちかけたのですが、本人に断られたのです」
あれで大人しくなった?
全く変わっていないの間違いなのではないか?
「どうして断ったの?」
「そんなの知ってるわけないじゃないですか。でも僕たちもそれで安心したのです。サメは僕たち弱小の魚にとって脅威でしかないのですから……」
__________
イサキも去り、自由になった俺は部屋の探索をしていた。
俺の部屋も色は違えど、鍵は貝でできている。加工するときによく折れなかったなとは思ったが、突然変異で魚が人になるくらいならそこまで深く考える必要はないだろう。
次に、窓だ。
魚が泳いでいるのが見える。
外の水が入ってこないようにするためなのか、一切窓が開く気配はない。
最悪の想定では逃げないようにと閉めているのかとも考えることができる。
まず水圧で開かない。
ベッドは深海をイメージしたレース付きで、上から流すような感じにかかっている。
特に変わったところはない。
あとはソファー、机などだ。
いずれも怪しいところはない。
「変なところはないな……」
呟いたあと、後ろでガチャッ!と音がした。
扉が開いたのだろう。
イサキが一礼した。
「ヘラさん、お食事の時間です」
「もうそんな時間なのか?……まさか、シーフードとか言うんじゃないだろうな?」
「海藻サラダです」
「……よかった……」
「?」
イサキはよくわからないという顔をする。この星には共食いという言葉はないのだろうか。
「行こうか、イサキ」
「はい。お二人はもう食堂で待っていますよ」
二階に上がり、城の東に移動した。
中は宴会場のようになっており、姫を退屈させないようにするためか、ステージが用意されていた。
そんな広い食堂でちょこんと座る二人。
こんなに広いのに座るのが俺含めて三人だけなんてもったいない。
「ヘラ!すごいよ!海老とか入ってる!」
笑顔で手を振るムジナ。緊張感がない。
「そうかそうか」
俺はムジナの隣の椅子に座り、手を合わせて一口食べた。
普通に美味しい。
若干塩気が多いが、ここは海の中なので目を瞑るしかない。
「食事のあとはご自由にお城を探索なさって結構です。もしよければ魚の解説とか致しましょうか?」
「うーん、長くなりそうだから遠慮しとこうかな」
「さようですか。ではどうぞごゆっくり」
イサキは再び一礼し、どこかに行ってしまった。
俺はそれを見送ったあと、イカに苦戦しているムジナに話しかけた。
……っていうかシーフードじゃないって言ってたよな?なんでイカとか海老とか入ってるんだよ。もしかしてシーフードの意味を知らなかったとか?
「うまいか?ムジナ」
「うん!海の生き物って飲み込みにくいんだね!」
「よく噛めよ」
「親みたいね……でも、本当はそんな話をしに来たんじゃないでしょ?」
「もちろん。俺はこれからサメのところに行く。二人はどうする?」
「私は行かないわ。姫と話をしないといけないもの」
「そうだったな。ムジナは?」
ムジナは俺とアシリアを交互に見て、小さくカットされたワカメをフォークでまとめて刺した。
「ヘラのお守りをするよ!サメさんを怒らせちゃダメだしね!」
「なっ!?」
「あは、言われてるわよ、ヘラ」
「……わかった。じゃ、ムジナはついてこい」
「やったー!」
__________
「……来たのか」
蝋燭の逆光のせいで黒く見えるが、二人組が見える。話し声からして男の子二人だろう。
こんな俺に会いに来るなんて相当な変わり者だ。
……それに比べてあいつは変わってしまった。あの男のせいだ。あの男があいつに変なことを吹き込んだから____。
「サメさん、昨日ぶりだね」
「ふっ、こんなところにいるから時間の感覚なんてねぇよ」
どうせ俺たち魚の類は時間の感覚で考えるより、いつのまにかポックリ逝ってるようなもんだ。
寝ることもあるが、何せこの星の中なので常に起きていることもできるし、眠ることもできる。
サメの中にも、水を吐き出す孔があるのと無いのでかなり分かれてくる。それを使うのかは自由だ。
人間はいつでも眠れる。だが、寝たくないのなら寝ないというのと同じだ。
つまり、いつでも眠れる。
ここを不夜城と考えてもらってもいい。
……城だけにな。
「なぁ、サメ。あのイサキとか姫とか……あいつらも魚なのか?」
「え?!そうなの!?」
「そうだ。あいつらも魚……イサキの方がよっぽど魚だぜ。地球から来たんだったら知ってると思ってたんだが……」
宗教的に食べることができないとしても、図鑑などで見ることはできるだろう。相変わらず変な奴らだ。
「だろうな。イサキは皇希の家の近くの店で見た」
「いつの間に人間界に行ってたの!?連れてってくれりゃよかったのに」
「ごめんごめん」
俺たち魚もそうだが、人間界って珍しい言い方するな……。もしかしてこいつら人間じゃないのか?
「ま、まぁそのままの形では売ってなかったけど……」
なんとまぁ残酷な話を魚類の前で堂々と。
だが、その形が当たり前なのだろう。
「もう、ヘラは料理のことしか考えないんだから!」
「しょうがないだろー。腕が鳴るんだ。さっきの塩っ気半端ない料理食わされたあとなんだもん」
塩っ気……こいつら、イサキの料理を食べたのか。
「塩ばっか摂ってると病気になるぞ」
「だから代わりに料理してやろうと思ってたのに……」
そういやこの赤いのは魚を乱獲して捕まったとか言ってたような……。
「そんなに料理が好きならさせてもらうように頼めばいいのに」
「そんなこと言ったら、この魚だらけの星で作るのはシーフード料理ばっかになるぞ」
「む……そうだな……」
口達者だな……あの男みたいだ。あの男は自由自在に姿を変えるとレジスタンスの一人から聞いた。まさか……いや、そんなことはありえない。
「どうしたんだ?難しい顔して」
「え、あぁ、いや。何でもない。……ところで、お前ら……イサキからどこまで聞いた?」
「……お前が反乱を起こしたって」
あぁ、やはりそれを聞いたか。
「俺たちは同盟が嫌だったからな。理由はただそれだけだ」
「あの姫はどっち側なんだ?」
「さあな。最後に顔を見たのはずいぶん前だ。わかるわけないだろ」
……あいつは俺の中ではまだまだ良い仲だということも思ってないだろう。
「ねぇ、サメさん」
「ん?」
「お腹……空かないの?」
「え」
突拍子もない質問に思考回路が止まってしまった。
「ムジナ……今、それ聞く?」
「ヘラ、大事なことだよ?サメさん、たっくさん食べそうだし」
「……空いてないって言ったら嘘になるな」
「ほらぁー!やっぱり!そう言うと思って、イサキの料理持ってきたんだ!」
お腹が空いたとか考えたら、空いてきた。
やばい、鳴りそ……って、待て、イサキの料理だと?おいおいおい、そんな満面の笑みで牢屋の中に皿を入れないでくれ!
「めっちゃ手と首横に振りまくってるけど大丈夫なのか?」
「いーのいーの!これしかなかったんだもん」
「まぁ、城と言ってもかなり食料は少なかったからな」
ヘラ……と言ったかな。
こいつが言うことは間違ってはいない。
ムジナの気遣いもありがたい。
久しぶりだ……こんなに嬉しい気持ちになったのは。
レジスタンスでもこんな風に騒いだことがある。だが、その仲間はもう戻ってこない。あぁ、まただ。またネガティブになってしまった。
「……ありがとう。ありがたくいただくとします……」
「なんか元気なさそうだね。やっぱりお腹空いてたのかな?」
「次は俺が作ってやるから。サメ、明らかに嫌がってただろ」
どちらかというと、実はイサキの料理は嫌いではない。
『イサキという人物』が嫌いなのだ。
「ふ……ヘラの料理、楽しみにしてるよ」
「そのためにはイサキに交渉しないとな」
その言葉に皆が弾けたように笑った。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




