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裁判を始めましょう4 未来を歩きましょう

 あの裁判から一年が経ちました。この一年、様々なことがありました。


 裁判から約一ヶ月後、先王陛下がお隠れになられました。その十日後、先王陛下の秘蔵っ子であられたリリアン王女が後を追うようにお隠れになられました。翌月に国外の方をお招きした立派な先王陛下の葬儀に隠れるようにリリアン王女の葬儀もひっそりと行われたそうです。


 貴方のご両親と同じように先王陛下とリリアン王女にすり寄っていた方々は処罰されました。お二人を諌めもせず増長させたとして。ほとんどの方が次代の方に譲位し領地に隠居でしたが中には降爵や爵位剥奪された方もいらっしゃいました。

 貴方のご両親は隠居でした。罪人でありながら爵位を継いだ貴方は領地を売り払い私に慰謝料や婚約破棄の違約金を支払われてから爵位を返上されました。今は平民として強制労働に就いていらっしゃいます。


 彼女からの慰謝料は毎月僅かな金額が届きます。支払う先が多すぎてランチ二回分しか私用には捻出出来ないようですわ。完済できるのはいつになるのでしょう? 早く縁を切りたいのですが慰謝料を辞退することは許してもらえませんでした。


 リリアン王女のお気に入りと信奉者の方々はほとんどが彼女と同じ強制労働で得たお金を慰謝料の支払いに当てておられるそうです。ご実家から縁を切られた方も少なくありません。そのご実家自体が処罰の対象だった方も多くいらっしゃいます。


 その信奉者とされていたほとんどの方が被害者であり加害者であったそうです。王族であるリリアン王女に逆らえず已む無く従われていらっしゃったそうです。加担させられた罪の重さで刑期は変わりますが、情状酌量で刑期が短くなられた方がいらっしゃるそうです。


 ハルタホイ伯爵家は再興しませんでした。お話はあったのですが、おじ様が辞退されました。ラスタお姉様は一人娘でキリスタ様が婿に入り後を継ぐはずでした。その後継ぎ(ふたり)がいないのに爵位だけあってもとおじ様は肩を落とされていらっしゃいました。その代わりに私がと薦められましたが、私も辞退させていただきましたわ。貴族社会はもう懲りごりですわ。


 先王陛下の喪が明けた四ヶ月前、トーナイト王子は王太子になられました。その前からなのですが、公務でお忙しいはずなのに私をよく訪ねていらっしゃいます。月に一度はいらっしゃるのではないのかしら?


 最初はあの裁判のことでした。彼女には余罪が多く罪が確定するのに時間がかかるということでした。あの裁判だけでも幾つも出てきましたから、偽証罪に殺人罪に強姦罪に…。リリアン王女が関わっていらっしゃいますので全てを公には出来ませんが、調書だけはこと細かく記録していただきたいですわ。今後のためにも。


 次はリリアン王女の処遇を教えていただきました。本当に先王陛下の介護をされていたそうです。いいえ、国王陛下から命じられ、食事から下の世話まで全てリリアン王女が一人でされなければならなかったそうです。侍女たちはやり方を教えることのみ許されていたようですわ。あのリリアン王女がまともな介護が出来たとは思えません。先王陛下が床に就かれて一ヶ月で亡くなられたのは…と考えてしまいますわ。リリアン王女の介護疲れは本当のことでしょう。先王陛下は体の大きな方でしたから、お世話するのはとても大変だったと思いますわ。ちなみにリリアン王女の遺品は全て被害に遇われた方々の慰謝料に充てられました。


 キリスタ様の遺体が見付かったのも教えていただきました。郊外にある離宮近くの山林に埋められていたそうです。ラスタお姉様の隣に埋葬されました。お二人、やっと一緒になられたのですね。

 キリスタ様の遺体が発見された周りでも遺体が幾つも見付かり、行方不明者と照らし合わせているそうです。古い遺体もあり難航されているようですわ。


 そうそう、リリアン王女がご用意された自白剤についても教えていただきました。リボンが付いていた方はおば様が飲まされたのと同じ媚薬が混ぜられていたそうです。強い媚薬だそうで自白剤と併用すると自我を無くし快楽のみを求めてしまうそうです。もう一本の方はただの水でした。私をおば様と同じ目に遭わせたかったようです。


 最近の話題は信奉者をさせられていた方々の再就職先です。もうすぐ刑期が終わられる方もいらっしゃるようです。優秀な方が多くこのまま埋もれさせるのは惜しいということですわ。

 私も伝を使い出来るだけ協力させていただくことをお伝えしてあります。けれど、この国は平民でも能力があれば城に登用され昇進することが出来ます。名が邪魔するのなら改名して登用されることも進言させていただきました。


 今日もトーナイト王太子がいらっしゃいました。今日は貴方がご一緒なのですね。お元気そうでなによりです。

 そういえば、あのご両親でなければ優秀な貴方は三歳年下であるにもかかわらずトーナイト王太子の側近になれたといわれていましたね。平民となって叶いましたか?


「ようこそいらっしゃいました」


 庭に準備したテーブルに案内させていただきます。


「仕事はうまくいっているようだね」

「はい、おかげさまで」


 ニッコリ笑っておきます。順風満帆とはいえませんが、まずまずの業績を出せているのではないのでしょうか?


「この男を雇ってほしいのだが? 出来たら貴女の下で」


 今、何を言われました? トーナイト王太子が指していらっしゃるのは貴方ですわ。貴方を雇えと言われてますの?

 貴方は私と視線を合わせようとしません。


「コイツは可哀想なヤツなんだ。リリアンの一番のお気に入りに気に入られて」


 彼女はリリアン王女の一番のお気に入りでしたの。知りませんでしたわ。確かにお人形のように可愛らしい方でしたわ。


「その上、私に祖父でも庇えないような証拠を掴めと潜入を命じられて」


 トーナイト王太子からそういう命を受けていたのですか。それで?


「婚約者をとても大切に思っていたのに裏切ることをさせた。リリアンたちを油断させるために。とても可哀想だろ」


 トーナイト王太子、何をニヤニヤ笑っていらっしゃるの? 斜め後ろに立っている話題の方は顔色一つ変えていらっしゃいませんわよ。


「二つ下の婚約者に酷いことをする度に落ち込んでいたそうだ。私に八つ当たりした時もあったぞ」


 それがどうしました? 私には関係ありませんわ。私は何も聞いていませんから。


「貴女を死者の願いをさせるほど追い詰めたことを凄く後悔もしている。ラスタ嬢のことはコイツも水面下でずっと調べていたんだ」


 あら、それは私が勝手にしたことですわ。お気になさらずに。

 トーナイト王太子ははぁと息を吐かれました。


「三か国語の読み書きと計算、騎士としての訓練も受けているから剣の腕もある。婚約者だったことは別にしてもお買い得だと思うけど」


 貴方が優秀なのは知っていますわ。


「知り合いの方を」

「私は君の下にお願いしたいんだ。()()として」


 そんなことに権力を使いますの? けれど、そこまで言われてしまうと雇わないわけにはいけませんわ


「まずは荷物運びからですわ。いくら殿下の推薦でも周りに認められなければ私の下にはつけられません」


 特別待遇はいたしません。実力があるというなら下から這い上がってきてください。


「だ、そうだ。良かったな。アーベル」

「殿下、ありがとうございます」


 一度目を閉じた貴方が私を見ましたわ。

 ゾクリとしましたわ。貴方に見られてそう感じたことは一度もありませんのに。あの睨まれていた時も。


「よろしいのですか? 殿下。内偵になされたほど信頼されている部下なのでしょう?」

「大丈夫。これもコイツに与えた仕事だから」


 それはどういう意味でしょう?


「貴女の下に付くということは民のことを知ることにもなる。商人から見た他国の情勢も分かる」


 そうですの。私を隠れ蓑にされて民意を探るということですか?


「それに…、この商会の稼ぎ頭は貴女だ。貴女が他国に逃げないよう出来たらコイツに楔になって欲しいと思っている」


 買い被りすぎですわ。たまたま上手くいっているだけで。


「コイツは婚約者を怖がらせないように絵本に出てくるような王子様を演じていた。本当に素と違い過ぎて私はそれに恐怖していたよ。これからは素のままでいくそうだから、是非頑張ってくれ」


 それはどちらを応援していらっしゃいますの? 私に全力で逃げろと言っていらっしゃるように感じますけれど。

 確かに貴方は本の中の王子様のように優しい完璧な方でしたわ。私だけにそうされていたのは存じていました。特別扱いで嬉しく思いましたが、寂しくも感じましたわ。

 貴方を見ましたら、ニコと優しく笑われましたわ。けれどその笑みが猛獣が目の前の餌にペロリと舌を出したように感じたのは、そう気のせいですわ。気のせいといたしましょう。


「コイツの刑期は今月で終る。来月頭からよろしく頼む」

「畏まりました」

「クラシンベール・エスタ様、よろしくお願いいたします」


 貴方が跪いて片手を差し出してきましたわ。凄く怖い感じがするのは何故でしょう?

 この手に私の手を乗せてしまったら、取り返しのつかないことになりそうな感じが。


「エスタ嬢?」


 トーナイト王太子、そうですよね、ただの挨拶ですよね?


「こちらこそ、よろしく」


 私は何事もなかったように手を置けましたわよね?


「忠誠を」


 手に軽く口づけされた感触に逃げられないと感じてしまったのは……、気のせいですよね?



 もしも……

 もしあのまま婚約者のままでいられたら

 今頃はきっと貴女と幸せな新婚生活を送っていただろう

 真綿で包むように大切にし傷一つつかないように

 邪魔な親も早々に消し去って二人で幸せを分かち合っていた


 もしも……

 もしあの女に目をつけられなかったら

 貴女と離れることも傷つけることもなかったのに………

 許さない、許せるはずがない

 あの女は死より辛い目に遭わせている

 簡単に死ぬことなど選択させない


 婚約者がいなくなった貴女を狙う者たちは多い

 私という婚約者がいた時からそうだった

 もう一度、貴女を手に入れる

 そのために柵が多い貴族であることを棄てた

 もう自分を隠すこともしない

 手段も選ばない


 必ず貴女を手に入れる

 もう二度と離しはしない




 おわり

お読みいただきありがとうございます


明日、『補足という名のヤバイ男の独説(前後編)』を投稿します。それで完結です。


誤字脱字報告、ありがとうございます

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[気になる点] 一番下欄外の 明日、『補足という名のヤバイ男の毒説(前後編)』を投稿します。それで完結です 次のページの題名は 独説 だったんですが、毒っぽいからあえて毒説って書かれたのか、誤字な…
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