裁判を始めましょう3 真実を聞きましょう
短めです。
「三年前、ハルタホイ伯爵令嬢ラスタ嬢は覚えているか?」
「止めなさい。この裁判には関係ないはずです」
リリアン王女が立ちあがり声を上げられました。この機会を逃したら真相が闇に葬られてしまうかもしれませんわ。
縋るようにトーナイト王子を見てしまいます。この場でリリアン王女より権力を持っていらっしゃるのはトーナイト王子だけです。
「私は真相が知りたい。皆はどうだ?」
トーナイト王子は法廷を見渡してそう問いかけられました。
「続けたい者は挙手してくれ」
ほとんどの方が手を上げていらっしゃいますわ。裁判官の方々も全員。手を上げていらっしゃらないのは被告側の一部だけと言ってもよいくらいですわ。
「リリアン、もう口を出すことは許さん。席を立つことも、だ」
鈍い音がしてリリアン王女が持っていらっしゃった扇が真っ二つに折れてしまいましたわ。
「ねぇ、ラスタについて聞きたいの? あの大人しそうにみえて生意気な女だったわね。精霊姫とか呼ばれてチヤホヤされていい気になっていたからいい気味よ」
「彼女に何をしましたか?」
「リリアン様がキリスタ様を気に入っているのに全然離れないからお仕置きしただけよ」
キリスタ様はトーナイト王子の優秀な近衛騎士をされていた方ですわ。そしてラスタ様の婚約者でいらっしゃいました。私にとってはお兄様のような方でしたわ。貴方もよくキリスタ様に剣の訓練を受けていらっしゃいましたね。負けず嫌いな貴方はボロボロになられてもキリスタ様に挑まれて。思い出を語っている時ではありませんわ。キリスタ様はラスタ様の葬儀から姿を消されて消息が分かりませんの。
「みんなで湖の方へ追いやったの。あの湖、急に深くなる場所があって、リリアン様に扇を突き付けられた拍子にあの女、その深みにはまって沈んでいったわ。どうなっているか船で見に行ったら、ドレスのスカートが花のように開いていて、あんな女なのに沈んでいる姿は妖精みたいで綺麗だったわ」
うっとりと楽しそうに話す彼女に肌が粟立ちますわ! 誰も助けようともしなかったのですか?
黙りなさい! とリリアン王女が声を上げられましたが、トーナイト王子が一睨みして黙らせていましたわ。
フツフツと怒りが湧き上がってきますわ。けれど、最後まで話させなくてはいけませんわ。
「キリスタ様も悪いのよ。リリアン様に見初められたのよ、あんな女、すぐに捨ててしまってリリアン様に尽くすのが当たり前なのに」
それが当然のように話す彼女にゾッとしますわ。
「そのキリスタをどうしたんだ」
キリスタ様は今も行方が分かっておりません。
「リリアン様がお相手をして下さったのにあの女の名前を寝所で呼んだそうよ。幾ら薬を使っていたとはいえ不敬でしょ」
何を仰っているの?
「私たちも相手をしてあげたのに口にするのは絶対あの女の名前。けど、薬が弱くなって何をしていたのか知った時のあの顔、最高だったわ」
恍惚とした表情、気持ち悪い…。
「絶望に染まりきって。その後、私たちを捕らえようとしたから、みんなでね。けど、さすが騎士さまだったわ。強い薬を使ってたから思うように動けなかったはずなのに。あぁーあ、情夫として飼う予定だったのになー」
「おまえー!」
「殿下、抑えてください」
トーナイト王子の怒声が聞こえますわ。
「あの後、キリスタ様やあの女の名前を出すとみんな素直に従ってくれるようになって。婚約者や恋人とすぐに別れて従ってくれるようになったから。私もアーベル様と。うふ」
私は貴方を見ましたわ。顔色の悪い貴方は視線を逸らしてしまわれましたが、そうでしたの?
「けど、その女は生意気だから、簡単に婚約解消なんかさせなかったの。お金もすべて取り上げてボロ雑巾のようにしてやるつもりだったのに」
彼女は悔しそうに形の良い爪を噛み始めましたわ。
「ハルタホイ伯爵夫人には何を飲ませたのです?」
裁判官の方がお聞きになりました。これもはっきりさせなければいけませんわ。
おば様は将来侯爵家に嫁ぐ私のために貴族社会のことを優しく時には厳しく教えてくださいました。とても人情深い良いお方でしたのに。
「ああ、あの年増の女? 法廷で痴態を見せて自殺した馬鹿な女。リリアン様特製の濃くした自白剤に媚薬をブレンドしたものを飲ませただけよ。誰も年増の体なんか見たくないのに胸をさらけ出して揉み出して、傑作だったわ。夫の伯爵の方も醜聞まみれになって爵位を返上して没落」
キャハハと笑う声。
耳が痛いですわ。息がうまくできませんわ。胸が痛くて苦しくて………、気持ち悪い。
「ベル!」
「……! エスタ嬢、ゆっくり息をして。慌てないでゆっくり吸って。そう。ゆっくり吐いて」
貴方、私の名前を呼びましたの?
トーナイト王子に支えられて、息を整えようとしますけれど上手くいきません。けれど最後まで見届けなければ、私が起こした裁判なのですから。
「すべてリリアンの指示だな」
「違うわ、お兄様!」
「リリアン様、嘘を吐かないでください。リリアン様がぜぇんぶー、いっちばーん楽しんでいたじゃないですか」
パーン
リリアン王女が席から降りてきて彼女の頬を叩いていました。
「全てお前の戯言です。わたくしは関係ありません」
「捕らえろ。リリアンについては父上から一任されている」
とても冷たい声がすぐ側から聞こえました。警備兵がリリアン王女の周りを囲みます。
「北の塔に監禁しろ。父上と私以外の面会は許さぬ」
「そんなのおじい様がお許しになられるはずが」
「その祖父だが、体調を崩して今朝から床に就いている。心労をかけてはいけないのでお前のことは祖父には一切報告しないことになった」
リリアン王女の顔が真っ青になられています。先王陛下あってのリリアン王女です。先王陛下のお力を借りられない場合はどうされるのでしょう? 私には関係ありませんわ。
「リリアンと行動を共にしていた者たちも捕らえろ、城で尋問する」
警備兵が雪崩れ込んでみえて次々と被告側の人たちを拘束されていますわ。ほとんどの方が大人しく拘束されています。
貴方にも縄がかけられました。解き放たれた顔をされていますわ。けれど何処か嬉しくないような?
ねぇ、彼女の言葉は本当でしたの? それとも彼女を本当に好きでしたの?
こちらを見てはいただけませんのね。
裁判官の方が慌てて木槌を鳴らしていらっしゃいますわ。
「原告の訴えを認め被告を有罪とする。沙汰は追って報せる。これにて閉廷とする」
慌ただしい閉廷宣言ですわ。慰謝料はいただけないかもしれませんね。けれど、知りたいことが分かったのでよろしいですわ。おば様の名誉もこれで回復いたしますし。
「エスタ嬢、裁判を滅茶苦茶にしてすまない」
トーナイト王子が謝罪してくださいました。
「公平な取り調べをお願いいたします」
カーテシーをしてトーナイト王子にお願いしました。
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