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裁判を始めましょう2 自白剤を飲みましょう

 裁判所の方が持っていらっしゃいました自白剤をトーナイト王子が同じように試験紙で確認されています。


「両方変わった」

「色も間違いない」

「自白剤だ」


 同じ色に変わった試験紙を見て裁判官の方々はホッとした表情をしていらっしゃいますわ。


「エスタ嬢、どうする? これも水差しに入れるか? いや、水差しに入れて公平にしよう」


 トーナイト王子は水差しに二本の自白剤を入れ、硝子棒でしっかり混ぜてくださいました。これで彼女と私は同じ薬を飲むことになります。


「裁判官、どちらに飲ませる?」


 トーナイト王子はコップに三口くらいの量を注いでくださいました。後は順番です。


「証言に信憑性がない方からと決まっております。ですから、被告の方に」


 裁判官の方ははっきりと公言してくださいましたわ。


「えっ、わたし…、リリアン様」


 彼女が縋るようにリリアン王女を見られましたが、プイと視線を逸らされていらっしゃいますわ。


「悪いことは何もしていないんだ。飲めるだろう」


 相変わらず貴方は優しく声をかけられますのね。ええ、昔はそんな風に声をかけられると胸にあった不安は消えて無くなっていましたわ。


「で、でも…」

「なら、リリアンが用意した″こちら″を飲むか?」


 トーナイト王子の言葉に彼女はブンブンと首を横に振っていらっしゃいます。リボンのついた方の自白剤ですね、トーナイト王子が勧めていらっしゃるのは。リリアン王女が彼女のために準備されたのに飲めないなんて不思議ですわ。


「では、これを」


 彼女は被告席から出され、用意された椅子に座らされました。飲もうとされないから裁判所の方が両手を押さえていらっしゃいますわ。鼻を摘ままれ口を開けた所に自白剤を流し込まれています。すぐに口を閉じ飲み込むまで押さえていますわ。もちろん息が出来るように鼻はもう解放されています。

 嚥下されたのを確認されて彼女は拘束を解かれました。無理やり飲まされたから、咳込んでいらっしゃいますわ。だから、素直に飲まれたほうがよろしかったのに。


 彼女の目が少し虚ろになられたように見えますわ。


「真実を答えてください。名前と年齢と誕生日を教えてください」


 裁判官の方の質問が始まりました。審議とは関係ない答えられる質問から始まるそうです。


「男性ですか?」

「女よ、失礼ねぇ。見て分からないの」


 質問に素直に答えていらっしゃいますが、本当に自白剤が効いていらっしゃるのでしょうか? 話し方が普段と余り変わらないように思いますわ。男性の方と話されている口調とは違いますけど。男性の方には少し高めの甘えるような話し方をしていらっしゃいますから。


「朝の天気は?」

「雲が多いけど日は出てた。なんでそんなこと聞くのよ」


 貴方もトーナイト王子もいらっしゃるのにこの話し方は薬が効いている証拠なのでしょうね?


「何故、ここにいるか分かっていますか?」

「クラシンベールに名誉毀損と不貞で訴えられて」


 本題に入りますのね。もう少し当たり障りの無い質問が続くと思っていました。


「起訴内容についてどう思われていますか?」


 可愛らしかった彼女の顔がクシャリと醜くなりましたわ。


「私がクラシンベールに色々されたって言ったけど、全部ウソに決まっているじゃない。悪女に仕立て上げて婚約者に棄てさせるの。婚約者に愛想を尽かされて棄てられた女なんて最高じゃない」


 ケラケラケラと乾いた笑いをされていらっしゃるわ。まるで魔女みたいですわ。


「何故、クラシンベール・エスタを狙ったのですか」

「生意気だからよ。金があるからって平民のくせに侯爵家嫡男の婚約者になって。それに…」


 それは侯爵家が事業に大失敗したからですわ。それなのに甘い汁を吸いたいご当主は甘言に弱い先王陛下への貢ぎ物を止めることをされず、ご夫人はリリアン王女のご機嫌取りに一生懸命でお二人で散財ばかり。蓄えてあった侯爵家の財産も底を突き抜けてしまわれましたわ。平民ですが国一番の財力を持つ当家と縁を結ぶことになりましたのは仕方がないことかと。


「それに?」

「リリアン様がご所望なのに順番とか、何でも献上するのが筋なのに代金とか、平民のくせにスッゴク生意気だから」


 納品の順番を守っていただくのはおかしなことでしょうか。納得出来る理由がある場合は他の方にお断りを入れて最優先にさせていただいております。けれども、ドコドコの家より先に、ダレダレに真似をしたと言いたいなどの理由では優先出来ませんわ。何方様も大切なお客様ですから。

 それから代金をいただくのは当然の権利かと、こちらも商売ですから。誕生日や特別な時にはそれ相応の品を無償で届けさせていただいていますわよ。


 椅子が準備されましたわ。私の番ですのね。

 椅子にしっかり腰かけて、トーナイト王子からコップをいただきます。

 甘い味がつけてありますのね、意外と飲みやすいですわ。

 あっ、頭の中が霞みがかかったようにぼんやりしてきましたわ。


「真実を答えてください。名前と年齢と誕生日を教えてください」


 何を今さらこんなことを聞かれるのでしょう。けれど、礼儀として答えなければいけませんね。


「何故、起訴されたのですか?」


 私は天気は聞かれないのですか?

 ああ、裁判を起こした理由ですね。


「三年前に亡くなられた私の再従姉妹、ハルタホイ伯爵令嬢ラスタ様の死亡原因をはっきりさせるためですわ。離宮のお茶会に参加されたラスタ様が何故湖に行かれたのか、お茶会で何があったのか知りたいのです」


 大好きだったラスタお姉様。私より三つ上なのに何処か頼りなくって可愛らしかったラスタお姉様。


「何故、起訴をしたことがそれに繋がると?」


 そうですね、不思議に思われますね。


「勝訴したのならそれを足掛かりに。リリアン王女殿下を始め多数の方がいらっしゃったのに何故ラスタ様をお助け出来なかったのか改めて聞くことが出来ますわ。ラスタ様の侍女も直後に不慮の事故で亡くなられて真相が分かりませんの。本当に一人で湖に近づかれたのかが。敗訴ならリリアン王女殿下の怒りを買って他の方と同じよう自決となるでしょう」


 今までの方がそうでしたから。お気に入りの方や信奉者の方を訴えた方はほとんどの方が亡くなられています。


「『死者の願い』を本神殿に届け出てあります。私の死が確認されたのなら、神殿の方からラスタ様の死を調査していただくことになっております」


 『死者の願い』は神殿が死者の魂を救済するために生前に納めた願いを叶えてくださる制度ですわ。もちろん願いは叶えられるものだけです。不可能なものは生前にお断りされてしまいます。願いを叶えることを妨害する人がいましたら天罰がくだるそうですわ。実際に受理された願いを握り潰した神官は雷に撃たれ、嘘の証言をした者は声が出なくなられたそうです。

 この国にある神殿にはお願いすることは出来ませんわ。おば様の願いは叶えられませんでしたから。お一人、晴れた日に雷に撃たれた神官がいらしたそうですが、おば様の願いを聞かれた方かどうかは存知ません。なので他国にある本神殿にお願いしたのですわ。寄付も沢山させていただきました。新しい神殿を建てるお金の貸し付けもしてあります。この場で公表したことにより確実に神殿は動かざるを得ませんわ。低利息が高利息になるように契約書も交わしていますから。


「何故ラスタ嬢の死の真相を?」

「不可解な点が多すぎるからですわ。どなたにお訊ねしても事故と言われるだけで詳しいことは教えていただけませんでした。特に使用人の方は真っ青になり震える方が多く、次にお話を聞こうとした時解雇され行方不明になられた方が多数いらっしゃいましたのに」

「あなた、言い掛りは止めなさい!」


 この声はリリアン王女でしょうか? 止めませんわ、ラスタお姉様とおば様の仇を討つまでは。


「リリアン、お前に発言を許した覚えはない。続けて」


 この声はトーナイト王子ですね。ありがとうございます。


「同じく不審に思われていらっしゃったおば様、ハルタホイ伯爵夫人が湖を管理されている方を訴えましたが……」


 これ以上は言えませんわ、おば様を穢すようなことは。リリアン王女が持ち込まれた自白剤を飲まれておば様は………。


「敗訴になった裁判ですね。よく覚えています」


 この声は裁判官のお一人…、どなただったでしょうか? 何故か今ははっきりと認識できませんの。


「だから、シルスタ侯爵令息と婚約を?」


 この声にも心当たりはありませんわ。誰でしょう?


「それは違う。彼女がシルスタ侯爵令息と婚約を結んで十年近く経っている」


 トーナイト王子のお言葉通りですわ。二歳年上の貴方と婚約して今年十年目に入りましたわ。貴方と無事結ばれたのなら、義父や義母を通してラスタお姉様のことを探ろうと思っていましたが、去年から貴方はその可愛らしい彼女と…。


「質問を変えます。あなたは被告が証言されるようなことをされましたか?」


 そんな下らないことはしませんわ。そんな暇があるなら、新しい商品、販売方法を考えた方が有意義ですから。


「いいえ。私が行ったのは婚約者のいる男性に親密な態度をとるべきではないと常識の範囲の注意だけです」


 その注意をどうとられたのかは彼女次第ですが、それは私には分かりかねます。


「原告に中和剤を。原告・被告の証言の照合ができました。原告に自白剤は必要ありません」


 何かを渡されましたわ。これを飲めばよいのですね。

 頭が余計クラクラしてきましたわ。


「危ない」


 誰かが支えてくださいますわ。体が斜めになり何処かから落ちそうになりました。


「大丈夫か?」


 ええ、まだボンヤリとしていますが、先程より鮮明になってきましたわ。


「で、殿下、ありがとうございます。もう大丈夫です」


 トーナイト王子の胸に頭を預けて両手で抱くように支えられて椅子に座っていましたわ。

 お恥ずかしい。幾ら自白剤で意識が朦朧としていたとはいえ、皆様の前で異性に抱き締められているようにもみえる格好をしていたなんて。隠れたいですわ。


「不測の事態だ。それに私は役得だ」


 トーナイト王子、誰に向かってニヤリと笑っていらっしゃるのですか? 貴方は何故、トーナイト王子を悔しそうに睨んでいらっしゃるのですか?

お読みいただきありがとうございます


リリアン王女側は、おば様の『死者の願い』を握り潰せたので楽観視しています。


誤字脱字報告、ありがとうございます

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