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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
5日目AM ~襲われた義姉妹と仕組まれたデート~
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5日目 1 アヤメとジーナ① 囚われた姉妹と甦った男

さぁさぁここから急展開!

「……ちゃん、……きて、ヤちゃん……」


「ん……むー?」



 呼ばれた気がしてボクは目を覚ます。声の主はきっと……



「はよー、おねーちゃん。ふわぁー」



 右掌を口元に添えて大欠伸おおあくび。しようと思ったけど……あれれ? 手がない。いつの間にか欠損女子? そんな性癖要らないよ?

 でも切り取られた痛みなんてないしなんならあくびは普通に出て目尻に涙が浮かんでるしなんかおかしーなぁ。映った景色も天井じゃなくて壁。いつの間にやら体を起こされてる??



「おりょ?」



 いやいやよく考えたら両手は後ろ手に縛られてるだけだった。ちゃーんとくっついてるー♪



「なーんだ、手が無くなったかと思ったー♪ って、えええ!? なんでボク縛られてるの!? ……もしやおねーちゃん! 朝からそういうプレイ??」


「アヤちゃん……そうだったらいいんだけどね……」



 おねーちゃんの姿を目で探す。眉を下げ困った表情のおねーちゃんはボクと同じように後ろ手に拘束されていて、ボクの隣ではなく部屋の反対側の隅に立たされている。左右の脇には白塗りした簡素な革鎧の男が二人。



「え?ええっ!?誰それ!?」


「やっと目覚めたかバカ魔族がっ! 目覚めたら目覚めたで騒ぎおってうるさいぞ!」



 ぽかん。

 ボクとおねーちゃんしかいないはずなのに、見ず知らずの男が複数室内にいる状況を飲み込めずいるとひょろ長い体で痩せこけた血色悪い顔色して目が顔面から零れ出さんばかりの男がドアの向こうから現れた。

 ガリガリであろう体躯では装着するだけで体力をごっそり持っていかれそうないかつい全身鎧フルプレードを纏っている。



「へ?」


「私の顔を忘れたとは言わせんぞ!」


 そういわれてもなぁ。頭を搔きたいけど手を縛られていてできない。


「えーと、どちらの出目金さんで?」


「金魚扱いするなぁ!! 貴様はとことん人間を小馬鹿にする!!」



 大人気なく地団太を踏むオジサン。落ち着きがないのどっちだよ……。

 うーん、こんな可愛くない金魚はいくらお祭りので店に出てても掬いたくないなぁ。

 なんとか他の答えを探そうと頭の中をこねくり回すけどボクはあんまり記憶力良くないから引き出し開けてもほとんど空っぽ。思い当たる節なんてありゃあしない。


「遊撃騎士団の副隊長様である! 貴様の計略により一度は命を失ったが、反魂法により舞い戻ってきたのだ! 潔癖であるべき聖騎士の私を快楽の底へ引きずり込んだ罪をわが手で裁くためにな!!」



 しびれを切らしたオジサンは一人で喋り出す。最初からそうしてくれたらよかったのに。

 でもなんだかよくわかんないこと言い出したぞ。めんどくさいなぁ。



「オジサン自分でフーゾク店行ったんじゃん……好みの女の子がいなかったからって出てきちゃってさぁ。それをボクが慰めてあげたんだから感謝してほしいものだけど?」


「ええい私はまだ二十五だ! オジサンなどではないわ! 高貴なる私の命を奪っておきながら何たる言い草か! 二度と減らず口叩けぬようその体に我が恐ろしさを刻み付けてくれるわ!!」


「んー? さっきから声がおっきくてうるさいんだけどー。アレでしょ? オジサン、つまりはボクとの快感が忘れられないからもう一回やりたいってことでいいのかな?」


「たしかに気持ちよかったのだが……って違うわぁ!!」



 おねーちゃんの脇に控えるオジサンの部下と思しき男二人がうるさいオジサンに冷ややかな視線を注ぎながらヒソヒソと話している。



「そこぉ! ヒソヒソ話するなぁ! おのれ……一度ならず二度までも我のプライドに泥を塗ってくれたな……ゆるさぁん!!」



 出目金男が開いた右手を突き出すとボクの手を縛っている縄から電流のような鋭い痛みが発せられて全身を駆け巡った。



「うぐっっっっっっ!」



 なんなのこれ体の内側から無数の針で刺されてるみたいで超痛い……。痛みに耐えかねて床に倒れ込む。



「フハハハハ退魔師エクソシストの術だ。魔族に特に効力があるのだ! どうだ動けまい!」


「アヤちゃん!!」


「おっと! 動かないでいただきたい。我々はあなたに手荒な真似はしたくない」



 駆け寄ろうとするおねーちゃんを左右の男どもが制止する。



「アヤちゃんに手出ししないで! わたくしが素直に応じればアヤちゃんの無事は保証すると言いましたよね!?」



 抑えられながらも身を乗り出して出目金男に食って掛かるおねーちゃん。

 おいおい野郎ども。どさくさに紛れておねーちゃんお触りしたら許さないよ?精一杯男どもを睨みつける。



「ええ、言いましたとも」



 白々しく出目金は答える。



「ただ、こうも騒いだり暴れまわられちゃたまりませんから。少しお灸を据えるくらいさせてもらいますよ」


「これ以上やるなら私も舌を嚙み千切って死んで見せますわ!」


「箱入りで育った修道女様がそんなことできるとは思えませんがねぇ」


「私もまた一度命を失った身。今更死ぬことなど怖くありません。妹を助け、あなた方に損害を与えられるのならば!」


「“妹”ねぇ。人の皮を被った悪魔が? ……貴女も随分生気を吸われているみたいですが、精神操作を受けて眷属に成り下がっているのではありませんか?」



 見下す目でおねーちゃんを見やる出目金。



「断じてそのようなことはありませんわ!!」


「……まぁいいでしょう。強がりも脅しも所詮口だけ。家の言いなりになりたくないという子供じみた反抗ですね。ご自身の立場をまるで分かっておられない。貴女の意思など……一族の使命、教会の使命の前には何の意味も無いのですよ?」


「何……何なの一族の使命って……」



 勝手に話を進められて置いてきぼりなので話に割って入る。まだ全然状況が掴めない。一体おねーちゃんが何だって言うんだ。


「おや、まだ意識があったのですか。てっきりくたばったのだと思っていましたが、狸寝入りもお得意だとは。本当に人を欺くのに余念がありませんねぇ」



 うつぶせに倒れるボクの前までやってきた出目金男は全身鎧フルプレートのブーツで左腕を踏みつける。



「ぐぅぅっ!」


「フン、悪魔如きが知る必要もない話です。……が、冥土の土産に聞かせてあげましょう。もっとも、悪魔が冥土に行けるかどうかは知りませんがねぇ。クックック」


 強者の余裕というのか、鼻につく笑いをしながら出目金野郎は芝居がかった喋りを始める。

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