3日目 14 伝説の美少女旅団《パーティ》と愉快な下僕たち
「でもってそんとき現れた骸骨兵士の群れったらもうすごい数でさ!」
「あのときのラストの引きつった表情は見ものだったねー」
「イツモ絶対ニ寄リ付カナイあっしゅニシガミツイテイタカラナ」
「『一人にしないでくれぇ!』って。ふふ。つい先日のことの様ね」
「るっせ。苦手なんだよ、あーゆーバケモン」
大きな身振り手振り、溢れる笑い声、生き生きした笑顔。
和気あいあいとする「野ウサギと木漏れ日亭」の食堂。
あたしたちは一日の仕事を終えて夕食の団欒を楽しんでいる。
宿のおじさんにローシェンさん、オーツーちゃん。墓守の館から戻ったチトセさんに面白そうだからと付いてきちゃったローシェンさんのお姉さんバンシェンさん。
オレンさんもまた戻ってきて久々の集まりを楽しんでるようだった。
「みんなが旅仲間だったなんてねー」
昔馴染みの冒険者から飛び出す思い出話にあたしだけじゃなくオーツーちゃんも気になるみたいで、笑ったり驚いたり怖がったりと表情をくるくる変えている。
毛先にゆるく内巻きの癖がある黄土色の髪がそのたびに揺れる。
年相応の反応を示す少女がそこにいた。
ずっと澄ましてばかりいたのは無理をしていたのかな。
「全員にそんな二つ名がつくなんてすごい冒険者だったのですか?」
あたしの貸した染みのおまけつきワンピースを纏ったオーツーちゃんが質問を投げる。
呼び捨てしろって怒られたけど、今の姿は可愛らしすぎて口には出さないけどちゃん付けしてしまう。
「まぁ、自称なんだがな。こうやって箔でもつけなきゃ信用してもらえないからな」
「名付けて! 伝説の美少女パーティと愉快な下僕たち!ってね」
「よく言うよ……」
笑いに包まれるボロ家の食堂は玄関の扉がないせいで北風が入り込み寒いけど心は温まる。
血染めの赤錆。
黄昏の剛拳。
沈黙の埋葬土。
隕石落下の焦土。
「あと三人いたんだ、炎使いと風使いと……」
続いて並べられる不在の仲間。
心なしか寂しげな表情を浮かべる熟練の戦士たち。
地獄の業火。
神の息吹。
そして
灰かぶりの騎士。
「騎士様もここにいればねぇ~」
「フン、あいつはもう仲間じゃねぇよ」
「らすとッテ自分ダケ会ッテズルイナ」
「姉さんはアッシュのこと好きだったもんね」
「過去形デハナイ、今デモダ……」
愁いを帯びた表情で土色の表情をしたバンシェンさんは遠くを眺める。
おじさんはそっぽを向き、ローシェンさんとオレンさんは苦笑い。
アッシュ。
ジーナの足跡を追って宿場街に、「野ウサギと木漏れ日亭」にやってきてお茶会を開いた遊撃騎士隊の隊長。
話を聞くにラストにベタ惚れみたいだったんだけど、三角関係がありながら旅を共にするってどんな気持ちだったのかな。
死人になってもなお消えない思いを抱えて辛くないのかな。
あたしなんてアサギと二人の関係ですら心臓が張り裂けそうなのに……。
午前にやるべきことのほとんどが午後にずれ込み目の回る量の仕事をこなした結果、アサギと詩人君はいっぱい働いて疲れたからって早々にお部屋へ退散してしまった。
結局アサギとは肝心なこと話せてないままだ。
あいつはあたしのことどう思ってんだろ。
胸の内を思うともやもやしか沸かない。
爆睡してるであろうあいつを思って部屋のほうへ視線をやると代わりに目に映ったのは昼間にあたしがやらかした床と天井の焦げ付きだった。
視界に入らなかったけど扉のなくなった玄関は目隠しと防寒のため黒い布で覆われている。
冗談ぽく話が流れたけど、これも弁償しなくちゃ……。
「愛しの彼の寝顔でも拝みに行くかい?」
「い‼」
心臓が飛び出しそうなくらい驚き体が跳ねる。
「ローシェンさん……」
「はは、ついからかいたくなっちゃうね。さて、みんな。積もる話もあるけど本題なんだ、このやきもきさせてくれちゃってる若いご両人をくっつけるイイアイデアは無いだろうか?」
「ろろローシェンさん⁉」
あたしは秘密にしてもらえるとばかり思っていたことを切り出されて慌てふためく。
さっき墓守の館へ食事を届ける道すがらいろいろと話を聞いてもらっていたんだ。
「いまから襲わせれば?」
「モウ一人寝テルカラナ~」
「け、結構ですって!」
恥ずかしさで顔が沸騰するけど酔っ払いたちは歯止めが利かない。
「そうはいかない。お前らがもめるからうちの経営が修繕で傾きそうなんだ」
「お祭りの時期だから、カップル成立はもってこいの時期よ~ひと冬のあばんちゅ-るってやつね」
「咥エコメ。引キチギルクライニ」
「く、咥っ……!」
あたし以上にオーツーちゃんの顔が真っ赤になり両手で顔を押さえている。
「あはは、だいた~ん!ケモノだね、そりゃ」
「わわわ、あたしも疲れたのでもう寝ます!おやすみなさい‼」
あたしは使った食器もそのまま、大急ぎで寝室のある二階へ駆けあがり、ドアを壊さなかったのが不思議なくらい勢いそのまま部屋に飛び込みドアにもたれかかり、引きずられるようにお尻を落とす。
暴れ狂う心臓と肩で息をしているのが時間の経過とともに少しずつおさまっていく。
遠くに聞こえる笑い声。
「素直になれっていうのは分かってるんだけどなぁ……」
ゆっくり立ち上がり、もやもやした気持ちのままベッドに潜り込むと疲れてたんだろう、あたしはすぐに気を失った。階下では本人不在のまま話がどんどん進んでいることも知らずに。
恥ずかしさに負けて席を離れなければよかった。翌日あたしはそう後悔することになるのだった……。
3日目、完結です!
電子書籍用の改稿を終わらせたいのでしばらくお休みさせてくださいっ!