1日目 7 アヤメとジーナ① ニンゲンとボク《前》
ラブコメのノリから一転。ダークなかんじです。
※過激な表現あります、苦手な方は読み飛ばしをお勧めします。
「ん……」
うっすらと目を開けた。
気がついたら、ボクは薄暗い空間にぺたんこ座りしてた。
ここがどこなのか、なぜここにいるのか、いつからここにいるのか、わかんなかった。
暗いせいなのかよく見えない。目は開いてるはずなのに。
あー……なんだか頭がぼーっとする……。
んー……なにがあったんだっけ……?
……わかんないや。いいや。
そのときは考える気力もなかった。
わかるのは足やお尻がひんやりすること。
触れてる床は固くてつるつるしてる感じ。
どうしてわかったかって?
だって何も身に纏ってなかったから。
このままだと冷えておしっこでそうだったよー。
目がかすんでて見えないけど、肌の感覚は敏感みたいで。
風の通りが悪いのか、空気がじめっとしていてあんまり気持ちよくなかったね。
しばらくすると少し目が慣れ焦点が合ってきて、薄暗いながらも様子が見えてきた。
床はボクの周りにほんのり青白く光る線がいくつも走っている。
線は丸かったり直線だったりせわしく曲がってギザギザだったり、模様なのかな?
全体像はよくわからない。
なんでかっていうと、少し視線を上げると上にいくつか斃れているモノがあって、模様を隠しているから。
それと、ボク自身も模様の内側にいるからというのも……。
あとになってみれば、あれは魔法陣の類で。ボクはどうやら召喚されたんだってね。
斃れてるソレからは、薄暗い中でも一際ドス黒いのが染み出ているのがわかった。
なんだろう。
鼻をくすぐるのは少し刺激を感じる……懐かしい匂い……?
気配を感じ視線をあげると、斃れているモノの更に外側に、白い布で覆われてるナニカがいた。
ソレらがいたのはボクのところより少し低くて。
あの場所は祭壇上になっていたんだね。
暗くて壁も天井もほとんど見えなかったけど、がらんとした空間で家具とか調度品は見当たらなかったと思うなぁ。
それで、白い布をかぶったソレはひとつじゃなくって、いくつかいるみたいだった。
いた、と感じるのはイキモノの息遣いを感じたからだよね。
ソレは……ソレらはボクのことをじっと見てたように感じた。
あまりいい感じの気配じゃないことはなんとなくわかったかな。
頭がぼ-っとしているのに、いい感じの気配じゃないのに、そこにいるナニカがご馳走に思えたんだ。
……本能なのかな?
おいしそうだなーって思ったけど、なんだか体に力が入らなくって、動けなかった。
それでも顔はすこし動かせていたから、まっすぐ先にいたナニカを食べたいなーって思ってたら自然と顔が綻んで嗤ってた。
「……あは」
かすかに声が出せた。
消え入りそうなどこにも届かないような声だったけど、静まり返ったようにボクには思えていた空間だったから、ソレに届いたんだと思う。
だらしなく開いた口からよだれが垂れちゃった。
最初は太ももに垂れた、そのあと首から胸元にかけて伝っていった。
ボクはなにも着てないから、落ちた滴でひやっとした。
ぴくって体が少し跳ねた。
それを合図にしたのか、ボクを遠巻きに見ていたソレのうちひとつが近づいてきてね。
ぎゅっと肩をつかまれたと思ったら、視界がぐるっとまわったんだ。
ボクは仰向けに押し倒されたみたい。
「んっ……」
衝撃にほんの少し声が漏れた。
おしっこもちょっと漏れた……かもしれない。
視界に入ったのは天井……なんだけど暗くて見えなく闇だけが広がってた。
あとは押し倒してきたソレ――ニンゲンがみえるだけ。
ぼーっとしててよくわからないんだけど感触だけは確か、あちこち触られてたのはわかった。
ちょっと気持ちよかったかもしれない。
けど途中痛くされたりして少し不快。
そしたら、他にもいたソレらが一斉に押し寄せてきて、床に倒されていたのが持ち上げられ、顔、首、手、足、腋、お腹、背中、お臍、お……え? 何おねーちゃん? それ以上言わなくていい? わかったー。
とにかく色んなところ……身体の隅から隅までを、触られたり舐められたり……。
触られ方は強い力だったりおっかなびっくりだったりまちまち。
気持ちいい、こそばゆい、ちょっと痛い、いくつもの感覚が同時に攻めてきた。
指とか色々と入れられたりもした。
おくちとか、お……え? どうしたのおねーちゃん? 顔赤いよ? え? それ以上言っちゃダメ? うるさいなぁもう……。わー! 分かった、怒んないで!
……それでね、ボクの意思に関わらず体は刺激に反応してた。
ただでさえ考えられないのに刺激の波で頭真っ白。
刺激を受けるたびにあっ、んっ、ってかすれた声が出てた。
そうやって弄ばれているうちに、ちょっとずつお腹空いた感覚が満たされていくのを感じたんだ。
ソイツらはどんどん昂ってケモノみたいに吼えると、びくびくして動かなくなっちゃうんだ。
吼えたと同時にべたっとしたのがかかってね……。
その一瞬だけすっごくおいしいんだけど、それっきり。
ボクと同じようにだらしなく口を開いて涎をまき散らして。
ボクが満たされていくのと反対に萎れてその場に斃れていった。
萎れるのは目に見えて変化があって。
明らかに細く枯れ木みたいになってる感じ。
いくつもいたソレがひとつ、またひとつ動かなくなっていく。
そのうちにみんな動かなくなっちゃって、支えるモノが無くなったボクは倒れて、また冷たく固い床に仰向けになった。
いくらかお腹が満たされたおかげで少しだけ動けたから、体を俯せにひっくり返して。
立つ力はまだなくて――両方の腕と脚でどうにか体を持ち上げると、四つんばいで動けた。
頭はまだぼーっとしてて、よく考えられない。
いつの間にか床の線の光が消えてた。
おなかはほんの少し満たされはしたけれどまだまだ足りなくて。
どうも気が向かなかったけど、そこらじゅうに斃れてる動かなくなったモノから、生気を吸ってみたんだ。
吸うっていうのは……、おくちじゃなくて、相手に手をかざしたり触れたりすると吸えるんだ。
さっきまでは勝手に触れてきてたし、口の中とか、あ……わかってる、言わないからだいじょうぶ!
入れられてたりしたから自然と吸えていたけど……、ソレらがもう動いてきてくれなくなったから自分たちから吸わなきゃだった。
四つん這いで手近な奴のところに近寄って手をかざした。
吸うには吸えたけど、薄くって全然おいしくなくて。
直接したほうが吸えるみたいで、ちょっとやだったけど触ったり口付けたり舐めたり咥え込んだりして……。
ボクはさっきやられたのと同じように、動かないソレを手当り次第にまさぐった。
さっきボクを弄んだヤツら全部に同じようにやられたことを試した。
全部萎れ切るくらい吸って、それでも足らなくて。
ついには、ボクが気付いたときから血を流してたソレからも吸ってみたんだ……。
あまりおいしそうじゃなかったけど、食べたい気持ちには勝てなかった。
そしたら、おなかがきゅーって締め付けられるみたいに痛くなっちゃって、寒気がして、おえーってなったの。
口からはほとんど入れてないから出てくるのは胃液がほとんどで、あとかけられたりして口の中に入ったべたべたなものが少しでてきた。
床にべちゃべちゃって出しちゃった。
内臓が全部内側からめくれ上がって出てくるような感覚がして、苦しく息が上がる。
くさい……。
きたない……。
おくちのなかきもちわる……。
喉のあたりが胃液で焼けて息苦しい。
だけど気持ち悪いのとまらなくて、またおえーってなって。
涙も鼻水もでてきて。
出るものが無いのに、内側から押し上げてくる感覚だけが繰り返した。
どうしてこんなに苦しまなきゃいけないの。
ときどき気持ち悪いの落ち着くけど、落ち着いたらまたおなかすいてきて。
衝動を抑えきれなくて、めぼしいものないからそこにある枯れたモノを口にしては吐いてを繰り返してた。
寒気が酷くなり、体ががくがく震えてきて、だらだら涎を垂らしながら、涙も鼻水も流れっぱなしで四つん這いで、のろまに動きながらむさぼっては気持ち悪さに吐いて。
そのうち体を持ち上げる力もなくなってきて、暗い中を自分が吐き出したものにまみれながら這って回るしかできなかったんだ。
じっとしてはいられなかった。
なんでもいいから取り入れたかった。
どのくらいそうしてただろ。ほんの短い間だったのか、何日もそうしてたのか――。
冷たい床に体温奪われ、這って動くのもままならない。
敏感だった肌感覚は薄れ床を掴む手指の力もほとんど入らなかった。
どれを吸っても逆流するばかりで満たされない。
吸わずにいられない気持ちなのに、その力さえ残されていない。
意識が遠くなる……。
目を開けたり閉じたりもう起きているのか眠っているのかよくわかんないくらいになってるときに、遠くで磨き上げられた床を爪で引っかいたみたいな音がして。
重い瞼をこじあけると薄暗い空間に光がほんの少し入ってきてたの。
お読みいただきありがとうございます!
またきていただけたら幸いです。
百合の尊さを表現するのむずかしい……。
平然としていられるのは人外ならでは。
はたしてここはどこなんでしょう。語りはつづきます。