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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
3日目 ~墓守の館と生ける死人《バンシィ》~
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3日目 8 買い出しと街の人々

残念!お風呂シーンではありません!


3日目4に話が繋がります。


それはまだ早朝、アヤメたちが出発し、ヒナが目を覚ます前のこと――。



『今日は一日雨が降り続くでしょう。午後になると時折雨脚は強く……』


マジか。まずいな……。

窓の外、ひところよりは弱まった雨の様子を見ながら俺は呟く。


どうしようか、とため息一つ。と、そこに足音が近づいた。

ん? あぁ、君か。

いや、この「ラジオ」で大陸気象協会の天気予報を聴いてたら午後の天気が良くないらしくてな。

洗濯も濡れちゃうから止めにして、ちょっと早いけど買い出しを先に行ったほうがよさそうなんだ。

まだ開いてない店もあるけど回ってるうちに開店するだろうから善は急げってことで。

なるべく荷物濡れないほうがいいだろうし。


そうそう、俺の元居た世界じゃラジオって一般的で。何ならもう時代遅れみたいな感じだったな。

音だけより、映像……って言っても分かんないよな。

絵が動くというか、遠くの景色がそのまま映し出されるような機械のほうが主流だったな。


――こんなこと言っても訳わかんねぇよな。


すごい発明家がいるんですねって? ほんとだよな。

まるで違う、こっちとは……。

その代わり魔法とか法術とか不思議な力は無いから、あーゆー技術が魔法の代わりみたいなものかもなー。

子供の頃はみんな思ってたぜ、魔法が使えたらって。

あっちの世界も懐かしいけど、こっちもかなり楽しくて俺は好きだぜ?



おっと、こんなこと話してる場合じゃねぇ。

急いで買い出し行こうぜ。

荷物準備するから、あのドルイドの子……オーツーって言ったっけ?

あの子に留守番よろしくって伝えてきてくれるか?


ヒナに、じゃないんですか? って?

バっ……!

思わず顔を背ける。

君までジーナやアヤメみたいなこと言うようになるとはね。

参ったな。


塞ぎ込んでるんじゃヒナは当てにならない、とは言いすぎかもしれないが。

あいつは俺と同じだけここに世話になってるわけだからやるべきことは心得ていると思う。

寝てるだろうしわざわざ言わなくてもいいだろ。

オーツーに伝えるほうがいいさ。

……また拗ねるだろうけどな。


わかりました。と君はドルイドの少女を尋ねに二階へ上がっていく。

さて、買い出しメモとお金と……。

宿の受付カウンターから、買い出し用の財布を取り出す。

盗賊シーフだけど、ここのを盗ったりなんかしないからな!!



オーツーに言づてし、濡れないように頭巾フード付きの外套マントに体を包んでいざ出発。

宿場街目指して……といっても目と鼻の先。

現代の感覚で言ったら徒歩30分くらいか。

交通機関があまりない世界にしたら目と鼻の先みたいなもんだ。


雨降りで若干ぬかるんだ道を急ぎ足で進む。

収穫祭に向けた準備で賑わうはずの道もこの天気のせいで人がまばら。

その分歩みは進めやすくて助かった。


宿場街に入るとすぐ市場や店舗が立ち並ぶ大通り(メインンストリート)


通りに入ってすぐの店にまず入る。

って、その前に濡れた外套脱がないとな。


軒先で身なり整える間に何人も出入りがあり、朝から盛況だ。

改めて扉を開くと香ばしい香りが漂う、パン屋だ。


「お、アサギじゃない。珍しいね朝早く。どうしたんだい?」


恰幅のいいおかみさんが俺の姿を認め声をかけてくる。


「おはようございます。ローシェンさんの代行で木漏れ日亭の買い物です。雲行きが怪しいらしいんで早めに来ちゃいましたが注文のパンできてます?」

「んー。まだ揃って無いね。今イチジクパンを焼いてるところだよ。あと最後にバゲットで揃うかな」

「じゃあ帰りに寄るんで先に会計しといていいですか?」

「はいよ、そしたら勘定するね」


テキパキと作業する手を止めメモを見ながら算盤をはじく。

奥から立派な髭を蓄えた親父さんが焼きあがったパンをもって現れたので挨拶を交わす。

強面だけど笑った時にできる目じりのしわが結構かわいい。


君は物珍しそうに陳列されたパンを眺めているが、俺が用を終えるとすぐ気づいて外に出る。


ここからは怒涛だ。


「あ!薬師の兄ちゃん!」

「こんちわ。今日の魚何が来てます?」

「雨で量は少なめなんだけど、いいの入ってきてるよー」


「あー!あさぎおにーちゃん!」

「こんにちは」

「こいずくんともりにぼーけんいったんだって!?きいたよー!!こんどぴいこもつれていってー!!」


雑貨屋の娘ピイコちゃんは好奇心旺盛でおませな子。

年上のコイズに何かと張り合うお転婆さん。


「もう聞いたのか。話が早いな。ピイコちゃんもう少し大きくなってからかなー。そーだなー、来年のお祭りの頃には行けるといいね」

「らいねんー?」

「そ、それまでお父さんお母さんの言うことをよく聞いて、おうちのお手伝い頑張ったらきっと行けるよ」

「うん!ぴいこがんばっていっぱいおてつだいする!!」

「よしよし、いい子だ」


頭を撫でるとピイコちゃんは頬を赤らめえへへと笑っている。


肉屋果物屋八百屋。

着実に荷物が増えるがまだ寄るところはある。

少し雨が弱まってきたのが救いだ。


あ、そうだ。


「悪い、ちょっと寄り道する」


君にそう断ると一軒のこじんまりした建物に入る。

植物の香りが漂う薬草店だ。


「あー、あさぎおにーたん」


カウンターに座るのはぬいぐるみを抱えた幼子。

肩まで伸びた生成り色(エクリュベージュ)のさらさら髪が人形のような美しさをしている。


「エクリュちゃん、おはよう。お母さんいる?」

「うん!」


ひょい、と椅子から降り、とたとたとた、と可愛らしい靴音を立てて奥へ入っていく。

さっきのピイコちゃんよりさらに年下だが、この子のほうがしっかりしている。

「おかーさーん!あさぎおにーたん!」


大声で住居になっている二階へ呼びかける。

店頭の商品を眺めて待つ。

しばらくして階段を下りる足音が近づいてくる。


エクリュちゃんはじっと上を見上げて待っている。

辛抱強い子だ。


「あら、アサギ君。おはよう」


奥から出てきたのは娘と同じ生成り色の髪をポニーテールでまとめたエプロン姿の女性。

若くして子育ての傍ら薬屋を切り盛りするベージュさん。


「おはようございます。これ、昨日採ってきたんで納品します」

「どれどれー。お、いいねいいね。助かるわー。ありがと!」


子持ちに見えない若々しさのベージュさんがウィンクするもんだからドキドキしてしまう。


「エルも!エルも見たいー!」

「はいはい」

「わぁー!すごーい!きれー!!おにーたんありがとっ」


母親の真似をしてウィンクまでしてくるエクリュちゃん。

今からこの調子だと末恐ろしいな。

舌足らずでエクリュと発音できないため自分ではエルと名乗っているのも可愛らしい。


「ばいばーい」


軽く世間話をし、薬草店を出る。

エクリュちゃんがベージュさんに抱かれて大きく手を振る。


手がお母さんの頭にごつごつ当たってるけど気にも留めないしベージュさんも寛容。

仲睦まじい親子だ。


俺が人気者なんですねって?

まぁ小さい街だから長くいれば自然と顔見知りになっていくよな。

野ウサギと木漏れ日亭に来てからは宿の手伝いばっかりだし。


子どもはそんなに好きじゃないが、好かれるのは悪くないよな。

……なんて。



手を振り返し、向き直る。



「アサギっ!!」


呼ばれた気がして目線を上げる。


そこにいたのは……



「ヒナ……!?」


お前どうしているんだよ。


宿の留守番じゃないのかよ……!





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