3日目 7 ジーナとアヤメ③ 雨曝しの騎士と濡れ鼠の気味悪い女
久しぶりの投稿です!
「(アヤちゃん……!!)」
ひそひそ声で呼ばれた気がして振り返ると、おねーちゃんが口に人差し指を当てて慌てた表情で駆け寄ってきた。
あ、静かにってことね。
「(まずいよ騎士だって。おねーちゃんどうしよ……)」
「(返事をしてしまった以上無視するわけにはいきませんわ!でもこの姿では……)」
ふたりでひそひそ。
素性が割れている以上、迂闊に顔を出すのは身を危険に晒す行為。
何かしらで居場所が知れてギョロ目野郎の報復に来たのかもしれない。
「開けていただけないでしょうか!?」
外で雨に打たれてるであろう騎士を名乗る男は少し苛立った声を向けてくる。
もーやだなー、急かさないでよー。
心の中で文句を言う。
「しょ、少々お待ちくださぁい!」
おねーちゃんの口から聞いたことのない裏声が飛び出す。
「(ちょ、なに今の……!)」
笑いをこらえながらおえーちゃんに問う。
「(返事をしなくてはと思って……他にいい案が浮かびませんでしたわ!)」
そういうおねーちゃんの顔は赤い。可愛い。大好き。
「(何か変装……へんそう……。そうだ! おねーちゃん、ちょっと我慢してね‼?)」
ボクは足元にあったそれをおねーちゃんの頭の上に乗せた。
「ひぃっ!?」
不意打ちの感触に顔が引きつり悲鳴が上がる。
メデューサボール。
数多の蛇をこんがらがらせて丸めたような両腕で抱えるくらいの蛇玉。
蛇自身ののぬめぬめとした肌触りに加え、モップ代わりにしていたためぐっしょり濡れておりお世辞にも気持ちいいとは言えないと思う。
「どうかされましたか!?」
「……」
悲鳴が漏れて外から声がかかる、これ以上時間かけちゃ怪しいでしょ。
なんだかおねーちゃんの顔が青いけど、墓守ならこのくらい顔色悪くなくっちゃね!
さすがおねーちゃん演技派!
髪の毛っぽく蛇たちの位置を調整して……うん、完璧!!
「(ごめんね!お願い!)」
硬直してしまったおねーちゃんの体を掴んでくるりと扉側に向けさせる。
おねーちゃんは呆然としながらも辛うじて保っている。僅かな正気だけを頼りにボクは館のドアを開けた――。
「旅の騎士です――!」
男は閉ざされた扉の向こう側に向かってそう叫んだ。
「しょ、少々お待ちくださぁい!!」
中で慌てたのか裏返った声で返事があった。
……が。
……遅い。
一向に開かない。
待ちくたびれて出てきたあくびを嚙み殺す。
「おっそいなぁ……」
少々とは一体どのくらいなのか。
随分と待たせる。
いや、もしかして嫌がらせか?帰れということか?
隊長に言われ来たものの、異教の墓というものは地元のソレより一層不気味だ。
その上こんな天気では……。
しくじった。
自分たちの風習では大変でしょうと雨風しのぐために中に入れてくれたりするものだが。
冷たいのか習慣がないのか。
仕方なく背中を壁に付け軒先に体をねじ込む。
こうすれば何とか雨に当たらないで済む。
風には晒されたままだし、窮屈でたまらない。
冬手前の雨は容赦なく体温を奪っていく。
聖都に比べ標高の高いこの地域ではさらに寒さが厳しい。
その上、時折響く雷鳴は鍛えられた騎士と言えど怖いものがあった。
寒さで身震いする。
と、耳障りな軋み音と共に固く閉ざされていた扉がゆっくり開く。
騎士は慌てて向き直り直立の姿勢をとる。
体を冷やす雨に震えながらも表れた女性の姿にぎょっとする。
屋内から出てきたのに嵐の中にいたのかと思わせる、薄汚い灰色の水が滴る鳥の巣みたいなもじゃもじゃ頭をした女性……。
心なしかもじゃもじゃした髪がうねうねと動いているような……。
「ど、どのような用件でぇ……」
気道が針ほどしか開いてないのかと疑いたくなるくらいのか細い高音で喋る。
ずぶ濡れで顔色も青ざめている。この者自身墓場から這い出してきたのではないかと見間違う風貌だ。
大丈夫かと不安を感じつつも他に寄る術がないため意を決して打ち明ける。
「恐れながら! 不慮の事故で命を落とした者がおり、ここなら蘇生ができるかもしれないと知り藁にすがる思いで参りました!どうかお力を貸していただけませんでしょうか!?」
「そうですかぁ……。しばし待たれよですわぁ」
雨音で消え去りそうな、死人の声はこんなものだろうか。
こちらに視線を向けず目が泳いだまま答える姿はあまりに奇怪。
得体が知れなく不気味……と思っているうちに顔色の悪い女性はバタンと戸を固く閉ざしてしまった。
なんなんだ一体……。やはり中には入れてくれない。
再び閉ざされてから随分と時間が経った。
出てこないぞ……。バックレたのか……?
待てど暮らせど出てこない。
「もし、そこのお方」
唐突に声を掛けられ騎士の心臓が跳ねる。
いつの間にか、背後に人が立っていた。
魔物相手の実戦経験は数えるほどしかないが、それでも部隊での戦闘訓練はそれなりに受けてきたつもりだった。
が、全く気配を感じとれずにいた。
白い法衣の人物。
目深に被ったフードのため口もととしか見えず性別さえ不明でこっちもこっちで怪しさしかない。
「そのお姿、教会の騎士様とお見受けしますが……。異教の墓地の前で何をされているのでしょう?目立つ姿故……あらぬ噂が立ちますよ」
「ぬ。ご忠告感謝する。仲間が一人不慮の事故で命を落とした。ここならば蘇生の法があるという噂を聞いてな。力を借りられないかと恥を承知できたのだ」
「それはそれは……。ご愁傷さまでございます。しかしここではいけません。噂と言うのは尾びれ背びれが付くというもの。確かに蘇生の秘術は存在しますがここではない」
白い人物はそこで一度口をつぐみ考えるようなそぶりを見せてから続けた。
「……私どもが協力いたしましょう」
「申し出はありがたいが……そなたは何者だ?ここがダメだと言いながらそなたたちはできるという理由も保証もないぞ?」
「ご心配には及びません。私どもが”協力”いたしましょう……」
白装束が顔を上げた。頭巾の奥に潜み隠れていたその目が怪しく光った。
騎士の思考が止まる。
「そうだな……。申し出、感謝する……」
騎士と白い法衣の者は館を背にして歩いて行く。
門番の石像が背中を見送る。
程なくして固く閉ざしていた扉が開かれる――。
あるはずの人影が無かった。
「……あれ?」
「誰モ居ナイゾ?」
「おかしーなぁ」
せっかくバンシーのおねーさん連れてきたのに。
ボクは首をかしげる。
「待ちきれなくてお帰りになられたのでしょうか……」
「イナイノナラ仕方アルマイ」
「私は一体何のためにこんな格好を……はくしゅん!」
バンシェンさんはそそくさと中へ戻ろうとする。
汚水まみれのおねーちゃんが冷えたのかくしゃみをする。
「おねーちゃんごめんー」
「風呂ニ入ルトイイ。風邪ヲヒイテシマウ」
「でもまだお掃除が……」
「ボクが頑張るから! おねーちゃんはゆっくりして!」
「そう……? ありがとう、アヤちゃん」
一度は遠慮したものの流石にこのままではよくないと思ったのかおねーちゃんはバンシェンさんに連れられ浴室へ向とかう。
お掃除はもちろん頑張るけどー。
おねーちゃんがお風呂に入るなんて、いたずらしたくなっちゃうよね♪
お湯が沸くまで時間がある。そのすきにモップ掛けは片づけてしまおう!
ボクは再び蛇玉におねーちゃん愛用の槌鉾を括り付け、浮遊し床を一気に磨いていく。
雷鳴をも跳ね返すような蛇の胴体と板張りの床がこすれ合う耳障りな音が立つ。
手加減なしにやるため摩擦で煙が立っているけどお構いなし。
そーれ一気に終わらせるぞっ!
「ねーねーおねーちゃん」
「あら、アヤちゃん。どうしたのかしら?」
「ほら」
「……っ!!(これは!これはベッドに寝そべった等身大の私……‼)」
「えへー。いいでしょー。かわいいよねー」
「アヤちゃん……あなたこれを一体どこで……」
「"だきまくらかばぁ"の新作だって。さんぷるもらっちゃった」
「ということは、まさか……」
「にへ。裏はもちろん……ほらっ!」
「…………っ‼‼‼‼‼‼‼(何という恥ずかしい姿!!」
「“おーくしょん”に出せば宿の修理代はらってもお釣りがくるみたいだから、ちょっと行ってくるねー」
「アヤちゃん!! ちょ、ちょっと!! お待ちなさい!! お願い! 待ってーーーーー!!!
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