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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
3日目 ~墓守の館と生ける死人《バンシィ》~
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3日目 6 ジーナとアヤメ② 弔いの館と墓守

3日目 4の続きです!

「待って!待ってアヤちゃん!!お願い!話を聞いて――――!!」



 走って追いかけたのも空しく、アヤちゃんは闇に染まった空間を同じ夜色の翼を広げ飛んで行き――見えなくなってしまいました。

 振りほどいてしまったチトセさんも振り返ったときにはもう姿がありません。





 私は暗闇の中に一人残されてしまいました。







 何も見えない、何も聞こえない、外の雨音さえ聞こえない。



 此処は一体――。






 真っ黒な緞帳どんちょうが下りた舞台の真ん中で 己の姿だけが浮かび上がります。



 自身を燃やすことで照らす蝋燭のように。




 蝋燭ならば


 このまま消えてしまうのを待ちましょうか……。






 家を裏切り、


 教会を裏切り、



 今度は最愛の彼女いもうとまで裏切った――。





 消えてしまえばいい。





 こんな最低な私なんて――。

















 ――ん!




 声……?



 いいえ、気のせいです。




 見渡しても闇が広がるばかり。


 誰もいません。





















 ――ちゃん!













 また聞こえた。





 誰……?







 誰か呼んでるの??


















 ――えちゃん!!




















 この声は……。




 遥か遠く、暗闇の奥の奥から差す一筋の光。





 そこから聞こえてくる。





 声の主は……アヤちゃん……?





「ここにいますわ!」








 そう叫んでしまった。




 居なくていいと思ったはずなのに。



 嫌われてしまったはずなのに。



 合わせる顔などもうないのに。




 孤独は辛いです。


 寂しいです。



 孤独になったのは自業自得、己の行いのせいです。




 それなのに




 呼ぶ声、探している声を聞くと


 求められていると安心しました。




 だから、その声に答えてしまいました。





 私は、此処にいると――。





 お願い、お願い、見つけて――。











「おねぇちゃん!?」













 声とともに段々輝きが大きく――――!!
















「 お ね ぇ ち ゃ ん ! ! 」














 瞬間――!





 私の瞼が勢いよく開きました。



 焦点が定まらない目が捉えるのは最愛の妹。



 私の可愛い天使のような悪魔。



 愛しい愛しい菖蒲アヤメの花。




「あ……アヤちゃん……」



「よかった、気が付いた……。もう、心配したんだよー?いきなり気を失ってさー、呼んでも揺すっても起きないんだもん」



 言葉と共に柔らかな黄色の髪が揺れます。髪色と同じ優しい黄の瞳、目じりには光の粒が煌めいていて。

 光がどこから……と瞳だけ動かせば、いつの間にか照明が付けられていました。




 私はアヤちゃんを見上げる格好――膝枕されていました。




 ふふ、2回目ですね。


 華奢な彼女も、太ももは案外寝心地がいいんです。

 それを知るのは私だけの特権ですわ。




 でも今は……。






「アヤちゃん!!」



「え――? おわっぶ」



 気持ちが抑えきれず、横になったままアヤちゃんを抱き寄せました。




「アヤちゃん! アヤちゃん!! よかった、よかった……!いるのね……!!」




「ちょ、ぢょっどおねーぢゃん、ぐ、ぐるしい……」




 思わず全力で抱きしめてしまいました。


 アヤちゃんが苦しさにじたばたともがいているのにやっと気づいて手を緩めます。



「ふぃ~。死ぬかと思った。なになにどーしたの?」


 私を覗き込んでアヤちゃんが尋ねます。




「アヤちゃんがいなくなっちゃう夢を見たの……。私が浮気したから、もう知らないって……怒って行ってしまうの」


「ボクそんなことしないよー?おねえちゃん夢だからってボクのことそんな風に思ってるんだ。ひどいなー」



 ぷにぷにのほっぺを膨らませてむくれるアヤちゃん。



「そうね、ごめんなさい。アヤちゃんを信じなきゃね」



 体を起こし、今度は優しくきゅ、と胸に抱きしめ頭を撫でます。

 にへへ……。と顔をとろけさせて悦に入るアヤちゃん。



「まぁ、お仕置きくらいはするかもしれないケド」



 にやけながら言うので迫力は皆無です。


 お仕置き……。

 愛らしい妹から発せられた甘美な響きに背筋がぞくりとしました。






「悪夢ヲ見タカ、旅人ノ怨念ニヤラレタナ……。」


「!!」



 聴きなれない声に驚き体が硬直、唯一反応できた顔を声のしたほうへ向けます。



 土気色の肌、肩まであるボサボサ髪の色は焼け焦げたような赤茶色。


 まるで屍人のような女性が椅子に腰かけていました。



 気が付きませんでした。


 一体いつから……やりとりの一部始終を見ていた、ということ……?



 目は深淵のように昏く、光の反射はほとんどみられない。それでも確かな意思が宿っているのは感じられます。



「ど、どなたですか……?」



 恐る恐る尋ねる。



「バンシェン、ダ。ヨウコソ、墓守ノ家「弔イノ館」ヘ」



「墓守……バンシェンさん……?」



 注意して聞かないと老人に間違うようなかすれた声ですが、かすれているだけでしわがれてはいない、まだ若い声。


 そう聞き分けられたのは幼い頃に聖歌隊として鍛えられた経験のおかげなのでしょう。



「あたしの姉、バンシェンさ」



 今度は聞き覚えのある張りのある声。


 バンシェンと名乗る女性のその奥にローシェンさんの姿を認めます。



 姉……。



「あなたが……」



 話に聞いていた方。


 髪色も紙質も顔つきも全然違うけれど、よく見れば可愛らしい二重の目はそっくり。



 二人を見比べていると視界に入ったのはおじさまとチトセさん。


 エルフの深い緑と目が合い、気まずくてすぐ目を逸らしてしまいました。



 アヤちゃんがいなくなってしまう夢が私の中から出たものなら、チトセさんに誘惑されるのもまた私からでていること……。



「大丈夫か? いきなり悲鳴が聞こえたと思ったら気を失ってさ」



 おじさまが声をかけてくださいます。



「気を失って……?」



 皆様に迷惑をかけてしまいました……。



「アンタ、教会ノ匂イスル。ココニ弔ワレテイルノハ、旅ノ途中、志半バデ倒レタモノ多イ。未練アッテ救ワレタイ。宗教関係者、憑カレヤスイ」



 バンシェンさん……は淡々と説明されます。


 ああ……。そのせいなのでしょうか……。



「悪いね、ちょっと姉さんと盛り上がってて気づくのが遅くなっちまって」



 ローシェンさんが申し訳なさそうに鼻の頭を掻きながらお詫びを言います。



「盛り上がって……? どうして顔赤いのでしょう??」



「この姉妹はできてるのよ、貴女たちと同じように、ね」



 チトセさんが腕組みをしたまま私にウィンクを投げます。



 あ……そういうことです、か……。



 胸の中で猫のようにゴロゴロしている妹に目をやり顔が紅潮するのを感じます。



「それで、だ。そういうことは各自でよろしくやってもらうとして。ここで……「ちょっと待って」なんだよ」



 話しを進めようとしたおじさまをチトセさんが遮ります。



「各自よろしくって、ラスト、貴方は目の前で百合が二組も展開されているのに平気で見ていられるって言うの?」


 チトセさんが全くもって信じられないといった様子で言います。

 この方は挟まるのがお好きですからね……



「百合の間に挟まるヤツは獅子に食われて地獄に落ちる……死んだじーさんの遺言だ」


「あら、おじいさま達観してらしたのね」


「挟まれに行って食い殺された側……な」


「あ、反面教師なのね」



 チトセさん、ローシェンさんが声を上げて笑い、バンシェンさんは不思議そうに眺めています。



「そんな話は置いといて、だ。二人にはしばらくバンシェンと生活してもらうことにした。宿はもうマークされているだろうから近づかないほうがいい。こんな墓場なら人目に付きにくい……だろ?」



「コンナ墓場デ悪カッタナ」


「おいおい、そういう意味じゃなくてだな……」



 おじさまがバンシェンさんに弁明していますが、つーんとそっぽ向かれたままです。珍しく焦っています。



「姉さんったら久しぶりに会ったからってはしゃいじゃって」



 二人のやりとりを目を細め愛おしそうに眺めるローシェンさん。



「説明しておくと、姉さんは一回死んでるんだ」



 え……?



 今日何度目でしょうか、衝撃に硬直してしまいます。



「死んでるけど会話は成り立つし、触れるし、別に悪いことはしない。バンシーという存在になっていて。まぁ、死期が近い人に向かってこの世のものではない叫び声をあげたりするけど……、ご愛嬌だから。よろしくね?」



 そんな人とどうよろしくしたらいいのか分かりませんが、人外なのはアヤちゃんも同じですし、何とかなるのでしょう……。

 他に行くところもないですから頑張るしかありません。



「姉さん生活能力が著しく低いから、世話してやってほしいんだ。食事はあたしが用意していくから、主に掃除を、ね」



 確かに見渡せば埃っぽかったり、あちこち蜘蛛の巣が張ってたり……。黴臭いですね。


「だろ?ほとんど閉め切ってるしさ……。あたしだけじゃ手が回らないから人手が欲しくて。宿に5人も6人もは過剰だしね。ここで働いた分の報酬はちゃんと出すし、ここでの寝泊まり代は無料タダでいいからさ、悪い話じゃないだろ?」



「えと……お邪魔になりませんか……?」



「構ワナイ」



 提案に驚きながらなんとか返事を絞り出します。


 戸惑っているのは私だけなのか、提案するローシェンさんもバンシェンさんも、アヤちゃんも平気な顔をしています。



「でしたら……よろしくお願いいたします」



「じゃ、決まりだね。収穫祭までに家の中、特にここ――礼拝所を綺麗にしてしまいたいんだ、頼んだよ」


 なかなか責任重大ですが、やることがあったほうが頭のモヤモヤが解消できるというもの。


「アヤちゃん、頑張りましょうね」


「ふにゃ~……がんば……る~」



 ずっと撫でていたのですっかり溶けてしまっていますね。














「じゃあ、食事も作ったことだし、あたしとラストは宿に戻るから。チトセは残るみたい。ここのことで分からないことは姉さんに聞いてくれたらいいから――」



「はい、どうもありがとうございます」



 打ち合わせを終え……私たちは何処からともなく引っ張っりだされてきたフリル付きエプロンに三角巾を身に着けて掃除を始めていました。

 どの部屋も悲惨な状態でしたが、まずは一番広い礼拝所から着手。




 アヤちゃんは魔法生物クリーチャーを召喚、空を飛べる利点を生かしてがらんと広い礼拝所を上から順に掃除してもらいます。




「一気にやるよ――――!!来い!触手たち(テンタクルズ)!!」




 浮かび上がった魔法陣から生える10本の触手は全てに「はたき」を持っていて意識の高さがうかがえます。



「百裂はたき掛けだぁー!!」



 礼拝所の天井から一気にはたきが振るわれ何年分の蓄積か埃が蜘蛛の巣が虫の死骸が降ってきます。



「まぁ、すごいですねぇ」



 胸の前で両掌を合わせ感嘆の声を上げて見とれてしまいます。




「どんどんやるぞー!

 次はモップがけだ!って、モップが見当たらないなぁ……。


 そだ!おねーちゃん、槌鉾メイス貸してー」


 突然言われ驚きましたが、いつも持ち歩いている戦闘用の槌鉾をアヤちゃんに差し出します。



「重いですわよ?」


「うん、大丈夫。振り回すわけじゃないからー」




 体に合わない大振りの槌鉾

 よーし、おいで!絡み合った蛇の玉(メデューサボール)



「――!」



 言葉で表せない奇声を発し現れたのは、無数の蛇が絡まり合って鳥の巣のようになったもの――その中心には大きな目玉が覗いています。



「1号と2号でこれに巻きついて……そうそう、上出来絶対離しちゃダメだかんね!」



 貸した槌鉾に、蛇玉のうち二匹の比較的大きめの蛇が巻き付いています。



「――!」




 まるで芸を仕込む調教師です。



 蛇玉がぶら下がった槌鉾をバケツに漬け、びしょびしょになったメデューサを床に置き……



「いけーーーーー!!」





 アヤちゃん自身は浮き、蛇玉を床に押し付けながら壁まで突進しています。




「――――――――!!」





「ひゅー!楽しー!」



 ものすごい勢いで礼拝所の中を行ったり来たり。




 と、雨音に混ざってドアを叩く音がしました。


 おかしい。訪ねてくる人いないはずでは――?




「はーい、どちら様??」



 警戒を忘れ、素で応対してしまったアヤちゃん。


 ドアを開けずに声をかけたのはまだ救いでした。



 なぜなら、相手は――。




「旅の騎士隊の者です!」




 騎士……!?






「ねぇ、アサギ」

「なんだ?」

「”ショセキカ”って何?」

「は?」

「”ショセキカ”って何って聞いてるの」

「石化の一種だろ」

「は?」

「だから、ショが石化するんだって」

「何よ、デタラメじゃない」

「じゃあヒナは知ってんのかよ」

「知らないけどデタラメってことなのはわかるわ!」

「あー!お前カンペ持ってやがる! よこせよ!」

「ふふん!渡さないわよ!えーとなになに……

 『【野ウサギと木漏れ日亭(原題)】は4000兆円文庫から実験台の捨て駒として電子書籍化することが決まりました。応援してくださっている皆様どうもありがとうございます。大変心苦しいのですが作業に手いっぱいのためしばらくの間更新をお休みさせていただきます。またお目にかかれる日を楽しみにしております』ですって! 何これっ!?」

「続き書いてもらえないのか……」

「そんなの許すわけにいかないわ……! 作者のところに行ってくる!」

「お、おい!ヒナ!?」




その後、作者霜月サジ太の行方を知るものはだれもいない……

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― 新着の感想 ―
[一言] 1番ヤバいやつに見つかってしまいましたね…大丈夫でしょうか…?
2023/01/24 23:14 退会済み
管理
[一言] とりあえず全話読破! めっちゃ気になるところで止めてますなぁ… 続き楽しみにしてますd(*´∀`*)b
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