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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
3日目 ~墓守の館と生ける死人《バンシィ》~
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3日目 1 深夜~朝 お説教と野暮なこと

3日目の始まりです!

 あなたが 命を賭すとして

 結果 無惨に散るとして

 得られる結果 どんなもの?

 賭するに 値するほどと

 胸を張って 言えますか?


 犬死にするかも しれません

 己の命を張ってまで

 求める成果 どんなもの?

 本当に人のためですか?

 自己満足ではないですか?


 命を賭してほしいなど

 誰が望んでいるでしょう

 一度消えたら 戻らない

 命のともしび 一度きり


 お願い 生きて 生き延びて

 容易く 投げてはいけません

 あなたが 冷たくなったとき

 悲しむ顔がきっとある


 だから お願い 忘れずに

 命を絶やす その前に

 悲しませる人 いることを

 願わくば 生きて帰って……





 ――伝承 「旅立つ者への言葉」より














「雪が降ってきてテンション上がっていちゃついてたらこんな時間になっただぁ??」



「野ウサギと木漏れ日亭」に帰ってきたのは良い子の眠る深夜も深夜。

 ボクらを待ち構えていたのは大目玉だった。


 寝ずに待っていてくれたおじさんから延々とお説教。



 いや、ほんとはね……。

 雪の降る中、寒さに震えながら死んじゃったギョロ目男をどーにか生き返らせられないかとおねーちゃんと二人がかりで蘇生の法術を連発して……魔力が切れたらちょっといちゃいちゃしてって繰り返してたんだよ?

 ただ遊んでたわけじゃないんだよ?



 でも、いくらやってもダメで。


 そしたら人が近づく気配がしたから隠れ蓑(ハイド)で隠れてたら、来たのは背の高い男の人。

 たぶんおじさんとお茶会してたアッシュって人で。

 ギョロ目のことを見つけたら慌てる素振りも見せず静かに担いで持って行ったから気配が遠のくまで待って、それから帰ったからこんなに遅くなったんだけど。


 そんなこと言えるはずも無くて。


 くどくど……なんて言ったらまた怒られるけど、くどくど言われてる間にエルフのおねーちゃんと弟子のドルイドちゃんまで不機嫌な顔で食堂にやってきたんだ。



「あなたたち、ほんっとうに何考えてるのかしら?危機感の無さが信じられないわ……」


「ちーさま……。このポンコツ淫魔、儀式の生贄にしていいでしょうか?」



 ドルイドちゃんは黒曜石でできたナイフを取りだして真顔で聞くんだ。



「ええ、許可するわ」


「よくないよ!?」



 ふふ、と暗い笑みを浮かべて刃をぎらつかせるものだからボクも咄嗟に反応する。



「アヤメはともかく、ジーナがついていながらこれではな」


「ともかくって!?ひどくない!?」


「軽率すぎて信用ありません」



 おじさんもエルフおねーさんも呆れながら突き放すように言うんだ。



「おねーちゃーん……、みんながいぢめる……」


「んー……まぁ外出するとは私も思っていませんでしたのでアヤちゃんが悪いですね~」


 隣にいるおねーちゃんに助けを求めるけど、首だけこっちに向けてウインクしながら無慈悲なことを言う。もうちょっとかばってよ!?



「ふぇぇ」



 怒られっぱなしで泣きそう……。



「ちゃっかりアヤメだけ悪いみたいにしてるけどジーナも同罪ね」


「あら」



 ぎくり、と珍しくおねーちゃんの表情がこわばった。



「むしろ追いかけて行ったのに目的見失ってるからタチ悪いな」

 おじさんがうんうんと首を縦に振っている。



「アヤちゃ~ん、みなさんがいじめますわ~」


「おねーちゃん『帰りましょ?』とは言ってないからね……」


「それはバラさない約束ですわ~」



 ふふん、仕返しだいっ。

 おねーちゃんは嘆いているふりをしながら上手いこと追及を逸らしている。

 何をしてたかを誤魔化すことには成功したみたいだね。



「あなたたち……いっそ騎士隊に突き出してやりたいわ」


「ですから二人揃って生贄に」


「気持ちは分かるが……オーツーは直ぐに刃物取り出すんじゃない。まぁ、説教はいつでもできるとして。もう遅いから明日に備えて休んでおくこと。朝から作戦を決行する予定で動いているがどうなるか分からん。休めるうちに休んでおくしかない。じゃあな。」



 言い残しておじさんは背を向けて右手を上げ振り返らないまま自室にこもる。

 強制終了ありがとー。心の中で呟く。



「はぁ……先が思いやられるわ……」



 エルフのおねーさんは額に手を当てながらふらふらと部屋へ戻り始めるとドルイドちゃんが

 直ぐに左横について腕をもって支える。

 そしてこちらを振り返り……空いているほうの手で下の瞼を引っ張り、んべっと舌を出す。

 かわいい。

 彼女なりの怒りの表し方なのだろうけど、さっきまでと違って年相応、いや実年齢より幼い行動に思える。

 あくまで悪魔から見た感想だけどね。



「さ、私たちも休みましょう」



 おねーちゃんに促されて部屋のある2階へ向かう。



「ただいまー」



 ちいねーちゃんが寝ているはずだから邪魔しないよう控えめに言いながら部屋のドアを開ける。



「――――え?」



 暗がりの中、ボクらの背後、廊下の灯りが室内を照らす。そこに見えたのはちいねーちゃんのベッドの脇で膝立ちになり手を握り顔を近づけているおにーちゃんだった。



「おにーちゃん何しt「あらあらアサギさんごめんなさいお邪魔しましたわホホホホホ!!」」



 おねーちゃんが喋ってる途中のボクの口をいきなり後ろから押さえて、聞いたことない奇声ともとれるわざとらしいハイトーンの笑い声を立てながら開ききらないドアを乱暴に閉めた。



「んー!んー!」



 そのまま数歩、ドアから離れるまでボクの鼻と口は塞がれたまま半ばおねーちゃんに引きずられるみたいに移動し、ようやく解放してもらえた。



「ぷはっ!もー、おねーちゃんってば苦しいよぉ」


「ダメよアヤちゃん邪魔をしちゃ。野暮って言葉知ってる?」



 ボクの抗議に答えないで問いかけてくる。野望?



「野暮、よ。察してあげてってこと」


「ふーん。……それでどこで寝るの?」


「そうねぇ……」















 どのくらい経っただろう。枕元に何かの気配がする。



「……ろ」



 あれ?何か聞こえる……?



「……きろ」


 ……まだ眠いよぉ。


「う……ん……」



 重い瞼をゆっくりこじ開ける。ぼんやり見えるのは鈍く光る黒い……



「ひっ!」



 瞬間。寝たまま右に一回転。さっきまでいた毛布に黒曜石のナイフが突き立てられる。


 転がらなかったら串刺しだよぉ……。



「ちっ」



 凶器を突き立てた犯人、ゆるく癖がある黄土色の髪をし同じ色の瞳と法衣ローブを纏った少女―――ドルイドちゃんだった。



「危ないなーもー」


「3度呼んだ。起きないやつが悪い」


「嘘だ2回だ!」


「ちっ」



 反射的に言った言葉が的を射たのかドルイドちゃんは目を逸らす。図星かよ!



「起きたのね」


「アヤちゃんおはよう~」


「あ、おねーちゃん。おはよー」



 腕組みして睨んでくるエルフのおねーさんとその横で上半身だけ起こしてひらひらと手を振るおねーちゃん。寝ぐせのついた髪がまたかわいい。


 あれ? なんで二人とも微妙に顔赤いんだろ。ま、いっか。



「二人とも起きたか。すぐ食べるぞ」



 厨房からおじさんが顔を出す。

 そっか、結局食堂で椅子を並べてベッド代わりにして寝たんだっけ。おじさんが厨房にいるってことはローシェンおねーさんはまだ来てないのかな。

 ぼんやりしてると続々とテーブルに食事が並べられていく。パンとスープとサラダ。それに紅茶。


 だんだんと視界が鮮やかになる、室内は明かりがともされていて外はまだ暗い。

 窓の外からさざ波のような音が聞こえるのはどうやら雨が降ってるみたい。

 ボクたちが外にいた頃に降ってた雪が雨に変わったんだ。積もらなくって残念。


 食卓に並んだ朝食は5人分。

 ボクとおねーちゃん、辛辣エルフおねーさんと危険極まりないドルイドちゃん、そしてラストおじさん。



「? おにーちゃんたちは?ふわぁ~」



 質問と同時にあくびが出る。



「まだ寝てる。起きるには早すぎるから」



 サラダをもそもそ食べながらドルイドちゃんが答えてくれた。


「あいつらには書置きした。夜が明ける前に移動するからな」



 瞬時に食べ終えたおじさんが紅茶をすすりながら言う。食べるの早すぎ。

 温かいスープを器をもって直接すすって飲むと内臓に沁みわたっていって心地いい。体が目覚める。

 おねーさんの味だ。作っておいてくれたんだね。



「? 移動ってどこへー?」


「お前にはまだ言ってなかったか。……ローシェンの姉のところだ」


 だからおねーさんは昨日準備って言ってたのか。そして今不在なのも符合する。

 おねーちゃんにちらりと目をやると冷静に食べているから昨日のうちに聞いてることなんだね。



「おねーさん?ふーん。そこって安全なのー?」



 夜はやり過ごせたけど、わざと見逃されたのかもしれない。あいつらから簡単に逃れられるようにも思えないなぁ。



「ああ。人は寄り付かないさ。……なにせ墓場だからな」




イメージは早朝4時くらい。朝早くてすごい。

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