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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
2日目PM ~お茶会とギョロ目騎士~
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2日目のおわりに

昨日のミスは今日の糧!

 閉ざした扉を 開こうよ

 閉ざしたままでは 分からない

 外の景色は 分からない

 暑いの? 寒いの? 心地いいの?

 晴れてる? 降ってる? 曇ってる?

 風は海から? 山からか?


 誰かが来るの待ってるの?

 教えてくれるの待ってるの?

 いつになったら来るのかな?

 ほんとに教えてくれるかな?

 

 ただ待っていても始まらない

 扉を開けて いざ行かん

 自ら掴みに いざ行かん

 勇気を出して いざ行かん


 仰いでごらんよ 空の色

 嗅いでごらんよ 風の香

 聴いてごらんよ 季節の足音

 食べてごらんよ 大地の恵み


 触れてごらんよ 愛しの……







 









 ジーナが飛び出して行ってからずいぶんと時間が経った。


 全員で待っても無駄なのでオヤジさんが番をするとなり、妙案を思いついたというローシェンさんは準備のために帰宅。


 エルフのチトセさんとその弟子オーツーは部屋に入り交代で警戒に当たるそう。


 宿の仕事を終えた俺と詩人も、手伝いを申し出たが明日目いっぱい働いてもらうからとおどかされたため自分たちの部屋へ引っ込んだが――。



「うーん」


「アサギ君、落ち着かないですね」



 椅子に座ってみたが一息、とならずそわそわする。何かできないかと腕を組んで唸るばかりだ。

 詩人は商売道具である竪琴の手入れをしている。



「ジーナもアヤメも帰ってこないし」


「だけじゃないですよね。ヒナさんが心配なんでしょ?」


「……まぁ、それも」



 人差し指をぴんと天に向けて立てて、自信ありげに言う。

 図星を突かれ俺は言い淀む。

 のほほんとしてるのにこういうとこ鋭いんだよなぁ。



「行ってあげたらどうです?一人で寂しがってるかもしれませんよ?」


「痴漢!夜這い!寝込み襲うなんてサイテー!このド変態!!って言われて殴るけるの暴行を受けるの間違いないんだけど」



 身振り手振りを交えオーバーにヒナの物真似を繰り出す。



「それでも、弱っているパートナーを放っておく理由にはなりませんよ?」


「……」



 笑いどころを流されたばかりか、真面目に問われる。


 ヒナは弱っている。そうだった。


 なのに「いつもとおんなじ」ことになると俺は考えていた。


 気持ちなんかとっくに決まってる。

 ただ恥ずかしさと気まずさで踏ん切りをつけられなかったんだ。


 そんな気持ちも彼にはバレている。

 だからこそこうやって促されているんだ。



「悪いな、気を遣ってもらって」


「いえいえ、私もご主人に騎士たちについてもう少し詳しく聞きたいと思っていたので」



 ありがとう、と礼を言い部屋のドアを開ける。



「アサギ君」



 体がドアをくぐったところで呼び止められて振り返る。



「同意を得てからにしてくださいね?」


「何もしねぇよ!!」



 思わぬ発言に思わず顔が赤くなり、乱暴にドアを閉め早足で階段を駆けていく。





 そばにいてやりたい。殴られても蹴られても罵られても――。



















 闇の天幕が下ろされた道端で、ボクはおねーちゃんと抱き合っていた。


 おねーちゃんの泣いてるところ見ると、心がズキンとした。


 男がいくら苦しみ藻掻こうが笑えるだけだったのに。

 なにかが違うみたい。


 おねーちゃんが泣いているところなんてもう見たくないから、

 男を食事ゴハンにしないよ。


 約束する。




 今度はボクから唇を重ねた。約束のキス。




 触れる唇が温かくほんのり甘い香りがする。

 手と手も重ね合わせ指を絡ませる。


 痛くも悲しくも無いのに涙があふれてきた。

 熱い想いが実体化したような液体はとめどなく頬を伝う。



 一層空気が冷えてきて、空から白いものがちらついていた。


 密着していた顔を離し――

 見つめ合った後、二人で空を見上げる。


 夜の帳が下り、さらに雲で覆われ月明りさえ届かない深い闇。

 何も見えるはずのない深い深い闇から、ちらりちらりと舞い降りてくる白い結晶。



「雪だわ」



 そうか、雪。

 間近に迫った収穫祭が終わると冬が来て峠が封鎖されるって言ってたっけ。

 だからボクたちは「野ウサギと木漏れ日亭」で冬を越すことにしたんだ。


 暖炉に火を灯した温かい部屋で、美味しいお酒と温かい食事を並べた食卓を囲んで旅の思い出を語りあって雪解けを待つ。


 最初はそれが一体何なのか、何の意味があるのか分からなかった。

 みんなと過ごすうちにその良さが少しづつ分かってきて、今ではとっても楽しみ。

 もちろん、その前の、賑やかなお祭りも。



 二人で抱き合い唇を何度も何度も重ねた。降りだした雪はちらちらと、しないはずの音を立てながらボクの穢れを払う聖女の光のように静かに降り続けた――。























「――――――あ」




「どうしたの?」


「おねーちゃん…………。これ……どうしよう」



 傍らに横たわり、表情一つ変えず、無言で全く気配を感じさせないまま一部始終を見届けた「ギョロ目」の死体がそこにあった。

 ギョロ目が過ぎて眼球が一つ零れ落ちていた。



「――――まぁ」



 見なかったことに。は、できないよなぁ……。



















 2日目――完

ひとまず2日目完結です!

お付き合いありがとうございます!


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引き続きよろしくお願いいたします!!

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