2日目 35 欲望と欲望
過激めです、閲覧注意。
苦手な方は読み飛ばしをお勧めします!
「さて、と」
お風呂のあと、届いていた食事を素早く済ませると、ボクはお風呂で着替えたばかりの服を昼間着ていたボロに着替え直した。
洗濯してないから汗臭いし土まみれ、着心地悪いけど今はこれのほうが都合いい。汚れたって捨てればいいだけだから。
ちいねーちゃんはご飯食べないで寝ちゃったみたい。せっかく美味しいのにな。
ニンゲンの食事では本当にはボクの空腹を満たすことはできない。食べることはできても生命の源である魔力の回復にはならないんだ。それなのに、ローシェンおねーさんの作る料理は不思議と食べたくなるのにはきっと何か秘密があるんだろうなぁ。
今から秘密の肝心な食事を食べに行く。見つからないようにこっそりと。
一応ベッドの中には替え玉を詰めておいたから、覗かれない限りはバレないはず。バレたら、まぁ怒られるだろうけど。おねーちゃんが忙しい今、ゴハンをもらえる状況じゃない。だから自分で調達するんだ。
「じゃあ、いってきます」
窓を開ける。風が室内に吹き込んできてカーテンがはためき生乾きでおろしたままの髪も後ろへ持っていかれる。
落ちないよう慎重に窓のへりに立ち、白い翼を広げ、蹴る。落下が始まると同時に翼を動かし飛翔。納屋で少し回復した魔力で宿場街に行くくらいは訳もない。
収穫祭が近い。見物客は浮足立っているためいつも以上に盛り上がっている。当然ごろつきや悪徳商人なんかもいるはず。
昨日みたいに悪いことしようとする奴だったら餌にしちゃってもいいよね。暗い路地の近くで引っ掛けて遊んでやろっと。
肌寒い夜風が心地よい。寒いくらいなんだけど、ゴハンの期待に胸を膨らませている今は寒さなんてなんてことない。
今夜の空は厚い雲で覆われていて月の光が届かない。これなら人目にも付きにくい。
さ、もうすぐだ――。
「は、はは、ははは……」
男は路地で壁に向かって立ちすくみ力なく笑っていた。着崩れた服に留め金をつけ損ねてずれた鎧。遊撃騎士隊の副隊長、部下に丸め込まれ持ち上げられて風俗店に連れ込まれたギョロ目男だ。
隠し抑えていた欲望、念願と言ってもよかった女を抱くチャンス。
存分に悩んだ末に清楚だと自称する黒髪スレンダーでお嬢様風な娘を選んだ。外見は申し分なかった。
しかし……こなれていた。場馴れしすぎていた。
最初はそれでいいと思っていた。美しい娘を抱けるのだから。女はとても柔らかかった。
口づけから始まり色々と指で舌でまさぐられた。
負けじとまさぐったが、女の技術は超絶だった。徐々に相手のペースに乗せられっぱなしでなすがままになるしかなかった。
受け身ばかりになると意外と冷静になるもので、自分の初体験がこれでいいのか、誰かに公言することになった場合どうやって説明したらいいのか、と考えてしまうと冷めてしまったのだ。
行為を始めようとしたが、気持ちと共に大事なところも萎えてしまった。勃たない恥ずかしさ、それを見られた屈辱のあまり慌て服と鎧を纏って飛び出したのだった。
大失態だった。こんなはずでは。もっともっと、あんなことやこんなこと、夢にまで見たようなことをしたかった。だが、自分のブツが使いものにならなくては……最高の快楽は得られない。それでは意味が無かった。
「クソっ」
思い出すだけで腹立たしい。憐れむような女の目。きっと今頃は話のネタにして嘲っていることだろう。忌々しい。
「クソクソクソクソクソっ!!」
腹いせに路傍の石を蹴る。半分地中に埋まっていて動かない石を、何度も。何度も何度も何度も蹴る。
それでも腹の虫は収まらない。
「なにしてるのー?」
しまった、見られたか――。飛び上がりそうな心臓を抑えてギョロ目男が声のしたほうを振り向く。
無邪気にほほ笑む少女がそこにいた。たった今まで気配の一つも感じなかったのに突然街灯の下に現れたようだった。イラついていて気が付かなかっただけか。
照らし出された姿――黄色い髪にあどけなさの残る顔立ち。穢れを知らないであろう白い肌は成長途中か起伏がほとんどない。身につけているのはボロと言っていいほど破れ土に汚れている。みすぼらしいのに黄色い大きな瞳には警戒心がまるで見えなかった。
「ねー、おにーさん。ボクといいことしない?」
毬を転がすような可愛らしい声。
イイコト。イイコトとは。
頭の中が巡る。こんな時間に子供が遊び相手になってくれとせがむだろうか?かりにそうだとしたら遊ぼうよと言ってくるのではないか。
ではイイコトとは何か。
さっきそこの風俗店でしていたようなことなのか、思い描いてできなかったその先をしていいのか、こんな無防備な子供に。
「どーしたの?」
いつの間にか目の前に少女が迫ってきていた。手を後ろで組んで背伸びをしギョロ目の顔を覗き込んでいる。ごくり、と生唾を飲む。柔らかな黄色の眼に吸い寄せられる。
「い、いいのか……?」
少女の両肩を震える手で掴む。先ほどとは比べ物にならない高揚感。心臓が高鳴り加速を続ける。このまま張り裂けてしまいそうだ。さっきは萎えて使い物にならなかったモノも熱く脈打っている。
私だって、やるときはやるんだ・・・!!
「なーに、おにーさん?ボクとイイコトするのー?だったらーあっちに行こうよ。明るいところじゃ恥ずかしいよ」
誰かに見つかったら……どうなるというのだ。ここでは私を知るものなどほんの数人しかいない。聖都から遠く離れた山間の僻地で誰が私の事を関知するというのか。
少女に魅入られギョロ目男は理性より欲望が勝っていた。
暗がりを指さした少女を無視し灯りがともる中で幼いと言ってもいいくらいの少女のつるぺたの体が乱れる姿を目に焼き付けたいと思わずにいられなかった。
無防備にもほどがある!
下から上目遣いで見上げられる。さらさらしたやわらかな黄色の髪、吸い込まれるような瞳、微笑むと鋭い犬歯が覗く。
少女はギョロ目の左手をそっと両手で包み、笑みを浮かべながら指を甘噛みする。手に温かいものがまとわりつき、感触に背中がぞくぞくとする。
衝動を抑えられず少女の肩に置いたままの右手に力を込め、思い切り服を引きちぎる。
白い、細い肢体が露わになる。
「ひゃっ」
少女は小さく悲鳴を上げ咄嗟にギョロ目男の手を離し両手で体を隠す。
いたずらのつもりだったのか、からかって終わるつもりだったらもう遅い。
少し怯えた目をする少女を見てさらに興奮を覚える。ギョロ目は自分を抑えられなくなっていた。
「怖くて助けも呼べないだろう。誘ったのはそっちだからな?」
悪党のような言葉が出る。年端もいかない子供に手を出したことが知れたら教会で異端審問にかけられ追放だ。
いや、手遅れだ。どうなってもいい、目の前の青い果実をむさぼることしか考えられない!!少女の隅々まで余すところなく味わってしまいたい。
たとえこの先に永劫の裁きが待っていようとも、家が没落しようとも、親がいくら嘆こうとも知ったことではない。
どくんどくんと心臓の鼓動が大きくなる。
これまでさんざんバカにされ蔑まれ哀れに思われてきた全ての鬱憤をこの少女を支配することで晴らしてしまいたい。めちゃくちゃにしてしまいたい。どのみち破滅するのならとことんやってしまえばいい。
「あは、大胆だね。びっくりしちゃった」
いつの間にか少女の唇が真っ赤に染まっており、少女らしからぬ妖艶な笑みを浮かべる。
肌を隠していた腕をギョロ目男へ向けて伸ばす。現れた肌にただでさえ大きい目を目玉が零れ落ちるのではないかというほどに見開き、その美しさを焼き付ける。
「やさしくして、ね」
その一言を聞いたのが最後の記憶だった――。