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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
2日目PM ~お茶会とギョロ目騎士~
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2日目 33 作戦会議とそれぞれの思惑

久しぶりに女の子視点。

次への展開に備え複数人に渡り視点がころころ変わります。



「そうやってラストが騎士のアッシュとキャッキャウフフしている間に、帰ってきたローシェンと私は合流して打ち合わせ、貴方たちが帰ってきたら納屋に匿うようにしたの。ローシェンが上手に誘導してくれてよかったわ。おかげで私は二人のイチャイチャを堪能できたの」


「キャッキャもウフフもイチャイチャもしてねぇよ」



 ラストはふてくされて言う。大の男が拗ねる姿も案外乙なものね。



「あら、その割には恥ずかしがってたじゃない。誤魔化さなくていいのよ。残念だったのは待てど暮らせどキスどころかアツい抱擁の一つもしなかったこと。じれったいったらありゃしない」



 髪を一度掻き上げる。私のように美しいエルフが自慢の長くサラサラな白緑色の髪を掻き上げたら様になるでしょう?



「まるで見てたかのように言うな」


「見てたもの。精霊を使ってね。みんな興味津々で窓から覗いていたわ」


「げげ……悪趣味な奴らだ」


「何とでもどうぞ。それはそうとちゃんと事情説明しなくてはいけないわ」



 話に置いてきぼりしてしまった5人に向き直る。



「貴方たちを納屋に匿ったのは宿に入れないだけでは下手に動かれて他の騎士共に遭っても困るから。捕らえた獲物をもって街のほうへ持っていく気だったでしょ?」



 うんうん。と頷く面々。



「精霊術で下位火精霊サラマンドラを呼んで納屋の中が寒くならないよう温めておいて、ついでに納屋に入ったら眠くなるように仕掛けてもおいたの」


「だからすぐ眠くなっちゃったのか……その割に寒くなかったもんねー」


「アヤメちゃんも眠ってましたね……。魔族も眠らせるうえ、魔力の回復までさせるなんて。それほど強力な術が扱えるなんて、さすがです」


「長命種の魔力と鍛錬の成す技。もっと褒めていいのよ」



 得意になってふふんと鼻を鳴らす。さ、私の凄さを褒め称えるのよ。



「あたしは具合悪くなったけど」


「それは外にいるときから寒い恰好してたからだろ、ここは褒めておこうぜ」



 いきなりヒナが文句を垂れ、アサギがフォローしてくれるけど、その言い方も引っかかる。



「よっ!年の功!」


「若作りババァ……」


「淫乱どヘンタイエルフ」


「おまえのかーちゃんでーべそー」


「ちょっとラスト!オーツー!それにクソ淫魔とローシェンも厨房からわざわざ……!!」


「いやぁちょっと空気を和ませようと」


「日頃のストレス解消に」


「ありゃ、聞こえたの」



 どいつもこいつも!エルフの聴力舐めないでほしいわ。



「まぁ、冗談はこのくらいにして。種明かしをすればそんなところだ。で、事情を知ってもらうのは必要だったが、ここからは全員が同じ行動をとる必要はないと思う。そこで、だ」



いつもより落ち着いた、一段低いトーンで話すラスト。緊張感を再び走らせている。



「アヤメ。風呂に入って着替えろ。ヒナは体が冷えてるみたいだから暖かくして。二人ともすぐ寝ろ。食事は部屋まで届ける。アサギは二人の部屋の暖炉に薪を運んで、アンタは暖炉の火をつけてやってくれ。二人には他にもいくつか頼みたい。ジーナはチトセとローシェンとオレと一緒に作戦会議だ。オーツーは引き続き周囲の警戒していてもらっていいか?」



 ラストは男性二人に細かな指示を伝える。淫魔の少女は着替えを取りに、ヒナはそのまま休むために2階の部屋へ続く階段を揃って上がっていく。



 少しのすき間時間ができた。

 結界を張り周囲の警戒をし続けるオーツーにお茶を渡し労いの声をかける。



「お疲れさま。悪いわね、ずっとやらせっぱなしで」


「いえ、結界張るくらいなんでもありません。それより森へはいつ帰るのですか?今日は日帰りの予定でしたが」


無表情感情を表に出さないこの子が見かねて



「そうだったわね。でも……この件が落ち着くまでは厳しいわ」


「人間なんて捨ておきましょう?守り人が居なくては森が、木の精霊(トレント)さまが危ないです」


「殺したって死なないわ、あんなじじい」



今日は顔を見なくていいと思うと少しホッとする。



「私は心配です」



 まっすぐ見つめ返す真剣な眼差し。冗談は通じない。



「そうね……。オーツー。あなたの言っていることのほうが正しいわ……守り人は森を守ってこそね」



肩をすくめる。それから視線を戻し真っ直ぐにオーツーを見る。



「ただ……。それでもこの状況を捨ておくことができないわ。だからもう一日待ってもらえるかしら」


「分かりました。ちーさまがそこまで言うのでしたら」



 テーブルに置いたグラスを手に取り水を一口飲むと、オーツーは再び姿勢を正して目を閉じ瞑想を始める。



「じゃあ、作戦会議始めるぞ」


 指示が終わったようでラストから声をかけられたわ。さて、もうひと踏ん張りね。











 ――階段を上がるのもしんどい。体を引きずるように一歩づつ上がっていくあたしの横をアヤメはぴょこぴょこと音がしそうな軽快な動きで1段づつ上がっていく。

狭い段の上で片足立ちだったりくるくる回ったり器用に立ち回っている。



「おっ風呂ー!♪」


「アヤメは気楽ね……」


「んー?なんてー?」



 能天気な声。羨ましいわ。

 あんな話を聞かされたあとでなんでこんな上機嫌なの……。


 階段を上り切り、右に曲がって少し歩くと私たちの部屋。鍵を開け備え付けのランプに火をともす。小さなランプが部屋全体を淡く照らす。



「なんでもないわ……私はこのまま横になるから、気を遣わなくていいからね。おやすみ」


「着替えないのー?」


「いいの、もう疲れた」



 着替える気力もない。全身がだるい。



「おだいじにねー」


「ありがと」



 気遣いがあるのか素っ気ないのかよくわからない声掛けをし、アヤメは着替えのもこもこワンピースをもってお風呂場へ駆けていく。体重を感じさせないパタパタという軽い音が2階の廊下に響く。



「はぁ……」



 悪魔に気遣いを求めてもしょうがない。人の感覚なんて通じないもの。


 一日収穫なし。アサギにちゃんと謝って仲直りと思っていても、そんなタイミング見いだせずうやむや。

 ただ詩人君と3人での薬草摘みは順調に終わり終始和やかだった。

 アサギは朝のことを気にしている様子がなかった。気にしてなくてホッとしたようで、気にされていなくてがっかりしたような寂しいような。


 言われなくて触れられなくて済むのならそれに甘んじてしまう自分がいる。

 せっかくお膳立てしてもらったローシェンさんに悪いな……と思いつつも自分からふさがりかけた傷のかさぶたをはがす勇気など無かった。

 

 やっぱりあたしは弱いな……。

 自分の不甲斐なさを嫌悪しベッドに横になって毛布を頭から被る。人と関わりたくない気分だった。アヤメにきつく言っちゃったな……。八つ当たりだ。本当に嫌なやつだあたし……。

 悶々とした気持ちのままだったけど、熱のせいかすぐに寝入ってしまった――。













 二人の姿が見えなくなり、それぞれテーブルに着いて話し合いを始めました。

 オークルさんは隣のテーブルで静かに目を閉じています。警戒に当たってくれているとか。



「廃村の教会での事件と昨日のアヤちゃんの騒動が結び付けられてるのですね……」


「嗅ぎ付けられているとはね……。そう簡単に出て行ってはくれなさそうね」


「ほとぼりが冷めるまで隠れていたほうがよさそうだね」


 夕食の準備が一区切りしたのかローシェンさんが前掛けで手を拭きながら厨房から出てきました。



「とは言え、宿の中では限界がある。オレの話で何か隠してると勘づいてまた来る可能性だってある」


「また来られて鉢合わせでもしたらどうにもなりませんね」


「ずっと納屋にいるわけにもいかないしな」



 宿場街だってそう広くありませんから、潜伏したところですぐ見破られかねません。この町に長く住む彼らですらお手上げに近いとはどうしたものでしょう。



「森は寒いから向かないわね。獣や魔物もでるし危険」


「街から出ること自体嗅ぎつけられるかもな。」



 潜伏できないのなら、やはりここは私が大人しく投降するしか――。



「だったら……とっておきの場所があるよ」



 ピン、と人差し指を立ててローシェンさんが言う。どこか子供じみた悪戯っぽい笑みを浮かべながら話す。



「そうか……。その手があるか」



 ローシェンさんが口にしたのは思いがけない提案で。

 そして、現状それ以外に道はなさそうで、まだ望みをつなげられるかもしれず私は言いだしかけたことを間一髪呑み込んだのでした。















「さーっぱりー♪」


 石鹸使って泡泡でゴシゴシ汚れを落として湯船にゆっくり浸かって大満足!お風呂っていうのはニンゲンの発明で一番かもねー。

 もこもこふわふわな毛皮でできたワンピースがあったかい。袖は手の指が少し出るくらい長く、裾もくるぶしに掛かるくらい。ちょっと大きいんだよなー。肩幅が合ってなく少し動くだけで横にずれて肩と鎖骨が出ちゃう。

 さて、と。どうしようかな。


 寝ろって言われてもさっき寝たし。そもそも魔族ボクらは寝なくても平気なんだ。

 寝ることの利点なんて動かないことでの傷の治りの促進ができるくらい。


 魔力の回復がしたいんだけど、おねーちゃんは作戦会議とかで捕まってるから望めないし……。また昨日みたいに街に繰り出してみようかな。でも怒られたりするのかな?


 んー。なにかいい方法。あ、そうか。ついでにその騎士ってやつらをやっつけちゃえばよくない?大人数相手するよりは奴らがいるところに潜入して一人づつおびき寄せるか……。

 ボクあったまいいー!

そうと決まれば、行動開始!




視点の切り替え手探り中です。一人称でぐるぐるするのは読みにくいかも、と考えつつ。

ご意見ご感想などありましたら一言でもいただけると嬉しいです!

お待ちしております!



本編の後日譚、「誰がオヤジをパパなんて」の投稿も始めました。ペースゆっくりですがこちらも更新していきますので併せて読んでいただけると幸いです!!

なお、プロローグは本編「野ウサギと木漏れ日亭」のこの先のネタバレを含みますのでご注意ください。



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