1日目 5 仲直りと乾杯
2021/6/19
追記
ジーナ→ジーナ・レグホーン
アヤメ→妹のアヤメ
に変更
他、描写追加しました
―夕食時―
「こんなにするんですかっ!!」
玄関の扉の請求書を見て、後頭部に大きなたんこぶをつくった少年が叫ぶ。
そろそろ起こそうと部屋に入ったらベッドの上で上半身を起こしていたからつい渡してしまった。
先に落ち合い、一緒に部屋に入ったアンタも横から覗いてひぇぇぇと声を出す。
「持ち合わせが無いだろうから、働いてもらうしかないな。いっぱい紹介するぜ。収穫祭までは滞在だろ?」
「しくしく、、はい。そうします……」
言いながらうなだれる少年。
蹴り飛ばされた側なのに文句言わないんだな。
健気なのか弱みでも握られてるのか……。
所持金の少ない冒険者でも安心して泊まれるよう、宿や近隣の仕事を代行することで宿代が安くなる。
【野ウサギと木漏れ日亭】ではそんな仕組みを取り入れている。
値引き程度から、当面の宿泊費がチャラになるようなものまで仕事内容は様々。
冒険者ギルドで受ける依頼のようなもんだな。
仕事なんて探せばいっぱいあるからな。
客側にしてみたら稼げて助かるし、やってもらえればオレは楽ができるし。
お互い様というわけだ。
収穫祭の近い今は何処も人手を欲していて稼ぎどきでもある。
――あと一〇日あるわけだ。
「まぁ、修理代は災難だったとして、晩飯はオレの奢りだからたらふく食って英気を養いな?」
「え⁉ いいんですか⁉ ありがとうございます!」
どんよりしていたのが急に目を輝かせる。
切り替え早すぎ、遠慮ゼロなところが面白い。
やっぱ似た者同士なんだな……。
アンタは少年の体調を気遣い、立ち上がるのに手を貸す。
「悪いな……いてて。初対面で世話になって。俺はアサギって言うんだ。よろしくな」
少年――アサギは歩きながら挨拶し、アンタも宜しく、とにこやかに返す。
アサギの歩調に合わせ三人でゆっくり食堂へ向かう。
今日はこのアサギと飛び蹴り少女ヒナ、修道服の少女と幼女の四人パーティに加えて吟遊詩人のアンタ、誘った張本人のオレも同席し六人になる。
用意しておいたテーブルに男二人を座らせ、酒を取りにいく。
取って戻ると、ちょうど少女たちが食堂に入ってきたところだった。
「あ、おにーちゃん!」
「あら~、アサギさん大丈夫ですか~?」
「ああ、ジーナ、アヤメ。心配かけたな。痛いけど平気みたいだ」
揃いの黄色髪の修道女と童顔少女は、また手を繋いで入ってきた。
アサギを認めると口々に声をかけ、アサギも返す。
その後ろにいたヒナも何か言いかけたようだったが、声は聞こえなかった。
ジーナと呼ばれた修道女は修道服のまま、頭に載せていた頭巾は外し、代わりに頭の右側に大振りの花とレース地のヴェールをつけてお嬢様感が出ている。
少女は法衣を脱いでいる。
さっきは法衣で分からなかったが、白の袖なし服は冬に着るには時季外れな、背中が大胆に開いた作り。
見るからに寒そうだが、本人は至って平気そうな顔。
おしゃれは我慢と聞いたことはあるが、どういう神経してるんだか……。
ヒナは……外行きっぽい白の膝丈ワンピースと気合入りすぎていて、逆に浮いている。
童顔少女がとてとてと駆け寄り、だいじょうぶー? と座っている少年の頭をさすろうと手を伸ばし、少年はありがとうと照れた笑みを浮かべている。
他の二人もテーブルまでやってくるとアンタにこんばんは、と挨拶。
修道女は振り返り、ほら、とヒナを後押しする。
うん、と短く返事する緋髪少女。
「え、と……。アサギ……」
「ん?」
本人に届くかどうか、オレも精一杯の聞き耳を立ててやっと聞こえるくらいのか細い声で、俯きながらヒナは言う。
「さっきは思いっきり蹴飛ばして……ごめんなさい」
消え入りそうな震えた声で言い、アサギに向かい頭を下げる。
「その、避けると思ってたの……。あんなに綺麗に決まると思ってなくて。蹴っておいてそれは言い訳にならないんだけど……。昼間のことを思い出すと恥ずかしくって手加減できなかったっていうか……」
「俺も悪かったよ、嫌なこと思い出させてデリカシーなかった」
「ううん、別に触られたことは嫌じゃないの! あ、嫌じゃないっていうか、あれは事故だし!」
こそばゆいやりとり。
言ってるほうも言われているほうも顔赤い。
「ただ思い出すと興奮するっていうか……、ちょっと気持ちよかったし……。だから、あとで続きを……」
「ちょ、なにいってんのよっ!!」
声と口調を真似してちゃちゃいれる修道女。
取り持つかと思えば……この状況を楽しむぶっこわれ聖職者だな。
童顔少女はニヤニヤ、アンタは困惑した表情。
どんどん真っ赤になっていくヒナ。
目を合わせていたはずの二人がそろって顔を背けている。
なにやってんだよ……。と言いたいが、あいつらのコレは平常運転。
さ、遊んでくれてる間に飲み物を注いでおこう。
「と、とにかく、今度からは気をつけるわ! 本当にごめんなさい!」
気を取り直したようで、もう一度深く頭を下げる。
「分かった。もういいよ、大したことないから」
「おにーちゃん頑丈だもんねー」
アヤメがたんこぶをよしよしする。
気恥ずかしそうにするアサギ。
殺人的な飛び蹴りを食らってたんこぶで済んだのはたしかに頑丈だ。
「ほら~お詫びにヒナさんもよしよししてきたら?」
「なんでよっ!!」
「蹴っ飛ばしたのはちぃねーちゃんだからねー」
「……わかったわよ!」
「いや、いいよ!!」
投げやりに言い放つヒナに恐怖を感じたのか恥ずかしいからか、童顔少女は慌てるアサギの手を掴んで逃げられないようにする。
「逃がさないよー♪」
「あら~ダメですわアサギさん、遠慮しては。せっかくヒナさんおめかししてきたんですから」
「お、おめかし⁉」
「そうですわ。……気付いてなかったんですの? しょ・う・ぶ・ふ・く♡」
アサギはまじまじとヒナを見て……真っ白な生地にとふちにあしらった花柄がかわいいワンピースに照れ、やっぱり顔を背ける。
おいおい俺ですら一目でわかったのに気付かなかったとは鈍感すぎるだろ。
「何も言ってあげないのー?」
掴んだままの袖をくいくいと引きながら童顔少女が尋ねる。
「な、何って……」
「かわいい、とかーきれいだよ、とかーにあってる、とかー」
「いい、いい! いいから! 柄じゃないの分かってるから無理しなくていいからあたしには似合わないから!」
両手のひらを外向きにして千切れんばかりに振る。
「ほらほら、女の子にそんなこと言わせてはいけませんわ~」
「え、と……」
「ほらーはやくー」
「大丈夫だから! 期待してないから!」
「わざわざアサギさんが喜んでくれるかもって買いに走ったんですよ~」
「ジーナ! それ言わない約束⁉」
「ありゃ、バラしちゃったねー」
「俺の為……? そっか……。そんなに気にしてたんだな。……ありがとう。似合ってる
」
アサギはまっすぐ見つめるのは恥ずかしいのか、少し斜めに顔を逸らしながら――目線は確かにヒナの方へ向けて――褒める。
「あ……あり、その……ありがと……」
うつむいてスカートの裾を両手で握り、すき間風の音で立ち消えてしまいそうな小さな声で返事をするヒナ。
今日イチ真っ赤なんだろうな。
「ささ、今度はヒナさんの番ですわ」
ヒナをアサギの背後に立たせる修道女――ジーナ。
童顔少女――アヤメはまだアサギの手を掴んだままだ。
アサギは観念したのか身動きせず、目線だけ上にあげている。
ヒナはもじもじ躊躇いながら、そっとアサギの後頭部――浅葱色の髪に手を触れる。
「よ、よしよし……」
ごくごくわずかに左右に手を動かす。もっと撫でてやれよと思うが照れているからあれが限界なんだろう。
耳まで真っ赤。そしてなぜ声に出す。
「はぁぁぁぁ~~~いいですわ~~ごちそうさま~~」
「あんたが見たかっただけかい!」
ご満悦のジーナに鋭く突っ込む鋭く突っ込むアサギ。
そりゃそうだろ。
長ぇよ……。
「おーい、そろそろいいか?」
ゲストを放置してぎゃーぎゃー騒ぐ四人に、オレはしびれを切らして声をかける。
アンタは出し物をみているかのように終始にこにこ眺めている。
おいおい存在が空気になってるぞ……。
「オマエらいい加減座りな、今日は歓迎会だ!」
『はーい!!』
四人が着席、騒ぎの間に泡まで完璧に注ぎあげたエールビールの入った木製ジョッキを、全員の席に行き渡らせていく。
この国の飲酒は一五を過ぎてから。
全員クリア。
アンタも飲めることは事前に確認済みだ。
オレはコホン、と咳払いする。
全員木の樽を小さくしたようなジョッキを手に取る。
あらためてようこそってところかな。
オレがジョッキを掲げると皆それに倣う。
「ようこそ、『野ウサギと木漏れ日亭へ』!」
『かんぱーい!!』
木樽を高く掲げ、そのまま口に運ぶ。
く~~~っ!
仕事の後のエールはうまいな。
……あ、まだオレは仕事中だが。
まぁ、固いことは言うな。
各々のペースでのむ……が四人はグイグイと一気飲み。
っぷはーっ! と同時に飲み干した。
こいつらは……。奢りと言ったが一杯目がこれでは先が思いやられる。
アンタもなかなかいける口みたいだな。
遠慮しないで飲んでいいぞ、と声をかける。
樽に取り付けた蛇口をひねると注げるからセルフサービスだ。
「料理はもう少しでできあがってくるはずだ、とりあえずはつまみで待っていてくれ」
オレは厨房から前菜とナッツなどの乾き物を運び、テーブルに置く。
「ところでさ、自己紹介まだだったね」
いの一番に皿に手を伸ばした緋髪少女が、木の実をぽりぽりしながら言う。
「あたしヒナ。さっきも言ったけど、舞剣士》なの。よろしくね」
「食いながら言うなよ……」
「なんか言った⁉」
「いやなにも」
アサギがぼそりと呟くのを逃さずキャッチするヒナ、しれっとするアサギ。
仲直りした直後にこれかよ……。
「{私はジーナ・レグホーンと申します~。聖職者ですわ~。こちらは妹の……」
「ボクはアヤメ! 召喚士だよー」
「俺はアサギ……ってさっき言ったか。まぁいいや。さっきは手を貸してくれて助かったよ。俺を運ぶときも手伝ってくれたんだってな、ありがとな」
四人は順に名乗り、アンタも名乗る。
オレは料理の様子を確認すべく厨房へ。
「でもさ、吟遊詩人って戦闘職でもないのに、一人旅してるのってすごいよね! どこへ向かってるの? 王都? 聖都?」
緋髪のヒナが興味津々に聞いているのが背中越しでもわかる。
オレは厨房のドアノブに手をかける。
質問されて一瞬、間があった後で
実は―
『記憶喪失!?』
おぉびっくりした。
次回は吟遊詩人のことが少し明らかに――。
まだまだ夜は始まったばかりです。
引き続き読んでいただけたら幸いです!
ではCM入りまーす!
ヒナが壊した扉のせいで
高額の請求書を突き付けられたアサギ。
返済するまで冒険には出られない!
宿の経営を手伝ったり
街中で依頼を受けて
扉の修理費を稼げ!
マルチプレイ対応!
協力プレイで高得点をたたき出せ!!
タイムリミットは収穫祭当日まで!!
ぼやぼやしてると
事件が起きて依頼どころじゃなくなっちゃう!?
ヒナの好感度が低いともっと宿が壊されちゃう!?
ヒロイン3人、まさかのマルチエンディング!?
アサギは修理費を無事に払えるのか――。
収穫祭を迎えたとき、隣にいるのは――?
スマホアプリ版
「淫魔と聖女のイチャラブ百合カプ、舞剣士と盗賊の素直になれない男女カプ。喋ってばかりの冒険者4人は事件に巻き込まれて冒険どころじゃありません!!」
(原題「野ウサギと木漏れ日亭」)
絶賛妄想中!!