1日目 4 舞剣士と吟遊詩人《後》
店先でくたばった少年をとりあえず馬小屋……はさすがに可哀想なのでオレの自室に運んだ。
客室は空いてるが急に客が来ると困るからな。
本当は看病するのに面倒が無いからだ。やれやれ。
「荷物運んでくれて助かった、ありがとな」
少年をベッドに寝かせ、氷嚢を持ってきて腫れ上がった患部を冷やしたところでオレは成り行きで手伝ってくれたアンタに礼を言う。
いえいえ、と笑顔で答えるアンタ。謙虚だな。
「そうだ、晩飯どうする? 介抱手伝ってもらったし、オレの奢りで一緒にどうだ? こいつらも食べるだろうし、今んとこ他に客はいないから交流しないか?オレとしてはアンタの吟遊詩人としての腕前も気になるところだしな」
オレの誘いにアンタは奢りなんて悪いですよと最初は遠慮していたが、オレがいいからいからと押し切ると爽やかな笑顔でお言葉に甘えて、と返してきた。
決まりだな!
そうとなれば支度だ。
この時期の夕暮れはいわゆるつるべ落とし。
傾きかけた日はあっという間に沈んじまう。
うちは宿泊客のうち希望者に夕方と翌朝に食事を提供している。
もちろん別料金だ。
外で食べようと自由だが、ここの料理はへたな店より評判がいいし価格も良心的に設定しているから頼む客が多い。
それどころか他で宿を取ってわざわざ飯だけ食いに来る奴らもいるくらいだ。
オレが奢るなんてことはそうそう無いが、アンタのことは気に入ったから特別だ。
アンタと部屋の前で別れ宿のカウンターに戻ると二階の少女三人分の食事注文のメモが置かれている。
オレが不在だったから置いていったようだ。
イラつきのみえる走り書き、書いたのはヘソ出し少女か。
もうちょい丁寧に書けよ。
しかし三人は少年を馬小屋に放り込もうとした上に飯抜きにするのか。
ヒナはともかく二人まで容赦ないな……と思ったらもう一枚メモが重ねられていた。
こっちは筆跡から修道女か。
二人を仲直りさせるから夕食時に彼を連れてきて、とある。
やっぱそうなるか……。
だりぃな……。
いや、アイツ起きれないんじゃないか?
しょうがねぇ、目を覚ましたら同席させるか。
起きなかったら……知らん。
もっとも、起きなかったら起きなかったでオレのベッドが埋まったまま。
となると床で寝ることになるから、早く目覚めてほしいもんだが……。
煩わしさを感じつつも、こういうのがほっとけないのがオレの性分らしい。
さて、どうなることやら。
とりあえず夕食の注文を出しに厨房に向かう。
コンコン、とノックして扉を開ける。
「夕食六人分できるか?新しいヤツがきたから看板メニューで頼みたいが」
仕込み中の料理人に伝える。
「そりゃいいね、腕が鳴るよ」
茶色の髪を後ろでひとつにまとめ、白い厨房用の服に身を包んだ女性が答える。
「おう、構わねぇ。誰か手伝わせるか?」
「大丈夫、任せといて!」
そう言い親指立てる。
平気そうなので頼んだ、と厨房を後にする。
食事はこれで安心、と。
玄関の扉だった者を外の壁際に寄せ、飛び散った破片を箒で掃く。
扉の代わりに板をたてかけ故障中と貼り紙したからこれでよし。
後はテーブルと酒の用意と、一通り見て回ってから少年起こすか――。