表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
2日目AM ~生意気少年とウサギ狩り~
43/158

2日目 17 ジーナとアヤメ⑥ 交渉と度胸《前》

久し振りに予定通りの投稿ができました。

「そんなところで寝てると風邪ひきますよ~」



 巨大な猛獣(ジャイアントラビット)を相手に、魔力が尽きても諦めずに大奮闘したアヤちゃんに向かって、私は冗談めかして言いました。

 とっつきづらさが続いていましたが、連携して大兎を倒したことで、いつものようにやり取りが出来るような空気に戻せました。


 アヤちゃんは体中傷だらけ、服はぼろぼろで痛々しく……。

 それでいて布の裂け目から覗く白い肌が、ちょっと色っぽいです。



「疲れたよー」


「ふふ。あんなにてこずるなんて、出来の悪い妹がいると大変ね~」


「なにそれー! ひどいなー」


「冗談ですわ~。お疲れさま。さ、手当するわよ~」



 頬を膨らませ不貞腐れた表情をし、大兎の巨体の横で大の字になっている彼女の傍らに膝をつき、両手を組んで握り天に祈りを捧げます。



「癒しの光を与え給え! 治癒の法力・初級(ファーストエイド)



 手のひらをかざすと、柔らかい光が手のひらに収まるほどの球状に発せられ、傷がみるみるうちに癒えていきます。

 幸い深い傷がありませんでしたから、初級の法力で足りました。


 治癒の法力は過剰にかけると対象に負担をかけてしまいますから、傷の度合いと回復量の見極めが大事と言われています。

 ですが、教会はこのところ完全なる治癒を与えるほうが神への畏敬の念がより高まると、積極的に治癒の奇跡を施すようにと言いだしていて……。


 できる限りは自然治癒が望ましいと考えているわたくしは、疑問を感じずにはいられません。

 それもまた修道会、教会を離れたいと思った理由のひとつです。



「ありがとー、おねーちゃん」


「ふふ、どういたしまして」



 やっと見ることのできたアヤちゃんの笑顔。

 彼女は今日ずっと険しい顔をしていましたから、ずいぶんと久しぶりです。


 強力な攻撃方陣を放ったので私も少し疲れていますが、この笑顔で疲れは吹き飛んでしまいます。

 このまま抱きついてしまいたいくらい……。


 でも今は――。



「すげーっ! こんなでっかいやつ一撃で倒したんだ!!」



 興奮した声を上げるコイズ君。

 社会勉強にと同行している十歳の少年がいるのですから、迂闊なことはできません。


 社会勉強の一環と見せることはできても、情操教育にはあまり好ましくない影響を与えてしまいます。

 ですから、アヤちゃんも魔力を失った分生気を欲しているはずですが――我慢です。


 彼は大きな獣の周りをぐるぐる回り眺めては歓声を上げていますが、触る勇気までは無いようです。



「あんまり騒ぐと起きちゃうぞー」


「えっ」



 アヤちゃんが寝転がったまま言うと、少年は顔を引きつらせ慌てて後ずさります。



「い、い、い、生きてんの!?」


「そうよ~、電撃で気絶しているだけなの~」



 聖なる雷(ホーリーサンダー)

 神の奇跡で雷雲を一時的に呼び寄せ、対象に雷を落とす中級の攻撃方陣。

 強い衝撃を与えるため気絶させるのですが、見た目の派手さと裏腹に、殺傷能力はそれほど高くありません。



「そうなんだ……ね、この子これからどうなるの?」



 青ざめながら質問を投げかけるコイズ君。



「んー。このまま宿まで連れて行って、ローシェン(おねーさん)に報告して肉屋に届ける……かな?」


「そうね~。でも、こんなに大きいと目立ってしまいますわね~」


「面倒だから解体しちゃいたいけど、下手にやると臭みが出るから、お肉屋さんがやったほうがいいよねー」


「そうですわね。鮮度も落ちてしまいますし、プロにお任せしましょう~。アヤちゃん、魔力の丸薬(マジックタブレット)ありますわ。『野ウサギと木漏れ日亭』まで、もうひと働きお願いできるかしら~?」


「しょうがないなー。ほかに手段ないもんね。……じゃあ、あーん」



 私の依頼にけだるそうに答えるアヤちゃんは、体を動かさずに口だけを大きく開きます。


 甘えん坊さんですわね、と思いながら私は丸薬を取り出すと、親指と人差し指でつまんで少女の口元まで運び――。



 ぱくっ!



「きゃっ」



 手を離すより先に。

 アヤちゃんは突然首だけを起こして、丸薬ごと私の二本の指に食らいつき、わざと強く指を吸いながらつまんだ玉を奪っていきました。


 痛くないように歯は立てず、唇だけで食いついたのです。

 その吸い付きの絶妙な力加減が癖になりそうな気持よさで、ドキドキしてしまいました。

 けれどコイズ君に気付かれるわけにもいかず、私はドギマギするのを必死に抑え平静を装います。



「んー。おいしー。染みわたるなぁー」



 そんな私のしぐさを見て、アヤちゃんはしてやったりとニヤニヤしながら仰向けのまま丸薬を飴玉のように舐めています。

 美味しいのは何のことでしょうか……。

 不意打ちを食らった私は動揺して問うことはできず、すっかり彼女のペースです。



「ね、ねぇ……」



 しばらく静かだった少年が声をかけてきます。

 今顔を見せたら赤くなっているのが見つかってしまいます。

 もしかして見られていたのかどうしようかと考えていると、返事を待たずに話し始めました。



「勝手なお願いなんだけど……、この大兎を逃がしてもらえないかな……」



2日目のアヤメとジーナ、一区切りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アヤ、結構荒い言葉使えるんですね…そして意外と覚悟が決まっている…!この二面性、いいですね!
2023/01/22 21:30 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ