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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
2日目AM ~生意気少年とウサギ狩り~
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2日目 16 ジーナとアヤメ⑤ 魔力切れと協力《後》

「では、アヤちゃん三十秒お願いね」



 秒って概念をよく知らないけど、三十をゆっくり数えればいいんだよね??

 迫ってくる巨大兎に対し横へ飛んで引き付ける。


 単純にひっかかってくれるからやりやすい。

 おねーちゃんのほうに行かせるもんか。


 いーち、にーぃ、さーん……。


 心の中で数えながら上下前後左右、縦横無尽に飛んで躱す。


 じゅーいち、じゅーに……。



「あ、れ……?」



 飛ばし過ぎたみたいで、思ったより魔力が持たなかった。

 またも浮遊が解け、地面に落ちる。


 飛んでいた勢いは消えないため着地と同時に足がもつれる。

 が、さっきとは違いなんとか足を動かし、転ばずに走り続け、ウサギの突進を紙一重でかわす。


 じゅーご、じゅーろく……。


 ウサギは反転し後ろ脚で踏ん張り、低い軌道でボクのほうに大砲の弾のように跳躍。

 飛び込んできながら前脚を振るう。



「ぐっ!」



 避け切れず、鋭い痛みが背中に走る。

 背中から突き飛ばされた形になりバランスを崩す。


 草原に左肩から落ち、勢いが止まらず横向きに数回転がる。

 爪がかすっただけなのに、その鋭さで背中の皮膚が服もろとも裂けたよう。


 ぶつけた肩も痛いし転がってさらにあちこち擦りむいた。

 うー、傷だらけだ。

 起き上がれず倒れたまま。


 頬にも生温いものを感じ手の甲でこすると真っ赤な血が付着していた。

 傷が残ったらサイアクだー。


 倒れこんだボクのほうに、巨大兎がゆっくり歩み寄ってくる。

 いよいよとどめを刺すというのか……。


 あといくつ時間稼ぐんだっけ。数えてた数も忘れた。

 もういいや、ボクが四肢を裂かれ内蔵ぐちゃぐちゃにされる間に、おねーちゃんが片付けてくれるでしょ。


 地鳴りとともに巨大兎が近づいてくる。

 ボクは無防備に倒れたままだ。

 煮るなり焼くなり……って、ウサギがそんなことできないか。


 こんな状況で自分にノリつっこみしちゃってる。

 あーあ、せめて痛くないといいなー。


 脚のすぐ先まで巨大兎が寄って来た。

 コン、と軽い音がする。

 顔をあげると、遠く離れていたはずの少年―コイズが顔を引きつらせ、足を震わせながら立っている。

 石を投げてウサギに当てたらしい。



「ばか! 隠れてろよ!! 死ぬよ!!」


「お前のほうが死にそうじゃないかバカアクマ! お、お、おい! ウサギ野郎!! 今度はオレが相手だ!!」



 若干裏返った情けない声で、言葉の通じないウサギに啖呵たんかを切る。

 思わず強い言葉で言ってしまうと、ウサギと言えど癇に障る言い方なのはわかったのか、コイズのほうに視線をやり低く唸る。


 遥か頭上から睨まれた少年の震えた足は、補足された獲物のごとくその場から動くことができず立ちすくんでしまっている。


 くっそ、動け体!


 ウサギは後ろ脚をぎゅっと縮める。

 ――あれは跳びかかる体勢だ。


 ぶつかっても、前足で薙ぎ払われても、前歯で噛まれてもひとたまりもない。

 つまり大ピンチ。


 お願い!

 もう一瞬だけ飛ばせて!!


 自由が全く利かない体に祈る――ウサギが少年に跳びかかる瞬間――魔力とは違う、白い光に包まれる。


 ウサギよりほんのわずかに早く、ボクはごく低く真正面に飛び、少年コイズの体を抱き上げた。

 直後に右方向へ真横に向きを変えたところで光は消えて浮遊も消失――。


 少年を抱えたままボクは背中から落ちる。

 裂かれた傷を思いっきり打ち付け、それだけで勢いが収まらず、止まるまで草原を擦って痛みに意識が飛びそうになる。

 いっっっったぁぁぁ~!!


 普段より格段に飛ぶ速度が速かったため、勢いの相殺にもかなりエネルギーを使う。


 わずかに遅れて巨大兎が少年のいたところに突進。

 勢い余って木立に頭から突っ込み木の幹が折れるが、ぶつかった衝撃をものともせず起き上がり向き直る。


 次ぎ来たらもう終わりだよ……。

 せめて、と少年を強く抱き寄せて兎には自分の傷だらけの背中を向ける。



「グオオオォォォ!!」 と、今まで以上に大きく咆哮したとき――。



『神の名のもとに 我が敵を打ち抜き給え! 聖なる雷(ホーリーサンダー)!!』



 いつの間にか空に発生していた薄暗く分厚い雲から、青白い筋が螺旋らせん状に巻きながら一気に落ち、巨大兎を打ち抜いた。


 嵐の時の落雷と全く同じ、ぷすぷすと煙が立ち焦げ臭い匂いが立ちこめた。

 巨体がよろめき横向きに倒れ、その衝撃で一帯が大きく揺れる。



「やった!! さすがおねーちゃん!!」



 よかった。



 疲れた……。

 少年を抱えていた手を離し、ボクは草原で仰向けに寝転がりしばらく体を休めることにした。


     ◇

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