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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
2日目AM ~生意気少年とウサギ狩り~
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2日目 15 ジーナとアヤメ④ 魔力切れと協力《前》

日本シリーズ、ヤクルトVSオリックスの白熱した試合の見過ぎで少しアツい展開になってしまいました。

「グルルルル……!」


 血沸肉男人形ちわきにくおドールが消失したことで、巨大兎ジャイアントラビットの動きがまた活発になってきた。

 よくわかんない奴だったけど、場にいるだけでなんだかんだ牽制になっていたみたい。

それはよかったのだけど……。



「――っ!」



 相変わらず大振りな前脚の一撃を避けたタイミングで、ボクの「浮遊」が急に解け、地面に足が付く。

 が、飛んでいた勢いがそのままで、つんのめって前のめりに転ぶ。

 反射的に両腕で顔を覆うと、草の絨毯と腕が摩擦で擦れる。

 

 いったぁー。

 今まで飛びまわって攻撃を躱していたのに、血沸肉男人形くだらないヤツを呼んだために魔力切れを起こしたみたい。



「アヤちゃん!?」



 おねーちゃんの悲鳴に近い声。

 巨大兎が声にピクリと反応しているのを感じるけど、だいぶ離れて聞こえるから、目の前に倒れているボクにまだ注意が向いているよう。


 油断したなー……。

 魔力切れって初めてだ。

 このままじゃまずい……。


 うつぶせになったまま、どうしようかと考える暇もなく頭上から迫ってきた前脚を転がって躱す。

 さっきまで居たところがえぐれ、草と土埃が舞う。


 起き上がるけど、走り出すのに体勢が整わない。

 魔力の補助なしでは動きが鈍く、野生動物には敵わない。


 すぐに左の前脚が振りかぶられている。

 一度は間に合ったけど今度は避け切れない、やられる――!


 と、巨大兎の背後に閃光が走る。

 鈍いもの同士がぶつかった衝撃と音がし、巨体が一瞬よろける。



「ウサギちゃん。貴女のお相手はこっちよ」


「グルるるるる……?」


「おねーちゃん!」



 巨大兎が振り向いた方向には、愛用の槌鉾メイスを両手で構えたおねーちゃんが毅然と立っていた。


 神の力を借りて放つ術「法力」のうち、基本的な攻撃術――閃光型の攻撃方陣を当てて、ウサギの注意をボクから逸らしてくれた。

 さっきまで手を引かれていた少年は、離れた草むらの陰に隠れている。


 巨大兎はおねーちゃんのほうに跳びかかる。

 つぎつぎと前脚を繰り出し突進し前歯を振りかざしてくるが、おねーちゃんはロング丈のワンピースなんて動きにくそうな格好なのに、無駄の少ない軽やかなステップで攻撃を躱していく。


 見るの初めて、聞いたことも無いけど、聖職者クレリックでありながら近接戦闘にも慣れているような身のこなしだ。

 図体に寄らず素早い巨大兎に対応できているおねーちゃんすごい。

 ちょっと見惚れてしまう。


 ……イヤイヤ、そんなことをしている場合じゃない、と我に返る。



 デカブツの動きに対応して避けたり、槌鉾メイスで打ち返すことはできても、繰り出され続ける攻撃を躱しながらでは集中できず、法術での反撃が出来ていない。

 おねーちゃんはほとんど力を使ってないから、強力な一撃を放てるはず。


 ボクじゃ決定打が打てないから、発動までの詠唱時間を稼がなくてはいけない。


 ――そうだ、ひとりでやろうとするんじゃなく、協力して倒すんだ。


 起き上がって膝や腕に付いた土を払って落とし、体勢を立て直す。


 今日はなんだかむしゃくしゃして落ち着かなくって、ウサギを勝手に捕まえたのも木を倒したのも八つ当たりに過ぎなくて。

 この大物を一人でやっつけたら爽快だろうなと頑張ってみたけど、無茶だった。


 せっかくの獲物も逃がしてしまった。

 意地張ってないで最初から助けを求めたらよかったんだ。



 でも……。

 おねーちゃんがちいねーちゃん、おにーちゃん以外の人と仲良くしているのを見て、ひとり占めできないのに苛立ってしまったのだった。


 おねーちゃんが自分から離れてしまう、どこかへ行ってしまうなんて不安を、知らず知らずのうちにどうして抱えているんだろう……。


 ……いいや、今そこを考えているより目の前の状況をどうにかしないと。

 確か、あれが……。


 短い下穿き(ショートパンツ)のポケットを探る。

 あった。


 緊急用に魔力を込めた丸薬タブレットを口に放り込み、そのまま呑み込む。


 ほんのわずかだけどふわっと体が軽く、力が戻る感じがする。

 これで時間稼ぎくらいなら、なんとか。


 まずはおねーちゃんにお願いをしないと。

 巨大兎から距離を取らないと話もできない。


 前脚を振るときは隙が無く厳しい。

 何度か両前脚を振った後、後ろ脚をぐっと縮ませる動作。

 これは突っ込んでくる奴だ。

 まっすぐにしか行かないからチャンス。


 ウサギが飛び込むより早く、おねーちゃんの下へ飛んで行き……。

 おねーちゃんの体を横からお姫様抱っこの姿勢に抱いてかっさらう。



「おねーちゃん、ごめん! 気を引いててくれてありがと! もう一回ボクがおとりになるから、一発派手なのかましてくれる!?」

 ジーナ(おねーちゃん)を抱えて飛んだまま、早口で話す。



「アヤちゃん!? 飛べなくなったんじゃ……?」


丸薬タブレット飲んだから! 少しならいけるよ!」



 動きを読まれないよう上下左右に動いて攪乱しながら、少年のところへ降り立つ。



「わ! な、な、なんでここにくるんだよ!」


「キミにも作戦を伝えるから!」



 たじろぐ少年を一喝して我に帰し、話を手短に伝える。



「というわけだから、ちびっこは隠れてて!! 狙われたらアウトだよ!!」


「う……! わ、分かったよ! お姉ちゃん、気をつけてね。……アクマ! やられんじゃねーぞ!!」



 態度の差が酷すぎるけどそこはスルー。

 状況のまずさは理解しているようで、少年は素直に従い、おねーちゃんの後ろに向かって走っていく。

人外のアヤメが強キャラの予定だったのに、ジーナのほうが強くなってますね。


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