2日目 13 ジーナとアヤメ② 囚われの姫と騎士
戦闘シーンが描けず、外伝にうつつを抜かしていたら間が開いてしまいした。
お待たせしました!
このもやもやはなんだろう……。
おねぇちゃんが他の人と仲良くしているのを見ると、胸が苦しくなって落ち着かない。
居ても立ってもいられなくて、理由もなく力任せに触手を巨木に叩きつけ、折ってしまった。
派手な音を立てて木が倒れ、砂埃が舞う。
鳥が飛び去り、小動物が駆け出す。
その様子を立ち止まって横目で見ていると、視界の端でおねぇちゃんと少年が目を見開いているのがちらりと見えた。
なんでこんなことしたんだろ……。
自分でも何がしたいのか分からない。
ただ、気持ちが抑えられなくて。
唐突な行動で驚かせてしまったためにバツが悪い……。
「ごめん……。なんでもない」
後ろも見ずにそう言うので精いっぱいだった。
俯いたまま再び歩き出すと、さっき自分で立てた音と似た轟音が少し離れた所から響いてきた。
地面が僅かに揺れ、また多くの鳥が悲鳴を上げ羽ばたいてゆく。
え?
無意識に触手をふるってしまったのかと周囲を見渡すけれど、近くには何もない。
遠く森の方角に大きな影が見えた。
音の主はあれかな。
こちらに向かってみるみる近寄ってくる。かなり早い。
岩、いや山のような丸い本体に、細長いのが2本立っている。
「ねー、あれ何?」
思わずいつもの調子で尋ねた。しまったと思ったけど、もう遅い。
「巨大兎ですわ!! 一帯のウサギたちの主よ!! 恐らくウサギたちを掴んでいるアヤちゃんを狙っているのよ! 来るわ! 避けてっ!!」
おねーちゃんが珍しく必死に叫ぶ。
心配してもらえてちょっと嬉しいな……。
そういえばこの辺りに生息するウサギたちの中にひときわ大きな奴がいて、仲間を狩られまいと立ち向かってくるとか聞いたことがあったっけ……。
あいつがそうなのか。
避けてと言われたけど、迎撃してやろうと構える。
ところが近づくにつれ影はどんどん伸びていく。
目線がどんどん上がっていく。
細長い2本はぴんと立った耳だった。
「うっそ。大きい……」
たくましい後ろ脚で大地を蹴り突進してくるその速度は、目にしたことがある馬車や騎馬どころか、ボク自身の飛ぶ速さにも匹敵していそうだ。
なんて考えているうちに巨大な兎が目前に迫っており、太陽の光が遮られボクはすっかりそいつの陰に隠れてしまう。
間近に迫った巨大兎は大きく頭を上げ、頑強そうな顎に付いたこれまた巨大な前歯を思いっきり振り下ろしてきた。
動作が大ぶりなため大きく横に飛んで難なく避けられたが、兎の歯が地面にめり込むと衝撃波と共に地震のように大地が揺れた。
さっきまでいた場所が大きくくぼんでいる。
農地を耕す鍬の超強力版といったところで、割と固めの地面が深く削げている。
直撃受けたらひとたまりもないや……。
よくて胴体真っ二つ、下手すりゃ肉塊だよね。
冬眠前の巨大兎はただでさえ獰猛さが増しているだろうに、十匹もの仲間が捕らえられた上にこれ見よがしに触手に掴まれ宙にぶら下げられていたために、怒りに震え殺気立っている。
仲間の悲惨な姿を見せつけられて怒り狂わないほうがおかしいのかも。
単独行動の多い野生のウサギだけど、こいつは仲間意識が強いらしい。
今度は前脚で大きく薙ぎ払ってきた。
さっきボクが触手で木を倒したのと同じように、真横に振るう。
振りかぶる動作が大きいので予測しやすく、今度は上空に飛んで避けると、路傍の石が犠牲になってはじけ飛ぶ。
大型のため力が強く、でもってウサギなだけあり巨体の割に敏捷性も高い。
前歯ほどでないけど前脚も気を付けないとやられる。
幻術で多少強化できるとはいえ、ボクの能力は子供に毛が生えた程度。
肉弾戦、白兵戦はまるで向いていない。
十匹のウサギは今もボクの頭上に捕らえたままであり、常に挑発を続けていると言える。
まるで巨大兎は囚われのお姫様を救いにきた騎士だね。
そしてこちらにとっては非常に邪魔な人質……ウサギだから兎質?
こいつらもボクの周りに浮いているから、こっちにも当たらないように気を付けなくちゃいけないんだよね。
歩いているだけじゃ気付かなかったけど、捕らえているのにも意外と魔力を使っていたみたいで、触手を維持したままもう一つ召喚しようと思っても難しい。
せっかく捕らえたんだし、届ければ報酬が受け取れる。
ちいねーちゃんから預かってるんだから手放すわけにはいかないんだ……!
そのために、巨大兎をどう攻略するか。
おねーちゃんに手伝ってもらいたいところだけど、下手に注意が向こうに行くと生意気少年が狙われかねないからできれば自力で仕留めたい。
力あり、敏捷性もあり、手ごわいが元はウサギ、防御面はどうだろう。
捕まらないように右に左に上に下に飛び回り翻弄する。
巨大兎の視界から離れた隙に、手持無沙汰のままだった三本の太い触手をデカブツの背中と頭上に叩きつける。
触手たちは待ってましたと言わんばかりに、活き活きとしなり勢いよく兎に飛び込んでいく。
太すぎる鞭は激しい音を立てて命中した。
すばしっこい相手だから当てられなかったら作戦を考えなくてはいけないけど、当てられるなら戦いようがある。
……と手応えを感じたのも束の間。
巨大兎を見ると当たりはしたものの、よろける程度であまりダメージにはなっていないみたい。
うっそー。割と全力だったんだけどなぁ。
怒りに我を忘れた狂化状態だから痛覚麻痺してるのかも。
それで終わりかと言いたげにこちらを一瞥、少しかがんだかと思うと後ろ脚のバネで真上に跳躍。
小ウサギならかわいい一跳びだねとほんわかムードで過ごせるけど、今の相手はこちらの三倍はある巨体。
山が迫ってくるようなものだ。
攻撃の手ごたえが無かったことで動揺し、反撃に対する反応が一瞬遅れた。
「……っ!」
垂直に上昇する巨大兎に対し、水平に避けたが前脚のリーチまで避けきることが出来ず、その丸太のような脚がボクの小枝みたいなか細い脚を捉える。
かすっただけだったのにその質量の膨大さが故に体勢を崩されて地面に叩きつけられた。
「ぐっ! がはっ!!」
「アヤちゃん!!」
痛い、めちゃくちゃ痛い。
うえー、口の中切ったし擦り傷だらけだ。
お風呂入ったらしみるだろうな。
遠くからおねーちゃんの声が聞こえた。
その距離から少年くんを安全なところに避難させてくれてるんだろう。
「あー!! ウサギ!!」
そんな彼の声……は悲報だった。
地面に叩きつけられた衝撃で魔力が途切れて触手たちが送還されてしまい、十匹のウサギが解放され散り散りに繁みへ隠れてしまった。
「うそでしょ……」
せっかく守ってきたのにこうもあっさり逃げられてしまうなんて……。
このまま収穫ゼロでは帰れない。
依頼を受けたちいねーちゃんも、依頼をしてきた料理人のおねーさんも、どっちも悲しい顔するんだろうな。
それはダメだ……。
ヒリヒリする脚でよろけながら立ち上がる。
折れてなくてよかった。
口から垂れる血を手の甲で拭い、着地し四つ足の体制に戻った巨大兎に向き直る。
ボクが倒れている間に攻撃してこなかったのは、恐らくウサギたちが逃げるのを見守っていたからか。
小ウサギたちは解放されたけど、それだけで終わる気が無いみたい。
……こうなったら、お前を捕らえてお肉屋に引き渡してやる!!
兔質は無くしたけど触手を送還したことで魔力を存分に使えるからおあいこだ。
仕切り直し!
ようやく戦闘、いきなり苦戦。
何食べたらウサギがそんなに大きくなるんでしょうね。
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