2日目 11 触手とウサギ
2021.11.4
サブタイトルのナンバリング間違ってた……。
修正しました。
「へへー。いっちょ上がりってやつだねー」
十匹ほどのウサギを召喚した触手で縛り上げ、得意げにしているアヤメ。
草むらで見え隠れする大きさですばしっこいウサギは捕まえるのに骨が折れるはずが、あっという間に終わった。
発動した召喚は持続性があるらしく、アヤメが掲げていた両手を自由にしても頭上に浮かぶ魔法陣から触手が伸びている。
ウサギを捕まえている以外にもまだ何本か生えており、手持ち無沙汰なのか刺激したミミズのように蠢いている。
正直だいぶ気持ち悪い。
「なぁ……、生け捕りにできてるのはいいが、ウサギが粘液でべちゃべちゃだぞ……」
捕まえてもらっておいて何だが、使えないと却下されては元も子もない。
「んー。この触手の粘液、捕まえやすいように眠りと麻痺の経皮毒が付けてあるんだー。こいつが触れている間は身動き取れなくなるよー。すごいでしょー?長続きしないから解放して洗えばすぐ効果切れるから大丈夫ー」
たしかにウサギたちは毒が効いているのかぐったりしていて身動きしない。
経皮毒――肌から吸収されるから触れるだけで効くのは使い勝手が良いな。
「へー! すごい! 便利ねー! ……って、なるかー!! 誰が洗うのよっ!! あたしそんなべたべたしたの触りたくないわよ!!」
「あはー。怒られちったー」
ナイスツッコミだヒナ。
それに店頭に並ぶのがねちゃねちゃになったのだと思うと、食べる気失せるだろ……。
そしてお前のことだから、自分がなぜか触手に絡まれ粘液にまみれてあられもない姿になるとか、ろくなことにならないのが目に見えている。
ってか昨日も寒いって言ってたのに、なんでいつもと同じ短パンノースリーブ姿なんだよ。
防寒しろよ。
外套厚手にしたとか意味ないから。
「心配いりませんわ。浄化の法術で綺麗になりますもの」
「さっすがおねーちゃん!」
ジーナ助け船に喜ぶアヤメ。
お前捕まえるだけであとはノープランだったろ……。
そんなジーナはもう教会を離れたから修道服を着る必要はないと、濃紺の亀状襟で長丈のワンピースを着ている。
ぱっと見修道服に似ているのは、一応聖職者と名乗るからだそうだ。
あまり変な格好では悪目立ちして怪しまれるという。
違いといえば、被りものはなく髪を後ろでひとつに結わえているところか。
アヤメもやっぱり短い下穿きの格好《スタイル」だが、白黒横縞模様の膝上靴下を履いているため、足丸出しのヒナよりはまだマシそうで。
魔族なので人間と寒暖の感覚が違うというのはありそうだ。
俺を含めた男性陣のほうが厚着している感じがある。
アヤメは捕らえたウサギを自分の目の前に持ってきては、動かないのをいいことにツンツンしたり後ろ脚を開いては女の子かぁ、などど言っている。
なぜか詩人君も観察に加わってはへー、ほうほう、と興味深そうだ。
記憶がない分好奇心が旺盛なのか、結構後ろから覗いてることあるよな。
それはさておき。
これなら依頼は達成できる……か?
またガキが余計なことを言いふらそうとしなければいいがと思い、そういえばさっきから静かなので姿を探すと、真っ青な顔をしてジーナの陰に隠れスカートの裾をしっかり掴んでいた。
怖くないと強がっていたが、異形を目の当たりにしてちょっと震えている。
ここらの魔物よりおぞましいもんな。泣かないだけえらい。
それで、どうやってお肉屋さんに届けますか?
触手から解放したらすぐ逃げられてしまいませんか?
と、詩人君が疑問を口にする。
いかにも、触手で縛ったまま持ち込んでは大騒ぎだ。
「ん-。十匹だから、一人二匹づつ持つとか?」
「全員でぞろぞろと連れ立っては仰々しいですわね。できればあまり目立たないほうがいいですわ」
「じゃあ、そのまま持って行ってローシェンさんに相談しようよ。一回宿に戻ろう。コイズも日が暮れないうちに帰したほうがいいよね」
「お、おいら、夜だって怖くないやい! バカにするな!!」
「ふーん。怖くないんだ? これでもー?」
「ご、ごめんなさい! うそです! 近づけないでー!!」
アヤメが空いている触手を一本、ガキのへ近づけると、悲鳴を上げジーナの足に抱きつく。
怯える少年の頭をよしよしと撫でるジーナ。
目立つ心配するのは自身への追手のことだろう。
持ち込むのはヒナの提案通り、価格交渉もできるローシェンさんに頼んだほうが安心だ。
それなら、と俺も一つ提案する。
「戻るのは全員じゃなくてもいいか? 薬の調合の練習のために残って野草の採集をしていきたい。もうすぐ採りに来れなくなるからな」
「あたしが依頼を受けたから、ローシェンさんのところへ行くわ」
「あら。アヤちゃんが捕まえていて私が清浄の法術で綺麗にしますから人手は足りますわ~。ついでにこーくんも送り届けてきますから、ヒナさんはアサギさんの護衛でついていてくださいな。詩人さんもアサギさんの採集を手伝っていただけますか~?」
ジーナがてきぱきと役割分担する。確かにそれがよさそうだ。
採集中は無防備になるしな。
ヒナが何か言いたげだったが言葉に出さず、少し間をおいて分かったと小さく呟いた。
どうも焦りというかイラつきのようなものを感じる。
今日は口数も少ないし、別れてから少し話してみるか。
ガキがまた強がるが、ジーナが帰りましょう? というと顔を赤くして頷く。
ウサギを捕まえたまま、二人で子供を守りながらでは危なくないかと心配する詩人。
「うふふ、お気遣いありがとうございます。短い距離ですので平気ですわ。こう見えて私も結構強いのですよ?」
自信ありげな口調でにこやかに答えるジーナ。
「じゃ、そういうことで。念のためにこれを渡しとくよ」
俺が取り出したのはつま先ほどの黒く丸い玉。
「ほぇ? これなーに?」
「魔力補給の丸薬だ。効果は気休め程度だが、もしもの時に役立つだろ。まぁ出番さそうだけどな」
「まぁ。ありがとうございます。アヤちゃん持っててくれる?」
「はーい」
こうして俺とヒナ、詩人の彼の三人は森のほうへ、ジーナとアヤメ、そしてコイズは宿へと二手に分かれた。
野外にでましたが、喋ってばかりの人たちです。動き少な!
戦闘描写するのに6人いては持て余すのでパーティー分割です。