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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
1日目 ~店主と詩人と四人の冒険者~
23/158

1日目 21.5 運命っていうのを、ちょっと信じてもいいのかな。

 それは緋色髪の舞剣士ソードダンサーヒナと浅葱あさぎ色髪の盗賊シーフアサギが出会い、月の無い真っ暗闇の夜更けに王都を抜け出て旅立ったときのこと。


 二人を見送るのは明るい青紫(ウィスタリア)色のゆるふわに波打った長髪をした小柄な少女フジムラ・サキ・ウィスタリアと黄みのうすい灰(アイボリー)色の短髪で大柄な少年アイボリー・ゾーゲ。



「……行っちゃったねー!」


「ああ……。サキ、本当に良かったのか?」


「ん? なにが?」



 私は首をかしげる。

 アイボリー君は少し言い淀む。



「あーっと……ヒナ達と一緒に行かなくてよかったのかって」


「うーん……、そうだね。一緒に行きたかった、かな。でもアイボリー君を一人で置いていけないし、師匠のアカネさんとの約束もあるし、修行も途中だし……。寂しいけど、今の自分じゃすごく中途半端だから、お預けかな。ははは」



 ちょっと無理して笑う。

 笑いたくなかったけど、しんみりするのはもっと嫌だった。



「そうか……」


「ヒナちゃんが帰ってくる場所をちゃんと守らなくっちゃ! なんてったって私たちはヒナちゃん親衛隊のNo.1とNo.2なんだから、ね」


「それもそうだな……」


「それに、相手はあのアサギ君なんだもの……。ちょっと妬けちゃうな。付いて行ったところでお邪魔虫、割って入ったりできないし、ね」



 ぺろり、と舌を出しておどける。

 気休めの誤魔化し。

 でもまっすぐな彼は簡単に誤魔化されてくれる。


 ……ごめんね。



「あの男と知り合いだったんだな」


「うん。ちょっと変わってたけど、根の優しさは同じだったよ」



 ヒナちゃんを助けに来たら、一緒に居合わせたのが前にいた世界で通っていた学校の級友(クラスメイト)だったの。


 とっても、とっても大事なおともだち……。

 こんな偶然ってあるんだね。

 運命っていうのを、ちょっと信じてもいいのかな。


 彼は、私と交わした約束を守ってくれていた。

 彼は、逃げて死を選んだのではなかった。

 彼は、こっちの世界に迷い込んでしまっただけだったのだ。

 弱虫なんかじゃ、なかった。


 彼ならきっと、私の大好きなヒナちゃんを守ってくれるはず。

 彼は、約束を守るひとだから――。


 首に巻いた黒い首輪(チョーカー)を指でなぞり、胸元にその手を下ろしてきゅっと握る。


 でも――

 私は――


 私は、彼を信じ切ることが出来なかった。

 彼には約束を迫っておきながら、自分が約束を守れなかった。




 そんな私には、彼と一緒にいる資格なんてない。



 アサギ君、ヒナちゃんのこと、お願いね……。



「ねえ、アイボリー君」


「なんだ?」


「ちょっとだけ、私のお話聞いてくれるかな……?」


「話?」


「私と……彼、アサギ君との話」


「そうだな。顛末を報告に行くにも、陽が昇るまで時間があるしな」


「うんっ」



 少し声を弾ませて頷く。


 ――そう、あれはまだ、この世界に来る前の話――。



サキがアイボリーに語った話は、またいずれ、どこかの機会でお伝え出来たらと思います。

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