1日目 21.5 運命っていうのを、ちょっと信じてもいいのかな。
それは緋色髪の舞剣士ヒナと浅葱色髪の盗賊アサギが出会い、月の無い真っ暗闇の夜更けに王都を抜け出て旅立ったときのこと。
二人を見送るのは明るい青紫色のゆるふわに波打った長髪をした小柄な少女フジムラ・サキ・ウィスタリアと黄みのうすい灰色の短髪で大柄な少年アイボリー・ゾーゲ。
「……行っちゃったねー!」
「ああ……。サキ、本当に良かったのか?」
「ん? なにが?」
私は首をかしげる。
アイボリー君は少し言い淀む。
「あーっと……ヒナ達と一緒に行かなくてよかったのかって」
「うーん……、そうだね。一緒に行きたかった、かな。でもアイボリー君を一人で置いていけないし、師匠のアカネさんとの約束もあるし、修行も途中だし……。寂しいけど、今の自分じゃすごく中途半端だから、お預けかな。ははは」
ちょっと無理して笑う。
笑いたくなかったけど、しんみりするのはもっと嫌だった。
「そうか……」
「ヒナちゃんが帰ってくる場所をちゃんと守らなくっちゃ! なんてったって私たちはヒナちゃん親衛隊のNo.1とNo.2なんだから、ね」
「それもそうだな……」
「それに、相手はあのアサギ君なんだもの……。ちょっと妬けちゃうな。付いて行ったところでお邪魔虫、割って入ったりできないし、ね」
ぺろり、と舌を出しておどける。
気休めの誤魔化し。
でもまっすぐな彼は簡単に誤魔化されてくれる。
……ごめんね。
「あの男と知り合いだったんだな」
「うん。ちょっと変わってたけど、根の優しさは同じだったよ」
ヒナちゃんを助けに来たら、一緒に居合わせたのが前にいた世界で通っていた学校の級友だったの。
とっても、とっても大事なおともだち……。
こんな偶然ってあるんだね。
運命っていうのを、ちょっと信じてもいいのかな。
彼は、私と交わした約束を守ってくれていた。
彼は、逃げて死を選んだのではなかった。
彼は、こっちの世界に迷い込んでしまっただけだったのだ。
弱虫なんかじゃ、なかった。
彼ならきっと、私の大好きなヒナちゃんを守ってくれるはず。
彼は、約束を守るひとだから――。
首に巻いた黒い首輪を指でなぞり、胸元にその手を下ろしてきゅっと握る。
でも――
私は――
私は、彼を信じ切ることが出来なかった。
彼には約束を迫っておきながら、自分が約束を守れなかった。
そんな私には、彼と一緒にいる資格なんてない。
アサギ君、ヒナちゃんのこと、お願いね……。
「ねえ、アイボリー君」
「なんだ?」
「ちょっとだけ、私のお話聞いてくれるかな……?」
「話?」
「私と……彼、アサギ君との話」
「そうだな。顛末を報告に行くにも、陽が昇るまで時間があるしな」
「うんっ」
少し声を弾ませて頷く。
――そう、あれはまだ、この世界に来る前の話――。
サキがアイボリーに語った話は、またいずれ、どこかの機会でお伝え出来たらと思います。




