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野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび【電子書籍化作業中】  作者: 霜月サジ太
1日目 ~店主と詩人と四人の冒険者~
18/157

1日目 17 ヒナとアサギ⑤ 無計画と天の助け《前》

なんだか更新したくて勢いで書いてしまいました。

荒削りです。


サブタイトル変更、一部加筆修正しました。

長い濃い色の髪→長い髪

間違って加えていました。濃くなかったです。

 湿気で滑りやすくなった階段を駆け上がると、屋敷の納屋に出たわ。

 どうにか外に出なくちゃいけないのだけど、敷地を囲う塀はあたしの身長の倍あるから、簡単には登れない。


 納屋の戸をそっと開けて外を見ると、門には門番が二人いたわ。

 けど、さっき地下牢で倒したのと同じ革製の兜と胸当て肘膝当てくらいの軽装鎧しかつけていないし、技量も大したことが無いから余裕。


 若作りオバサン――バイオレット・ユカリっていう名前なんだけど、あの人だけが唯一脅威だわ。

 バイオレットに気付かれないうちに脱出しなくちゃいけない。

 

そういえば侵入者がどーのこーのってなってたけどアンタじゃないのか? って言われたけど、あたしはここに雇われてたから違うわ。


 あたしがどうやって行こうか考えていると、アサギ――まだ自己紹介してないからこのときはコソ泥君だったわ――が話しかけてきたわ。



「なぁ、ここからどうやってでるんだ? やぱり逃げるからには秘密の地下道とか「無いわ」」


「じゃあ手伝ってくれる仲間とか「いないわ」」



 そんな下らないことであたしの思考を中断させないでほしいわ。

 あたし話しかけられると、考えてた事が飛んじゃうの。



「おい……。じゃあどんな作戦なんだ?」


「決まってるじゃない。……正面突破よ。堂々と門からでてやるわ」


 コソ泥君が頭を抱えてる。

 あたしなんか変なこと言った??



「番兵は簡単に倒せるわ。さっきあなたの縄を切ったみたいに離れてやればいいの。見つからないよう奇襲かければ一発よ。余裕余裕。オバサンは屋敷の中だからすぐはやってこないはず。コソ泥君、足は早いでしょ?」


「まぁ足は自信がある。戦力として考えられていたならこの作戦に猛反対だが、そうでないならいい。あんたはここで働いていた。ならその情報を信じるしか今はない」



 汗かきながら言ってるけど、大丈夫かなコソ泥君。

 まぁ迷ってる暇はないわ。急がなくちゃ。


 信じるって言ってもらえたことに嬉しく感じ、にやりとあたしは笑う。



「走り抜けざまにぶっ倒して、そのまま門を抜けるわ。今の時間ならまだ門は開けてるはずよ」



 コソ泥君は頷く。


 言いながらあたしも緊張してきた。暑くもないのに、じわりと汗が出てくる。

 腋をツーっと一筋、汗が流れる。やだ、汗臭くないかな? 臭い嗅がれてたら恥ずかしい……。


 なんて余計なことがよぎっちゃうのはあたしの癖。


 いけない、集中しなくちゃ。



「行くわよ」


「あぁ」



 返事を後ろから聞いて、勢いよく納屋の木戸を開け飛び出す。



「どけぇぇぇ!!」


「な、何だぁっ!?」



 あたしの自慢の大声で番兵が驚く。

 あは、びびってるじゃない♪


 後ろからバカ! って声が聞こえた気がしたけどなんだろ?

 気にするのをやめ、走りながら唱える。



 【燃え盛る 炎となりて 舞い踊る 神の宴に この身を捧ぐ】

エン

エン



 両腰に下げている短剣を抜くと、刃が炎を纏う(まとう)

 立ち止まって集中できるときは詠唱無しの一声で行けるけど、他のこと考えちゃうときはきちんと唱えないと発動できないあたしの術。


 あたしの舞に合わせて短剣に絡んだ炎が宴のように吹き荒れる。

 直接触れるだけじゃなく、その熱風だけでも結構なダメージになるの。


 地面を蹴って番兵に突っ込む形で低く飛び、体をひねって刃を躍らせる。

 体の回転させた勢いで2つの刃で一閃。

 2本だから二閃? 

 当たった感触はない。けど纏った炎が触れた箇所から燃え移り、番兵に襲いかかる。



「ぎゃぁっ!?」


「あちぃーーっ!?」



 言葉通り火が付いた兵士は地面に転げまわる。

 悲鳴を聞き顔を覗かせる者たちも慌てふためくばかりで、助けることができない。


 警備の練度は低いのよね。

 どうせ火傷を負わせるくらいしかできない勢いの火だもの、混乱し逃げ惑ってくれるだけでいいわ。


 与えた手ごたえに満足なあたしは着地し――足で地面を踏みしめた瞬間に、触れた面の違和感を覚える。


 え、うそ。着地に失敗? 

 足首に痛み。


 反対の足だけでは勢いを消すに至らず、踏ん張りきれない、倒れる――!!


 ゆっくり地面が迫ってくる。

 剣を手放すわけにいかないから両手に持ったまま、肘か肩か背中で受け身を取るか。


 ああもうかっこ悪い。どうしてこう肝心なときにドジ踏んじゃうんだろ。

 あたしほんと恥ずかしいや。捕まっちゃうのかな……どんどん近づく大地に身を任せて痛みに耐える覚悟なんて考えていたら、体がふわりと浮く。



「ばかやろう! 無茶苦茶だろ!!」


 コソ泥君が後ろから追いつき、あたしの腰に手を回して支えてくれていた。

 意外な力で地面との衝突は避けられ立ち直る。


 立ち止まり両足をつくと、ひねった右足がズキンと痛む。

 やば。結構痛いわ、これ。



「走れ……ないよな」



 コソ泥君が心配そうな声で確認してくる。

 はい、そうです。



「ごめ……、くじいた……みたい」



 こんなときに失敗だなんて。

 強気な気持ちはすっかり萎えて泣きそう。



「何事だ!?」



 屋敷の中から、兵やら従者やらがわらわら出てきたみたい。

 あたしの視界はもう滲んじゃってまともに見れない。


 気付かれちゃったの……?



「あんな大声だしゃ気付かれるよな。怯ませるのにはよくても、それ以外には親切なお知らせでしかなかったわけだ」



 冷静に言ってくれちゃって。だからバカって言ったのね。



「とんでもないバカだね、あたし……」


「ほんとだ。この状況で落ち込んでるんじゃねぇ大馬鹿野郎。どうにかしなきゃだめだ……、とりあえず乗れ!」



 コソ泥君が屈み、あたしは短剣をしまい背中におぶさる。

 押し付けられる胸が無いのが悔しい。

 あったら赤面させて嫌でもこの美少女様を意識させてあげられるのに!



「助けてもらった恩返しをもうすることになるとはな! いくぜ!」



 あたしを背負って走り出す。

 おんぶだから当然なんだけどお尻に手が当たってる。やだ、ちょっと恥ずかしい。

 あたしのほうが顔赤くなってるじゃないの。


 広い背中、ではない。

 同年代の平均より少し細いんじゃないかと思えるコソ泥君の体格。

 足は速くても筋力はなさそうだからきっと思うようには走れない。


 でも、守ってくれようとするのが嬉しい。

 もう少しで門なんだけど――。


 非情にも希望を塞ぐように、地鳴りのような音を立てて門が閉まる。


 うっそ……。なにこれ。

 なんで閉まるのよ。

 突き付けられた絶望に、視界が滲んでくる。


 コソ泥君はあたしをおぶったまま、門の前で立ち止まる。

 振り返り分断された外の世界に背を向ける。


 そこには少し焦げた番兵を含め約十人。囲まれたわ。

 コソ泥君は荒い息遣い。服ごしに背中にじっとり汗をかいているのがわかる。

 あたしの重さのせいだけじゃないと信じたい。


 無理させてるなぁ。

 あたし足手まとい……。



「ご、ごめ……っ!あ、あたし……っ」



 いたたまれなくなって泣けてきて、何か言おうとしても自分のダメさばかり感じられ、感情があふれて言葉にならない。

 無理くり絞り出した詫びの言葉も途切れがちだ。


 なにしてんだろ、あたし……。



「うるせぇ、今泣くな。どうするか何かできる方法考えろ」



 厳しい言葉が返ってくるけど怒鳴らなれないだけマシ。

 そうよね、その通り。

 それくらいじゃなきゃ外で生きていけないか……。



「う、うん……」



 癪りながら、返事が精いっぱい。どうしよう、何ができる?


 足が使えなくちゃ戦えない。

 簡単な術を飛ばすくらいならできるけど、基本的に体の動きに合わせて使うものだから動けなくちゃ役に立たない。


 兵たちがにじり寄ってくる。

 一気に来ないのはこちらを警戒してのことだろうけど。



「おやおや、もう鬼ごっこは終わりなの?☆」



 耳障りな作った高い声。

 屋敷の入り口からバイオレット・ユカリ登場。


 その声でコソ泥君の体がこわばるのが伝わってくる。



「ば……ばばぁっ!?」



 トラウマだって言ってた通り、あからさまに体が反応してる。

 無理よこれ……。




泣き虫というか情緒不安定気味のヒナちゃんです。

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