7日目 7 庭~捗らない剣術指南~
「な、なぁ! 一人で歩けるからさぁ! 放してよーっ!」
野ウサギと木漏れ日亭の正面の庭から、東側にある納屋のほうへ。
宿の主ラストおじさまに剣術指南を受けに来た建具屋さんの息子コイズくんを、私と夢魔アヤちゃんで両脇抱えて運搬します。
ふふ。
軽くて細くて可愛らしい少年が慌てふためいているのを力づくで運ぶのは背徳的ですわ~。
風の冷たい曇空ですし、くっついて暖をとるのもいいですわね~。
なんとか逃れようと身をよじるものですから腕がいろんなところに当たっているのですけれど、気付くにはまだ早い年頃でしょうか~。
「さぁ、この辺りにしましょうか~」
嵐が吹けば崩れてしまいそうな納屋のそばで少年を解放します。
急に手を離されよろける少年コイズくん。
しぐさの一つ一つがかわいいですわ~。
「ではコイズくん~。手始めに私相手に打ち込んでみましょうか~」
私は納屋の外に立てかけてあった手ごろな長さの握りやすい木材を手に取ります。
「え? 剣の稽古って素振りとかじゃないのか?」
戸惑いつつも背負っていた木剣の紐をほどく少年コイズくん。
「アヤちゃんの前でかっこいいところ見せたいでしょう~?」
「な⁉ そ、そんなんじゃ!」
「へー、かっこいいとこ見せてくれないんだー?」
「ち、ち、ち、ちがーう!」
すぐに顔を赤らめて純情ですわね~。
もっとも、かっこいいところを見せられるかはわかりませんけれども。
「何をやっているのだ、まったく」
「ウィー、来たんだ」
少し下がったところでしゃがみ、両手で頬杖ついている夢魔アヤちゃん。
その隣に腕組みして立つのはアヤちゃんと同じ顔の暴魔ウィスタリアさん。
「えっ⁉ ええええええ⁉⁉ アヤメさんが二人っ⁉」
「えへー。幻術で分裂したんだー」
「キサマと同体なぞ寒気しかせぬわ」
「あはー。つれないねー。コイズ、こっちはウィーってゆーんだ。あっちはコイズだよー、ウィー仲良くしてあげてねー」
「フン、一発躾けてやればいいのか?」
拳を握り構える暴魔ウィスタリアさん。
「わわわわわわ」
素手に対して木刀と圧倒的有利なのに後ずさるコイズくんに対し、指の関節を鳴らしながらにじり寄る暴魔ウィスタリアさん。
ニヤリと笑みを浮かべて意外とお茶目なところがあるのですね~。
……本気ではないと思いますけれど…………。
怯え切った少年には憎まれ口を叩くやんちゃ坊主の姿は見る影もありませんわね。
「おりょ?」
「どうしました、アヤちゃん?」
暴魔さんとコイズくんのやりとりをニコニコと眺めていたアヤちゃんが何かを見つけたのか指さしています。
「あそこ走ってるの、ちいねーちゃん⁇」
「え? どれだ?」
アヤちゃんが指さす方向、街へと続く通りを駆けていく人影がありました。
「あの赤い頭に寒そうな格好……間違いありませんわ~」
「おーい! ちいねーちゃーん!!」
「気付きませんわね~」
「どこ行くんだろ? アサギにーちゃんは一緒じゃないのか?」
「そのようですわね~」
舞剣士ヒナさんは女の子になってしまった盗賊アサギさんの勇者さまとの修行に付き添っていたはずですのに。
「追いかけてみよーよ」
「どうもおかしいですわね~……私は一度野ウサギと木漏れ日亭へ戻りますわ」
「わかった! ほい、じゃコイズおいでー」
「わわっ」
軽々とコイズくんをお姫様抱っこにするアヤちゃん。
「あらあら。夕ご飯までには戻るんですよ~」
「はーい」
「こらレグ! 勝手にうろつくでない! 聖女も止めろ! こいつは狙われておるかもしれんと言ったばかりであろう!」
「うるさいなぁウィーったら……っと」
頭の上に小動物が乗る。
暴魔ウィーが好んで擬態する紫色の小ウサギだ。
「もういい我も行く! 放っておけんわ!」
起こったと思えば世話を焼こうとするし、よくわかんないやつだウィーは。
なんでもいーや、ちいねーちゃん見失わないようにしないとねっ!




