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7日目 5 庭にて~勇者さまの修行~

 

 ◇


 聖職者ジーナと夢魔アヤメに両脇を抱えられ、まるで拉致されるかのような格好で連れていかれた建具屋の息子コイズが若干の心配があったが、一応真面目に聖職者ジーナに剣の稽古をつけてもらえるようだ。

 ジーナのやつ、あんなにおっとりしていて、その実、聖都屈指の剣の名家の出なんだもんな。

 人は見かけによらないというか……。


 おっと、ぼんやりしている場合じゃない、こちらも勇者さま直々の指南が始まるようだ。

 庭にある適当な大きさの石に盗賊アサギと舞剣士ヒナを座らせ、二つ尾結び(ツインテール)シャルは二、三歩分離れたくらいに向き合って立つ。

 いきなり実践と言うわけではなさそうだ。


 あいつ意外と理屈立てて考えたりするんだよなぁ。

 さて、突っ立ってるのも癪だし、腰を下ろせそうな木箱でも納屋から探してくるかな。


 ん?

 盗賊アサギの服がやけにダボついているが……。



「おい、アサギ。なんでそんな大きさの合ってない服を着てんだ?」


「これしか持ち合わせてないんすよ。女になったら体がどうも縮んだみたいで。参っちゃいま……へ……へ……へっくしっ」


「きゃっ! きったな~っ!」



 盛大なくしゃみをかまし、よりによって隣に座る舞剣士ヒナに飛沫を浴びせたためにひんしゅくを買っている。



「るせ。寒いんだよ……。お前は防寒できる外套マントがあるからいいよな」


「か、貸さないわよ! 外すと寒いんだから!」


「そりゃそうだ。腕も脚も丸出しなんだから」



 まったくだ。

 なんならヘソまで出している。


 盗賊アサギは言葉にこそしないもののよほど寒いのか両手で腕をさすっている。

 弱っている状況で寒空の下に座らされているのも災難だが、こちらとしても風邪を引いて更に寝込まれても働き手が減るから困るんだな。



「まぁ待ってろ、納屋から探してきてやる」


「すんません……」



 俺は三人に背を向け歩きながら、手を上げて盗賊アサギの言葉に答える。

 二つ尾結びシャルが何も言わないところを見ると、オレの出番はまだなんだろう。

 ただ立ってるだけじゃ何のために食堂から追い出されたのか……。


 多少年季が入ってるかもしれんが、外套マントの一つや二つあるだろう。



 ◇



「じゃあ、まずは……アサギとか言ったっけ? キミ」


「ああ、アサギ=セイジだ」



 寒々しい冬の曇り空の下、冷たい石に座らされた俺は、風の勇者さまだというモエギ=シャルトリューズの問いかけに答える。

 教鞭を執る教師みたいな振る舞いをしているが、何処をどう見ても年下のお子様にしか見えなくまるで似合わない。

 詩人が歌にしていた風の勇者本人だなんてまだ全然信じらんねぇが、宿のオヤジさんたちが否定しないってことはホントなんだろうな。



「わかった、アサギ=セイジ。君は魔法……広い意味での魔力を使った術的なものを何か使えたりするかい? 魔法でも、精霊の使役でも、神の法力でも、ヒナ=シャルラハラートが使うような術でも」


「いいや、全く」


「そうか……」



 真っすぐこっちを見ていた勇者さまは顎に拳を当てて考え込むように目線を斜め下にやる。

 なんだよ、何かへんなこと言ったか……?



「何かあるのか?」


「さっき触れて分かったんだが。キミの中に眠る魔力量……魔力とはここでは便宜的に言っているわけで魔素とでも元素とでも魔力素とでも好きに言ったらいいと思うんだけれど……、その量が一般に比べてはるかに多いんだ。伊達に夢魔に魔力を与えて尚生きていられただけはあるわけだね」


「そうなのか?」


「夢魔に魔力を吸われればそのまま魔力が枯渇して干からびて死んでしまうよ」



 そういえば一度死んだとかいう話だったな、騎士隊の副隊長さんは。

 俺の場合はアヤメが加減してくれただけじゃないのか?

 などという疑問もあるがとりあえず話を聞くだけ聞いてみよう。



「つーか、魔法ってそんなに種類あんのか?」


「分類は人類が自分たちが理解しやすいように決めているだけで、現象で分けたり何を媒介とするかで見るとあまり変わらなかったりする。魔術、魔法、妖術、幻術……これらは自然界に含まれる力を自分の魔力を媒介して発現させてるんだ」


「お、おう……」



 なんか本当に授業っぽくなってきやがった。

 勇者さまは適当に拾った腕の長さほどの細い枝で地面に図を書き始めた。

 腰の長さまである黄緑色の二つ尾結び(ツインテール)が、体を屈めることで地面スレスレの位置で揺れている。



「チトセなんかが使う精霊使役は精霊自体の魔力を使っているから術者負担は少なく永久に使えると言っても過言じゃない。一方、その弟子のドルイドお嬢ちゃんは精霊の力を自分の魔力を媒介にして発現させているから似ているようでいて使用量に限りがあるかな」



 耳長のチトセさんとドルイド僧オーツーが使う魔法にそんな差があるだなんて不思議だな。



「聖都で盛んな法力というのは神の奇跡だなんて持て囃しているけれど、ある種の魔法を勝手に分類し独占してるだけで、おいらに言わせてみればただの魔法なんだよね」


「だからジーナは修道女シスターを辞めても法力が使えるわけか……。神の奇跡だなんて有難そうに言っていた教会って詐欺じゃねーか。なぁヒナ……って、おぉい!」



 やけに静かにしていると思えば、隣に座る舞剣士ヒナは足を組んで座った姿勢そのままで器用に眠っていた。



「ん……むにゃ……。えっとー、あれぇ~? は、ははは……」


「ヒナ=シャルラハラート……。寝ていたのか?」


「あ、あは、あははははは……」



 笑って誤魔化したいようだが誤魔化せていない。

 何が世話焼き係だ、ったくよ。

 勇者さまも呆れてジト目で見ている。



「罰として宿の周り一周走ってくるんだ」


「えぇっ!?」


「当然であろう。走って眠気を覚ましてこい」


「ひぃぃぃ~」


 いつも何かと言い訳をする舞剣士ヒナが珍しく反論をしない。

 そのまま勇者さまの追い立てられるように舞剣士ヒナは走り出した。


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