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7日目 3 屋根上~もう一人の魔族~

 ◇


「ウィー!」



【野ウサギと木漏れ日亭】の食堂にて、あるじのおじさんたちから嫌疑をかけられ席を立った魔族(ボクと同類)であるウィーことアイリス=ウィスタリア。

 こいつを追いかけてボクもまた食堂を出た。

 ウィーのやつ何処へ行くのかと思えば、二階への階段上がっていた。



「ウィーってば!」



 声をかけながらボクも駆け足で上がっていく。

 暴魔ウィーは階段を上り切るとチラリと階下のボクを一瞥いちべつだけして、正面の窓枠に足をかけ、軽く跳躍して姿が見えなくなった。

 ボクは窓から身を乗り出し、屋根の上にいる暴魔ウィーの姿を確認した。



「なんだレグ、来たのか」


「ほっとけないよ」


「随分と他者を気に掛けるようになったものだな」



 拒まれる様子が無いのでボクは魔力で飛んで屋根へと上がる。

 薄い灰色の雲が広がった空だ。



「そう? おねーちゃんの影響かなー?」


「例の修道女シスターか……」


「なんで修道女だって知ってるの?」


「さぁな」



 害意は無いと思いたい。

 暴魔ウィーは目を合わさず街並みを眺めている。

 ほとんどが瓜二つなボクよりやや長く、伸びっぱなしの紫髪が風でなびく。

 うぅ、外套コート着て来ればよかった……とボクは身震いする。

 屋内は暖炉で温まっているから油断してた。

 雲の切れ目から薄日が差しているけど全く物足りない。

 短い下穿き(ホットパンツ)袖無しの上着(ノースリーブ)と腕も脚も丸出しなんだから。



「ウィーは暴れなくなったねー」


「サキが怒るならな……」


「へぇ~?」



 サキ、と暴魔ウィーが親しげに呼ぶ宿主。

 ほとんど関ったことは無いけれど、おねーちゃんに負けず劣らず清楚系みたいなんだ。



「峠で貴様らを助けたのはサキの善意だ。我も僧兵モンクの男も気が進まなかった。宿主の純粋さを疑われては仕えるものとして腹が立つ」



 かつて暴魔と呼ばれるほど喧嘩早くて手の付けられなかったウィー。

 好んで着る服は返り血の汚れが目立たないようにとの理由だけで赤と黒。

 そんな彼女が主に仕えるようになって丸くなったなぁ。



「なんじゃ、ニヤニヤと気色悪い」



 ボクがウィーの変化を喜んでいるのに、自分では気づいてないのかなー。



「アヤちゃん~?」



 そんなやりとりをしていると、大好きな声が足元から聞こえた。



「おねーちゃん!」


わたくしもそちらへお邪魔していいかしら~?」



 さっきボクがしたのと同じように身を乗り出し上を見る聖職者のおねーちゃん。



「わわ、ちょっと待って! 危ないよ!」


「ふふふ、こう見えても身軽なんですよ~。よっ……こいっしょ……っ」



 ロングスカートをものともせず、窓枠に足をかけて体を持ち上げる。

 落ちたら大変!

 窓枠に立ち上がろうとするおねーちゃんをボクは慌てて浮遊の幻術を使って迎えに行く。



「よっこいしょ……?」


「あらウィスタリアさん。何か聞こえました~?」


「い、いや何も……」



 定番になったお姫様抱っこの体勢で屋根上におねーちゃんを運ぶ。

 聞こえてはいけないものを聞いてしまった暴魔ウィーに笑顔を保ったまま眼光だけで睨みを利かせるなんて、さすがおねーちゃん。

 そうだよウィー、そこは触れちゃいけないよー。



「まぁ。曇っていても悪くない眺めですわね~。行き交う人々があんなにたくさん……」


「おねーちゃん、どうしたのー?」


「あら、そうでしたわ。ウィスタリアさんにお礼を申せておりませんでしたので……。峠ではアヤちゃん共々大変お世話になりましたわ。どうもありがとうございます」


「れ、例には及ばぬ。サキの願いのままに動いたまでだ」



 深々と頭を下げる聖職者おねーちゃんを一瞥いちべつし、暴魔ウィーは腕組みしまた視線を街並みへとやる。



「ウィスタリアさん……素っ気なさも可愛らしいですわね……。うふふ……。あの時の……颯爽と一糸纏わぬ姿で私たちの前に割って入ってくださって……綺麗なお尻とスベスベのお肌、控えめな膨らみ……しっかりと目に焼き付けさせていただきましたわ~。ふふふ……」



 聖職者のおねーちゃんは頬に手を当てひどく湿度の高い眼差しで暴魔ウィーを見つめてる。

 ぶー。

 その表情を他人に向けられるのはいい気分じゃないなぁ。



「ひっ。お、おいレグ……」


「どうしたの? ウィー?」



 羨ましい体験をしているというのに、暴魔ウィーのやつ顔色が悪い。



「背筋にものすごく寒気がする……」


「まぁ大変。ヒトハダで温めて差し上げましょうか~?」


「え、遠慮する……」


「おねーちゃん、手つきがやらしい……ボクだって寒いんだよ!」


「まぁ。それなら三人で抱き着きあっこしましょうか~」


「そういうことではないっ!」



 あはー、暴魔ウィーも美少女をあるじにしてるのに、こういう免疫が無いんだなー。

 おねーちゃん、緩み切った顔面のままじゃ下心丸見えだよー。

 涎も少し垂れてるし、心配の説得力がないってばー。



「冗談はこのくらいにしまして。わたくしとしてもウィスタリアさんを疑うには材料が足らないように思えまして」



 筋肉を引き締め、ハンカチを取り出して涎を拭う。

 頬は赤いままだぞー。

 寒いからってことにしておくけど……。



「当然だ」


「でしたら、一体どなたが……?」


「やりそうなヤツが一人おる」


「ウィー、やっぱりそう思う?」



 暴魔ウィーの口ぶりは予想というより確信めいていた。

 やっとボクたちのほうに向き直る。



「他に思い当たるものが無い」


「どういうことですの? アヤちゃん?」


「ボクらには、同じ顔を持つヤツがもう一体いるんだ。それぞれに属性を持っててねー。ボクは愛欲。ウィーは暴力。もう一体……イリス=スーノは……はかりごと


「謀……。だとしますと、見当は付きますの~? 狙いそうなものとか……」


「え……? そ、そだねー、なんだろねー?」


「隠し事は無しですよ? アヤちゃん?」



 笑みは絶やさず眼光だけ鋭い。



「う……」


「スーノの狙いはレグ自身だ」


「ちょ、ウィー……」



 戸惑う。

 考えないようにしていたことだった。

 聖職者おねーちゃんの頭に疑問符がたくさん浮かんでると思う。



「どういうことですの?」


「昔と変わったからな、レグ(こいつ)は。スーノはレグに以前の姿を取り戻してほしいと執着しておる」


「以前の姿……」


「ねぇ、おねーちゃんを巻き込むのはやめようよ……」



 腕組みしている暴魔ウィーの裾をボクは弱弱しく引く。



あるじの腕は立つのであろう? 峠での戦いを見て把握しておる。警戒するに越したことは無い」


「そうですわ~。おねーちゃんにどーんと任せなさい。アヤちゃんに指一本触れさせませんわ」


「おねーちゃん……」



 暴魔ウィーの不遜な態度と聖職者おねーちゃんの笑顔が並ぶ。

 うぅ、こんなに心強いことなんて無いのに、それでも不安が拭えない。

 おねーちゃんが、みんなが、傷つくことになんかしたくない……。



「ふふ、私はアヤちゃんのおねーちゃんなのですから……。あら……?」


「どうしたの?」


「あそこに見える姿……もしかして……」


「建具屋のコイズだね!」


 聖職者おねーちゃんの示す方向をへ目をやる。

 宿場街から【野ウサギと木漏れ日亭(こちら)】に向かってくるのは何かを抱えた小さなニンゲン。

 遠目でも見間違いようのない、覚えのある少年の姿だ。



「そこでも何か始まるようだぞ」



 暴魔ウィーの視線の先は宿の庭。

 その開けた空間に見えるのは、印象的すぎる鮮やかな黄緑色の髪を二つ尾(ツインテール)にした勇者さまとかいう女の子だった。



「行ってみましょうか……と。アヤちゃん~抱っこお願いしますわ~」



 正直に甘えてくるおねーちゃんが愛おしい。

 喜んで聖職者おねーちゃんを抱えると甘く華やかな香りが鼻をくすぐる。

 もう嗅ぎなれた匂いのハズなのに、ドキドキして不安を忘れさせてくれる。

 ずっとこうしてたいな……



「アヤちゃん~?」


「あ、ごめん! 行こう!」



 ボクは飛行の幻術を使い、宿の庭へと降り立った。

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